施設ケアマネジャーの仕事では、利用者の施設サービス計画を作成・見直すだけでなく、家族への説明や意向確認に関わる場面があります。転倒、体調変化、認知症症状の変化、食事量の低下、生活上の不安など、家族へ丁寧な説明が必要になることは少なくありません。
家族対応で難しいのは、分かりやすく話すことだけではありません。家族が不安を感じている場面では、説明の順番、施設内で確認した事実、今後の対応方針、家族の意向確認がつながっていないと、不信感が強まることがあります。
また、事故や苦情、医療的判断を伴う場面では、施設ケアマネが一人で判断して説明を進めることは適切ではありません。管理者、生活相談員、看護職、介護職リーダーなどと情報を共有し、施設として対応することが基本です。施設ケアマネは、その中で利用者の生活課題、施設サービス計画、多職種の支援方針、家族の意向をつなぐ役割を担います。
1 家族対応は「施設ケアマネ個人」ではなく「施設チーム」で行う
施設ケアマネが家族対応で迷いやすいのは、「どこまで自分が説明してよいのか」という点です。家族から電話が入り、「母が転んだと聞いたが、どういうことですか」「なぜもっと早く知らせてくれなかったのですか」と強い口調で問われることがあります。
このとき、施設ケアマネが単独で「大丈夫です」「けがはありません」「しばらく様子を見ます」と答えてしまうと、後で大きな問題になる可能性があります。身体状態の確認には看護職の判断が関わります。事故としての扱い、家族連絡、自治体への事故報告の要否、再発防止策の検討は、施設全体で確認する必要があります。
たとえば、利用者A様が居室でベッド横に座り込んでいるところを職員が確認した場面を考えます。この時点では、「転倒した」のか、「自分で床に座った」のか、「立ち上がれなくなった」のかが明確でない場合もあります。だからこそ、第一報では、確認できている事実と、これから確認する内容を分けて伝える必要があります。
ここで大切なのは、家族への説明を遅らせることではありません。速やかに連絡が必要な場面では、施設の手順に沿って家族へ連絡することが大切です。そのうえで、説明内容は「ケアマネ個人の判断」ではなく、「施設として確認した内容」に基づく必要があります。
施設ケアマネには、制度上の介護支援専門員としての役割に加え、施設内の実務として、生活課題、支援方法、施設サービス計画にどのような影響があるかを整理する役割があります。家族対応の入口で一人で抱え込まず、組織対応につなげることが、利用者、家族、職員を守る実務になります。
2 家族説明の型は「状況→確認内容→施設方針→家族の意向」
家族説明では、話す内容をその場で考えるより、基本の型を持っておくと対応が安定します。特に事故や状態変化が関係する場面では、説明の順番が重要です。
状況|確認できている事実を伝える
最初に伝えるのは、確認できている事実です。日時、場所、誰が確認したのか、現在どのような対応をしているのかを簡潔に伝えます。
たとえば、次のような伝え方です。
「本日15時頃、居室内でベッド横に座り込んでいるところを現場職員が確認しました。すぐに看護職へ報告し、現在、状態確認を行っています」
この説明では、「転倒した」と断定していません。発見時の事実を伝えたうえで、看護職へ報告し、状態確認を行っていることを示しています。家族は「何が起きたのか」と同時に、「施設が何をしているのか」を知りたいものです。
確認内容|誰が、何を確認しているかを示す
次に、施設内でどの職種が何を確認しているのかを伝えます。
「看護職が痛みの訴え、動きの様子、バイタル等を確認しています。介護職からは発見時の状況を確認し、記録を整理しています」
このように説明すると、家族は施設が組織として動いていることを理解しやすくなります。逆に、「大丈夫だと思います」「たぶん問題ありません」という表現は避けたいところです。根拠が曖昧な説明は、後で状態が変化したときに不信感へつながります。
施設ケアマネが説明に関わる場合も、看護職の確認、現場記録、管理者の判断を踏まえた説明であることを明確にします。
施設としての方針|このあと何をするかを伝える
家族が最も不安に感じるのは、「このあと、どうしてくれるのか」が見えないときです。状態確認をした後は、施設としての方針を伝えます。
たとえば、次のような内容です。
・状態観察を継続する
・必要に応じて医師や協力医療機関へ相談する
・居室環境や見守り方法を確認する
・事故報告の要否について、各自治体の要領に沿って確認する
・施設サービス計画の見直しが必要か確認する
