認知症ケアは、介護現場の日常業務と深く関わる実践領域です。食事、入浴、排泄、移動、服薬、睡眠、家族対応など、生活支援の多くの場面で、認知症への理解が求められます。
近年、認知症ケアをめぐる制度的な位置づけは大きく変化しています。令和6年1月1日に「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行され、令和6年12月3日には「認知症施策推進基本計画」が閣議決定されました。
これらは、認知症ケアを単なる症状への対応として捉えるのではなく、本人の尊厳、意思、希望、地域での暮らしを支える実践として見直す大きな流れを示しています。
認知症基本法が示す方向性
認知症基本法は、認知症の人を含む国民一人ひとりが、人格と個性を尊重し合いながら支え合う共生社会の実現を推進することを目的としています。
同法では、認知症の人が基本的人権を有する個人として、自らの意思により日常生活と社会生活を営むことができるようにされることが、基本理念として示されています。
これは、本人にすべてを単独で決定させるという意味ではありません。本人の意思を確認し、必要な説明、見守り、家族や関係職種との連携を行いながら、その人らしい生活を支えるという考え方です。
介護現場では、認知症のある利用者の言動を「困った行動」として受け止める前に、本人が何に不安を感じているのか、何を伝えようとしているのかを確認する姿勢が欠かせません。
「新しい認知症観」とは何か
国の認知症施策推進基本計画では、「新しい認知症観」という考え方が示されています。
これは、認知症になったら何もできなくなるという見方を改め、認知症になってからも一人ひとりにできること、やりたいことがあり、希望を持って自分らしく暮らし続けることができるという考え方です。
この視点は、現場の認知症ケアに直結します。
たとえば、入浴を拒む背景には、寒さへの不安、裸になることへの抵抗、浴室環境への違和感、痛み、疲労、過去の経験、職員との関係性などが関係している場合があります。
帰宅を繰り返し訴える場合も、住み慣れた場所への思い、家族への心配、役割を果たしたい気持ち、今いる場所への戸惑いが含まれていることがあります。
表に出ている行動だけで判断すると、本人の状態や思いを見落とすおそれがあります。言葉、表情、しぐさ、生活歴、体調、環境を総合的に確認することが、認知症ケアの基本になります。
BPSDとチームで行う認知症ケア
認知症ケアでは、BPSDという言葉が使われます。BPSDは、認知症に伴って見られる行動・心理症状を指し、不安、興奮、暴言、拒否、歩き回り、睡眠の乱れなどが含まれます。
令和6年度介護報酬改定では、施設系サービス等の一部を対象に、認知症チームケア推進加算が設けられました。この加算は、すべての介護サービスで算定できるものではありません。算定可否や要件は、サービス種別、事業所体制、厚生労働省の通知・Q&A等を確認する必要があります。
本記事では、同加算の算定要件を詳しく解説するものではありません。ここで確認したいのは、加算の有無にかかわらず、BPSDを本人だけの問題として片づけない視点です。
BPSDには、身体の不調、痛み、便秘、睡眠不足、薬の影響、環境の変化、生活リズム、職員の関わり方などが関係することがあります。
「なぜ今この行動が起きているのか」「本人は何に困っているのか」「環境や関わり方を変えることで軽減できるか」をチームで確認することが、認知症ケアの質を高めます。
認知症ケアと権利擁護

認知症ケアは、権利擁護や身体拘束防止とも深く関わります。
認知症のある利用者への対応では、転倒リスク、立ち上がり、歩き回り、拒否、不安、興奮などを理由に、行動を過度に制限する発想へ傾きやすい場面があります。
安全確保は重要です。その一方で、本人の尊厳や意思を軽視した対応は、不適切ケアや身体拘束につながるおそれがあります。
本人の安全を守りながら、自由や尊厳も守るためには、職員個人の判断だけに任せず、チームで情報を共有し、リスクと支援方法を検討することが大切です。
現場で確認したい3つの視点
認知症基本法と新しい認知症観を踏まえると、日々の認知症ケアでは次の3点を確認しておきたいところです。
第一に、本人の意思を確認することです。
認知症があるから意思確認ができないと決めつけず、言葉、表情、しぐさ、生活歴から本人の思いを確認します。
第二に、行動の背景を確認することです。
拒否、不安、怒り、落ち着かなさには背景があります。本人の体調、環境、生活リズム、職員の関わり方を含めて確認します。
第三に、チームで対応を共有することです。
うまくいった声かけ、避けた方がよい関わり、安心しやすい時間帯や場所、体調変化との関係を記録し、職員間で共有します。
まとめ
認知症基本法と認知症施策推進基本計画は、これからの認知症ケアを考えるうえで重要な基盤になります。
認知症の人を「できない人」「困った行動をする人」と見る視点から離れ、意思や希望を持ち、生活を続ける一人の人として支える姿勢が求められています。
本人の言葉を丁寧に受け止めること、行動の背景を確認すること、できることを見つけること、チームで支援を共有すること。
この積み重ねが、本人主体の認知症ケアにつながります。
出典
- 厚生労働省「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」
- 厚生労働省「認知症施策推進基本計画」
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」
- 厚生労働省「認知症チームケア推進加算に関する通知・Q&A」
- 厚生労働省「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について(令和8年3月改訂)」
- 厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」


