介護保険制度に基づく介護事業所では、自然災害や感染症に備えた業務継続計画(BCP)の策定が求められています。すでにBCPを作成し、ファイルとして保管している事業所も多いと思います。
ただ、介護BCPは、書類が完成した時点で安心できるものではありません。地震、風水害、感染症の発生時に、誰が初動を判断し、どの情報を確認し、どの順番で利用者支援を続けるのか。そこまで現場で共有されていて、BCPは初めて実務に生きてきます。
この記事で確認できること
・介護BCPを「作って終わり」にしないための考え方
・自然災害BCPで確認したい初動対応と優先順位
・感染症BCPで確認したいゾーニング、職員体制、サービス継続
・研修・訓練・見直しを現場の実務につなげるポイント
・業務継続計画未策定減算と運営基準上の取組の整理
令和6年度介護報酬改定では、業務継続計画未策定減算が導入されています。厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.6)」(介護保険最新情報Vol.1263別紙)問7では、感染症または災害の業務継続計画が未策定の場合や、当該計画に従い必要な措置が講じられていない場合に、減算の対象となることが示されています。
この記事では、介護BCPを現場で機能させるために、自然災害・感染症対策で確認しておきたい実務ポイントを整理します。
※本記事では、主に介護保険法に基づく介護サービス事業所を対象として説明しています。
介護BCPとは|自然災害・感染症発生時に介護サービスを継続するための計画
介護BCPは、自然災害や感染症が発生したときに、介護サービスをできる限り継続するための計画です。平常時と同じサービス提供が難しくなっても、利用者の安全を守り、必要な支援をどの順番で続けるのかを明確にしておく役割があります。
介護サービスは、利用者の生活そのものを支えています。食事、排泄、服薬、医療的ケア、安否確認、家族連絡など、止めにくい支援が多くあります。災害や感染症の発生時にすべてを通常どおり行うことは難しくても、優先して継続する業務を判断できる状態にしておくことが欠かせません。
BCPで確認すべき内容は、サービス種別によって変わります。入所施設では、停電、断水、食事提供、夜勤体制、医療的ケア、避難判断などが大きな課題になります。通所介護では、送迎中の災害、営業中止の判断、利用者・家族への連絡、帰宅困難時の対応が重要です。訪問介護や訪問看護では、職員の安全確保、訪問優先順位、独居高齢者への安否確認、道路状況の把握が欠かせません。
感染症BCPでは、自然災害とは別の判断が必要になります。感染者や感染が疑われる利用者への対応、ゾーニング、個人防護具の使用、職員の出勤可否、サービス縮小時の優先順位、家族や関係機関への連絡など、状況を見ながら継続して判断していく場面を想定する必要があります。
現場で起こりやすいのは、BCPの中に必要事項は書かれているものの、職員が実際の動きをイメージできていない状態です。災害時の連絡網があっても、最初に誰が管理者へ報告するのか、停電時にどの機器を優先するのか、感染者が出た場合に誰が家族連絡を担うのかが曖昧なままでは、初動に遅れが出ます。
現場で確認したい場面
・地震発生直後に、誰が利用者の安全確認を行うか
・送迎中に災害が起きた場合、どこへ連絡するか
・夜間帯に停電した場合、どの機器や利用者対応を優先するか
・感染者が発生した場合、ゾーニングと家族連絡を誰が担うか
・職員不足時に、どの業務を優先して継続するか
介護BCPは、非常時だけに使う特別な書類ではありません。平時から、連絡体制、備蓄、記録、役割分担、利用者情報の管理を確認するための実務ツールとして活用していくものです。

介護BCPを現場で動かす方法|研修・訓練・見直しで確認したい実務ポイント
介護BCPを現場で機能させるには、計画書の保管だけでなく、職員が自分の役割を理解し、実際の場面で動ける状態にしておくことが必要です。そのために軸となるのが、研修・訓練・定期的な見直しです。
まず確認したいのは、職員への周知です。BCPの内容を全職員が細かく暗記する必要はありません。ただし、災害時や感染症発生時に、どこを見ればよいのか、誰に報告するのか、利用者支援の優先順位をどう考えるのかは、日頃から共有しておきたいところです。
訓練の内容も見直しが必要です。避難訓練だけでは、介護BCPの確認として十分とは言えない場合があります。自然災害BCPでは、停電時の対応、エレベーター停止、断水、備蓄確認、送迎中の連絡、家族への情報提供などを確認します。感染症BCPでは、発生時の初動、ゾーニング、個人防護具の着脱、職員の勤務調整、サービス縮小時の優先順位を確認します。
現場で取り組みやすい確認項目は、次のとおりです。
- 連絡体制
管理者、職員、家族、居宅介護支援事業所、医療機関、行政への連絡方法を確認します。 - 利用者情報
医療情報、服薬、緊急連絡先、ADL、認知症状、避難時の配慮事項を確認します。 - 職員体制
出勤可否、参集基準、夜間帯や休日の判断、職員不足時の業務優先順位を確認します。 - 備蓄・物品
食料、水、衛生用品、個人防護具、発電機、懐中電灯、通信手段の保管場所と使用方法を確認します。 - 記録と振り返り
訓練や実際の対応後に、うまくいった点、迷った点、改善が必要な点を記録します。