ここで箇条書きを使う目的は、対応項目を整理するためです。ただし、実際の説明では、単に項目を並べるだけでは不十分です。
たとえば、「しばらく見守ります」だけでは、家族には何を見守るのかが伝わりません。「本日は歩行時のふらつき、痛みの訴え、食事や水分摂取の様子を重点的に確認します」と伝えることで、観察の内容が具体的になります。
家族の意向|希望と不安を確認する
施設の方針を伝えた後は、家族の意向を確認します。
「ご家族として、受診や面会についてご希望はありますか」
「今回のことで、特に心配されている点を教えてください」
家族の意向を聞くことは、すべての希望をそのまま約束することではありません。本人の状態、施設の対応手順、医療職の判断、施設で可能な支援を踏まえて、現実的な対応を検討します。
家族にとって大切なのは、自分たちの不安や希望が無視されていないと感じられることです。施設ケアマネは、本人の生活を支える視点から、家族の思いを支援方針に反映できる部分を整理していきます。
3 期待調整は「できること・難しいこと・取り組むこと」で伝える
家族対応では、期待調整も重要です。入所すれば転倒が完全になくなる、認知症の症状が落ち着く、体調変化をすぐに防げる。家族がこのような期待を持っている場合、施設の支援内容と家族の受け止めにズレが生じます。
ただし、「施設でも転倒は防げません」とだけ伝えると、家族には冷たい説明に聞こえます。安全配慮を放棄しているように受け止められる可能性もあります。
そこで、期待調整では次の三つを分けて伝えます。
できること|施設として具体的に行う支援を示す
「できること」とは、施設が実際に取り組める支援です。
居室環境の確認、動線の見直し、福祉用具の確認、見守り方法の変更、動き出しやすい時間帯の把握、多職種での情報共有などが含まれます。
「夜間にベッドから立ち上がる場面が増えているため、居室内の動線、履物、ベッド周囲の環境を確認します。あわせて、夜間帯の声かけや見守り方法を介護職間で共有します」
このように説明すると、家族は施設が具体的に動いていることを理解しやすくなります。
難しいこと|生活上のリスクを現実的に伝える
高齢者施設では、利用者の生活の自由、本人の意思、身体機能の変化、安全確保のバランスを取りながら支援します。そのため、生活上のリスクを完全にゼロにすることは困難です。
ただし、リスクがゼロにできないことは、安全配慮を緩めてよいという意味ではありません。施設は、安全配慮の視点を持ち、環境調整や支援方法の見直しに取り組みます。
家族へは、次のように伝えると安全です。
「転倒リスクを完全にゼロにすることは難しい面がありますが、動き出しの傾向を確認し、環境と支援方法を見直します」
この表現では、難しさを伝えながらも、施設としての対応を同時に示しています。家族対応では、「できない理由」だけを伝えず、「だから何をするのか」まで説明することが大切です。
取り組むこと|今後の支援方針につなげる

期待調整の最後は、今後の取り組みです。
たとえば、転倒リスクが高まっている場合は、動き出しの時間帯、排泄パターン、睡眠状況、服薬状況、認知症症状の変化などを確認します。そのうえで、必要に応じて施設内の多職種カンファレンスで支援方法を検討し、施設サービス計画の見直しにつなげます。
家族へは、次のように伝えると分かりやすくなります。
「今後数日間、夜間の動き出しや歩行状態を記録し、介護職、看護職、施設ケアマネで確認します。支援内容の変更が必要な場合は、改めてご説明し、ご意見を伺います」
期待調整とは、家族の希望を下げることではありません。本人の状態と施設でできる支援を丁寧に共有し、家族と同じ方向を向くための説明です。
4 クレーム初動は「傾聴」と「即時共有」を同時に行う
家族から強い不満が出たとき、施設ケアマネは何とかその場で説明しようとしがちです。しかし、事故、説明不足、虐待疑い、身体的拘束、医療判断、職員対応への不信が含まれる場合は、早い段階で管理者や責任者へ共有する必要があります。
クレーム初動で大切なのは、家族の訴えを受け止めることと、組織対応へつなげることを同時に行うことです。
ここでいう「受け止め」は、責任をすべて認めることではありません。家族が不安や怒りを感じている事実を受け止めることです。
「ご心配をおかけしています。状況を確認し、施設として改めてご説明します」
「ご不安に感じられた点を確認し、管理者とも共有します」
「現時点で確認できていることと、これから確認することを分けて整理します」
このような言葉は、家族の感情を無視せず、同時に不用意な断定を避ける表現です。
一方で、避けたい表現もあります。
「たぶん大丈夫です」
