通所介護(デイサービス)では、入浴、送迎、食事など、限られた時間の中で多くの支援が行われます。職員は、安全確認、体調把握、移動介助、食事介助、記録、家族連絡などに目を配りながら、一日の支援を進めています。
その一方で、現場が忙しい場面では、本人の意思や不安が十分に確認されないまま支援が進むことがあります。こうした小さな積み重ねが、不適切ケアや虐待の芽につながる場合があります。
本記事では、主に介護保険サービスである通所介護を前提に、入浴・送迎・食事場面で見直したい支援のポイントを整理します。障害福祉の通所系サービスにも共通する視点はありますが、根拠法令や運営基準、報酬上の取扱いは異なります。障害福祉サービスで活用する場合は、該当サービスの基準や自治体資料を確認してください。
通所介護で不適切ケアが起こりやすい場面とは
通所介護で不適切ケアが起こりやすいのは、職員が「安全のため」「時間に間に合わせるため」「他の利用者への影響を避けるため」と考えて対応している場面です。現場判断は必要ですが、本人への説明や同意確認が薄くなると、支援を受ける側には強制や威圧として伝わることがあります。
入浴場面では、「今日は入浴日だから」と本人の拒否を十分に確認しないまま誘導してしまうことがあります。清潔保持は大切ですが、拒否の背景には、寒さ、疲労、羞恥心、痛み、転倒への不安、職員との関係などが隠れていることがあります。
本人の拒否を「わがまま」と受け止めると、状態変化や不安を見落とすおそれがあります。拒否には、本人なりの理由があるという視点を持つことが大切です。
送迎場面では、車両の時間、ルート、他利用者の待ち時間が気になり、職員が利用者を急がせやすくなります。歩行が不安定な方や認知症のある方は、急な声かけや予定変更で混乱しやすくなります。
「早くしてください」という言葉が続くと、本人は責められているように感じる場合があります。職員に悪意がなくても、声の大きさ、表情、立ち位置、手の引き方によって、利用者には強い圧迫感として伝わることがあります。
食事場面では、誤嚥予防や低栄養予防の意識から、職員が食事量や食べる速度に注目しがちです。しかし、「残さないでください」「もう少し食べてください」という声かけが繰り返されると、本人のペースや意欲が置き去りになります。
食事介助では、食べた量だけを見るのではなく、次のような点を確認します。
- ひと口量
本人にとって無理のない量になっているか。 - 姿勢と飲み込み
むせ込み、疲労、飲み込みにくさがないか。 - 食べる意欲
体調、口腔内の痛み、気分の落ち込みが影響していないか。 - 声かけの内容
本人を急がせたり、責めたりする言い方になっていないか。
通所介護では、虐待防止に関する運営基準や報酬上の取扱いを踏まえた体制整備が求められます。高齢者虐待防止措置については、委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者の配置など、厚生労働省資料や自治体の集団指導資料で確認すべき事項があります。
これは、現場職員の心がけだけで代替できるものではありません。日々の支援の見直しと、事業所としての体制整備の両方が必要になります。
また、身体的拘束等については、利用者または他の利用者等の生命や身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、行ってはならないとされています。やむを得ず身体的拘束等を行う場合には、その態様、時間、利用者の心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録する必要があります。
具体的な運用は、運営基準、厚生労働省通知、指定権者の資料を確認し、事業所だけの判断で広げて解釈しないことが大切です。
事例:入浴を拒否する利用者A様
利用者A様が、脱衣室の前で「今日は入りたくない」と話しました。職員が急いでいたため、「すぐ終わりますから」と声をかけて誘導しようとしました。しかし、表情は硬く、肩にも力が入っていました。確認すると、「浴室が寒い」「前にふらついたことが怖い」と話されました。
この場合、「拒否がある利用者」と記録するだけでは、支援の見直しにつながりにくくなります。寒さへの配慮、転倒不安への対応、声かけのタイミングを確認することで、次回の支援に活かしやすくなります。
つまり、不適切ケアの防止は、日々の声かけや支援方法の見直しに加え、虐待防止措置や身体的拘束等に関する基準を踏まえた組織的対応が土台になります。
入浴・送迎・食事場面で見直したい支援のポイント

入浴場面で大切なのは、拒否をすぐに説得対象にしないことです。本人が「入りたくない」と言ったときは、「寒いですか」「疲れていますか」「どこか痛みますか」など、答えやすい言葉で確認します。