訓練は、実施回数を残すだけで終わらせないことが大切です。訓練後には、連絡がつながらなかった、備蓄場所が分からなかった、職員の役割が重なった、家族連絡の文面が決まっていなかったなど、実際に動いてみて初めて分かる課題が出てきます。
その課題をBCP本文、マニュアル、連絡票、備蓄リストに反映していくことで、計画は少しずつ現場の実務に近づきます。BCPの見直しは、書類を直す作業にとどまらず、非常時の判断を具体化する作業です。
また、管理者だけがBCPを把握している状態では、非常時の混乱を防ぎきれません。介護職、看護職、生活相談員、ケアマネジャー、機能訓練指導員、事務職など、それぞれの職種が災害時・感染症発生時に何を担うのかを確認しておくことで、初動対応が取りやすくなります。
業務継続計画未策定減算と運営基準|研修・訓練をどう位置づけるか
令和6年度介護報酬改定で導入された業務継続計画未策定減算では、減算要件と運営基準上の取組を分けて理解しておく必要があります。
厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.6)」(介護保険最新情報Vol.1263別紙)問7では、感染症または災害のいずれか、または両方の業務継続計画が未策定の場合や、当該計画に従い必要な措置が講じられていない場合に、減算の対象となることが示されています。
同じ問7では、令和3年度介護報酬改定で業務継続計画の策定と同様に義務付けられた、業務継続計画の周知、研修、訓練、定期的な業務継続計画の見直しの実施の有無は、業務継続計画未策定減算の算定要件ではないとも整理されています。
しかし、この記載は実務上とても誤解しやすい部分です。
つまり、これは研修や訓練をしなくてよいという解釈でと捉えるのではなく、 BCPの周知、研修、訓練、定期的な見直しは、別途、運営基準等に基づき取り組む事項として確認しておく必要があると理解しておくことが賢明です
減算の算定要件だけを見て判断すると、BCP運用の全体像を見落とすおそれがあります。運営基準上の取組として、BCPを職員に周知し、研修や訓練を行い、必要に応じて見直すことが求められます。研修記録、訓練記録、見直しの記録が残っていなければ、運営指導の場面で説明が難しくなる可能性があります。
また、業務継続計画未策定減算の適用開始時期や経過措置、対象サービスごとの取扱いは、サービス種別によって確認が必要です。自事業所での算定上の扱いは、厚生労働省の告示・通知・Q&A、自治体からの案内で確認しておくと安心です。
減算と運営基準の整理
・業務継続計画未策定減算
感染症または災害のBCPが未策定の場合や、当該計画に従い必要な措置が講じられていない場合に関係します。
・運営基準上の取組
BCPの周知、研修、訓練、定期的な見直しなど、計画を現場で機能させるための取組が求められます。
・実務上の確認
研修や訓練の記録、見直しの記録を残し、BCPが形だけになっていないことを説明できる状態にしておくことが大切です。
安全側で考えるなら、BCPは「作成しているか」だけで判断せず、職員への周知、研修、訓練、見直しまで一連の運用として確認しておきたいところです。制度上の減算要件と、運営基準上の取組を分けて理解しながら、実務では両方を満たす状態を目指します。
まとめ
介護BCPは、作成して保管しておくだけで十分とは言えません。自然災害や感染症が発生したときに、利用者の安全を守り、必要な介護サービスを継続するためには、平時から現場で使える形にしておくことが大切です。
令和6年度介護報酬改定では、業務継続計画未策定減算が導入されました。感染症または災害のBCPが未策定の場合や、当該計画に従い必要な措置が講じられていない場合には、減算の対象となります。
一方で、BCPの周知、研修、訓練、定期的な見直しは、減算要件とは分けて理解しつつ、運営基準上の取組として確実に実施・記録しておきたい事項です。対象サービス、適用時期、経過措置などは、厚生労働省の最新通知や自治体の案内で確認してください。
まずは、自事業所のBCPを開き、連絡体制、利用者情報、職員体制、備蓄、訓練記録を確認してみることから始めるとよいでしょう。介護BCPは、書類の完成度だけでなく、非常時に現場で動ける状態をつくることに意味があります。
【次回の内容】
次回は、「介護職員等処遇改善加算を“取るだけ”で終わらせない|人材定着につなげる運用術」をテーマを取り上げます。
【研修を企画されている方へ】
本テーマに関する研修も対応しております。
事業所での所内研修から講演会まで、各種の研修企画をお引き受け可能です。
介護報酬改定、加算算定、制度改正対応、LIFE、生産性向上、BCP、処遇改善、介護情報基盤など、事業所の実情に応じて職員向け・管理者向けの内容に調整しながらご提案可能です。
参考・出典
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html - 厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1263」
https://www.mhlw.go.jp/content/001255245.pdf - 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/douga_00002.html
関連リンク
【介護キャンパスのトップページ】はこちら
【介護報酬改定と算定の解説】の一覧はこちら