「現場がそう言っているので問題ありません」
「ケアマネの私が確認しておきます」
「施設としては悪くありません」
これらの表現は、家族には防衛的に聞こえやすく、施設内の事実確認や組織対応を弱めてしまうおそれがあります。強い不満が出た場面ほど、個人の説明力で解決しようとせず、管理者や関係職種と共有し、統一した説明へつなげることが重要です。
5 記録は「次の説明」と「支援の見直し」を支える
家族対応の後は、記録が重要になります。記録は、単なるメモではありません。次回の説明、施設内共有、支援内容の見直し、再発防止の検討を支える根拠になります。
記録に残したい内容は、次のような項目です。
・家族からどのような訴えがあったか
・誰が、いつ、どのように対応したか
・施設側が何を説明したか
・確認が必要な事項は何か
・管理者や関係職種へ共有した内容
・今後の対応方針
・施設サービス計画の見直しが必要か
箇条書きで整理すると簡単に見えますが、実際には「経過が第三者にも分かる」ことが大切です。
たとえば、「家族より苦情あり」とだけ書くと、何に対する不満なのか、施設が何を説明したのか、次に何をするのかが分かりません。
「長男より電話あり。昨日の居室内での座り込みについて、連絡時刻が遅かったのではないかとの不安と不満の訴えあり。現時点で確認できている発見時刻、看護職の確認、今後の状態観察について説明。連絡経過については管理者、生活相談員と確認し、明日午前中に改めて説明することを伝えた」
このように書くと、家族の訴え、説明内容、未確認事項、次の対応が残ります。施設ケアマネは、こうした記録をもとに、必要に応じて施設サービス計画や支援方法の見直しにつなげます。
6 施設サービス計画の見直しにつなげる視点
状態変化や事故、生活上のリスクが明らかになった場合、施設ケアマネは施設サービス計画との関係を確認します。
たとえば、次のような変化がある場合です。
・転倒や座り込みが繰り返される
・食事量や水分摂取量が低下している
・認知症症状の変化により不安や混乱が増えている
・夜間の動き出しが増えている
・医療的管理や観察の必要性が高まっている
・家族の意向や不安が支援方針に影響している
これらは、単なる「家族対応の話」で終わらせる内容ではありません。利用者の生活課題や支援内容に関係するため、施設内の多職種カンファレンスで情報を整理し、施設サービス計画の見直しが必要か確認します。
施設サービス計画の変更が必要な場合は、施設ケアマネが中心となり、施設の手順に沿って多職種と連携しながら進めます。具体的には、サービス担当者会議、家族への説明、同意、交付などの手続きが関係します。実際の運用は施設種別や施設内の手順によって異なるため、自施設の規程や運営基準に沿って確認することが大切です。
家族へは、次のように伝えると安全です。
「今回の状態変化を踏まえ、施設内で支援内容を確認します。施設サービス計画の見直しが必要な場合は、改めてご説明し、ご意見を伺ったうえで、施設の手順に沿って進めます」
この説明であれば、家族に意向確認の機会を示しつつ、施設サービス計画の見直しを任意のサービスのように軽く扱う印象を避けられます。
まとめ
施設ケアマネの家族対応では、説明のうまさだけでなく、組織対応につなげる視点が欠かせません。
家族説明は、「状況→確認内容→施設としての方針→家族の意向」の順に行うと、誤解を防ぎやすくなります。事故や苦情が関係する場合は、管理者や関係職種へ速やかに共有し、施設の手順や各自治体の事故報告要領に沿って対応します。
期待調整では、「できること・難しいこと・取り組むこと」を分けて伝えることが大切です。生活上のリスクを完全にゼロにすることは困難ですが、安全配慮の視点を持ち、本人の生活を守るために施設として何を確認し、何を見直すのかを具体的に示します。
施設ケアマネは、家族対応を一人で背負う職種ではありません。多職種と連携しながら、利用者の生活、家族の不安、施設サービス計画をつなぐ役割を担います。家族対応を組織的に進めることで、説明の食い違いを防ぎ、利用者にとって必要な支援を継続しやすくなります。
参考・出典
・厚生労働省「事故発生時の対応について」
・厚生労働省「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」
・厚生労働省「事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」
・各自治体の介護保険施設等における事故報告取扱要領
関連リンク
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