本人の言葉だけで判断しにくい場合は、表情、体のこわばり、歩行状態、前回入浴時の様子、家族からの情報も含めて確認します。拒否の理由を探ることは、本人の尊厳を守る支援につながります。
羞恥心への配慮も重要です。脱衣室や浴室では、タオルで身体を覆う、声量を下げる、他利用者から見えにくい環境をつくる、介助中の職員同士の私語を控えるなど、細かな配慮が求められます。
介助を受ける本人にとって、入浴は生活支援であると同時に、身体を他者に委ねる繊細な時間です。職員にとっては日常業務でも、本人にとっては不安や恥ずかしさを伴う場面であることを忘れないようにします。
送迎場面では、急がせる声かけを減らし、見通しを伝えることが効果的です。「今から車に乗ります」「玄関で靴を履きます」「事業所に着いたらお茶を飲みます」など、次に起こることを短く伝えるだけでも、安心につながります。
乗降時は、職員の立ち位置、手すりの使用、段差、足元、荷物の扱いを確認します。送迎は移動の時間であると同時に、事業所の支援が始まり、終わる大切な場面です。
送迎中に不安や混乱が強い利用者がいる場合は、送迎担当者だけで抱え込まないことが大切です。事業所内で情報を共有し、座席位置、声かけ、乗車順、家族への事前説明、ケアマネジャーへの報告などを検討します。
食事場面では、本人のペースを尊重しながら、誤嚥や窒息のリスクを確認します。食事量が少ない場合も、すぐに「食べさせる」方向へ進めず、体調、睡眠、便秘、口腔内の痛み、気分の落ち込み、食形態の合いにくさを確認します。
食事介助では、次の確認が役立ちます。
- 口に運ぶタイミング
本人が飲み込む前に、次のひと口を急がせていないか。 - 本人の表情
苦しさ、疲れ、嫌がる様子が出ていないか。 - 食事姿勢
姿勢が崩れ、むせ込みやすくなっていないか。 - 声かけ
食べる意欲を支える言葉になっているか。
記録も重要です。ただし、ケース記録に書いて終わる形では、支援の見直しにつながりにくくなります。たとえば、「入浴拒否あり」だけでは、本人の状態や職員の対応が見えません。
記録例:支援の経過が見える書き方
「脱衣室に入る前から表情が硬く、『今日は寒いから入りたくない』との発言あり。浴室温度を確認し、足浴を提案したところ了承。次回は入浴前の声かけと浴室環境を確認する。」
このように記録すると、本人の発言、職員の対応、代替案、次回の確認点が見えやすくなります。記録は、職員を責めるためではなく、次の支援をより安全にするための情報です。
記録は具体的に残すことが大切ですが、個人情報保護の観点から、記載内容、保存、共有、閲覧権限、家族等への情報提供は、事業所の規程に沿って扱います。支援経過を共有する場合も、必要な範囲で、必要な相手に、目的を明確にして行うことが基本です。
同じ拒否や不安が続く場合は、管理者、リーダー、虐待防止担当者、生活相談員、看護職員、介護支援専門員と共有し、必要に応じてケアプランやサービス提供方法の見直しにつなげます。
管理者やリーダーは、職員から「対応が難しい」「時間がかかる」「毎回拒否がある」という声が出たときこそ、支援を見直すきっかけとして受け止めます。その背景には、職員の負担、手順の曖昧さ、環境の課題、家族との情報共有不足、アセスメント不足が含まれている場合があります。
通所介護の入浴・送迎・食事は、毎日繰り返される支援です。慣れた対応の中にある小さな違和感に気づくことが、不適切ケアの防止につながります。
まとめ
通所介護で不適切ケアを防ぐには、入浴・送迎・食事という日常場面を丁寧に振り返ることが大切です。本人の意思確認、説明、羞恥心への配慮、急がせない声かけ、食事ペースの尊重は、現場で確認できる実務上の重要な視点です。
一方で、虐待防止や身体的拘束等への対応は、職員個人の意識だけで完結するものではありません。高齢者虐待防止措置、身体的拘束等の禁止と記録、事業所内での共有、ケアマネジャーとの連携など、基準や通知を踏まえた組織的な対応が必要です。
現場で感じた小さな違和感を記録し、必要な範囲で共有し、支援方法の見直しにつなげることが、本人の尊厳を守り、職員を守る実務になります。
【次回の内容】
次回は、虐待を疑ったらどうする? 居宅ケアマネが押さえたい初動と連携の基本を取り上げます
【参考・出典】
厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」
厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」
厚生労働省「介護保険最新情報」関連通知・Q&A
※実際の運用は、厚生労働省資料に加え、指定権者の集団指導資料・運用通知を確認してください。
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