居宅ケアマネジャーは、訪問時のあざ、表情の変化、サービス利用の中断、家族の疲弊などから、高齢者虐待が疑われるサインに気づくことがあります。
在宅生活で把握される虐待の多くは、高齢者虐待防止法上の「養護者による高齢者虐待」として扱われます。疑いの段階で一人で判断を抱え込まず、事実を記録し、市町村や地域包括支援センターへ通報・相談につなげることが大切です。
この記事で分かること
・家族など養護者による高齢者虐待が疑われるサイン
・居宅ケアマネが初動で残したい記録のポイント
・市町村や地域包括支援センターへの通報・相談の考え方
・本人の安全を守るための連携の基本
本記事では、主に介護保険サービスに関わる居宅ケアマネジャーを想定し、家族など養護者による高齢者虐待が疑われる場面での初動対応の方法、記録の書き方、通報・相談、そして連携の基本を確認します。障害福祉分野にも共通する視点はありますが、根拠法令や相談窓口、対応の流れは異なります。障害者虐待防止法に基づく相談窓口は、自治体によって名称や担当部署が異なるため、障害福祉サービスで対応する場合は、自治体の最新の窓口情報を確認してください。
居宅ケアマネが虐待を疑う場面で迷いやすいポイント

居宅ケアマネが虐待を疑う場面は、明らかな暴力や放置だけではありません。訪問時の会話、本人の表情、家族の態度、生活環境、サービス利用状況の変化など、日常の中に見逃しやすいサインが現れることがあります。
たとえば、次のような場面では注意が必要です。
- 身体に不自然なあざや傷がある
転倒や介助時の接触だけでは説明しにくい傷が繰り返されている。 - 本人が家族の前で急に黙る
家族が同席すると、本人が表情を変えたり、発言を控えたりする。 - 必要なサービスが急に中止される
通所介護、訪問介護、訪問看護、ショートステイなどの利用が、理由不明のまま減っている。 - 家族や養護者の疲弊が強くなっている
介護負担、睡眠不足、経済的不安、孤立感が重なり、限界に近い様子がある。 - 金銭管理や生活環境に違和感がある
本人の年金や預貯金の使われ方、食事、衣類、室温、衛生状態に不自然さがある。
こうした場面で大切なのは、その場で虐待かどうかを一人で断定しないことです。居宅ケアマネは、確認できた事実を記録し、管理者へ速やかに共有し、市町村や地域包括支援センターへ通報・相談につなげる立場です。虐待の有無を最終的に調査・判断する役割まで、ケアマネ一人で背負う必要はありません。
高齢者虐待防止法第7条では、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合について、生命または身体に重大な危険が生じている場合は通報義務、それ以外の場合は通報努力義務として整理されています。
ただし、現場では「重大な危険があるかどうか」の判断に迷うことがあります。迷う場合は、事業所内だけで抱え込まず、重大な危険の可能性も含めて、市町村や地域包括支援センターへ早期に通報・相談することが求められます。
専門職として大切なのは、確証がないから何もしない、という対応を避けることです。「虐待を受けたと思われる」段階で相談先につなげることが、本人を守る初動になります。市町村は高齢者虐待対応の中心となる機関であり、通報を受けた後、事実確認や必要な対応を進める役割を担います。
特に養護者による高齢者虐待では、家族や養護者を単純に「加害者」と決めつける見方は避ける必要があります。介護疲れ、認知症症状への戸惑い、経済的困難、家族関係の長年の葛藤など、背景には複数の要因が重なっていることがあります。
ただし、背景への理解と、本人の安全確保は分けて考えます。家族や養護者に事情があっても、本人の生命や身体、尊厳が脅かされている可能性がある場合は、本人の安全を優先して通報・相談につなげる視点が欠かせません。
事例:訪問時に気づいた小さな違和感
居宅ケアマネが訪問したところ、本人の腕に新しいあざがありました。本人は「ぶつけただけ」と話しましたが、家族が同席すると急に口数が少なくなりました。さらに、前月から通所介護の利用が減り、入浴の機会も少なくなっていました。家族は「本人が嫌がるから」と説明していますが、本人の表情は硬く、詳しい話をしようとしません。
この時点で大切なのは、「虐待だ」と決めつけることではありません。あざの部位、本人の発言、家族同席時の様子、サービス利用の変化を記録し、管理者へ報告した上で、地域包括支援センターや市町村担当窓口へ通報・相談することです。
虐待が疑われる場面では、「もう少し様子を見る」という判断が続くことがあります。しかし、様子を見る場合でも、何を、いつまで、誰と共有しながら確認するのかが曖昧では危険です。
判断を先送りにしないためには、事業所内で速やかに共有し、疑いの段階で地域包括支援センターや市町村の高齢者虐待対応窓口へ通報・相談します。これは本人を守るだけでなく、ケアマネ自身と事業所を守る実務でもあります。

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初動で押さえたい記録・通報・連携の基本
虐待が疑われるときの初動では、まず本人の安全確認を優先します。生命や身体に差し迫った危険がある場合は、医療機関、救急、警察、市町村担当窓口など、状況に応じた連絡が必要になります。通常のケアマネジメントの範囲だけで対応しようとせず、緊急性に応じて関係機関につなげます。
緊急性の判断は難しいため、「緊急性が高くない」と見える場合でも、事実の記録と管理者への共有は早めに行います。記録では、評価や感情を先に書くのではなく、確認できた事実を中心に残します。
記録に残したい主な内容は、次の通りです。
- 日時・場所
いつ、どこで確認した内容か。 - 本人の状態
あざ、傷、表情、発言、服装、清潔状態、食事や水分の状況など。 - 家族・養護者の様子
発言、態度、介護負担の様子、本人との関係性の変化など。 - サービス利用の変化
通所介護、訪問介護、訪問看護、ショートステイ、医療受診などの中止や減少。 - 通報・相談・連絡の経過
誰に、いつ、どの内容を共有し、どの窓口へつないだか。
記録では、「虐待と思われる」「家族がひどい」といった評価だけを書くと、後から経過を確認しにくくなります。たとえば、「右前腕に直径約3cmの紫色のあざを確認。本人は『ぶつけた』と発言。家族同席後は発言が少なくなる」と書けば、事実と変化が伝わりやすくなります。
記録例:事実と変化が見える書き方
「令和○年○月○日、訪問時に右前腕に直径約3cmの紫色のあざを確認。本人は『ぶつけた』と話す。家族が同席すると発言が少なくなり、質問への返答も短くなる。前月から通所介護の利用が週3回から週1回へ減少。管理者へ報告し、地域包括支援センターへ通報・相談予定。」
このように記録すると、本人の状態、家族同席時の変化、サービス利用の変化、今後の通報・相談先が見えやすくなります。記録は、虐待を断定するためではなく、疑いの段階で適切な通報・連携につなげるための情報です。
実務上の手順としては、まず居宅介護支援事業所の管理者に迅速に共有し、組織として速やかに地域包括支援センターや市町村の高齢者虐待対応窓口へ通報・相談します。ただし、事業所内での確認が長引き、行政への通報・相談が遅れることは避けなければなりません。
高齢者虐待防止法に基づく対応は、市町村が中心となって進めます。居宅ケアマネや事業所は、虐待の有無を最終判断するために調査を抱え込むのではなく、疑いの段階で市町村等につなぎ、必要な情報を提供することが基本です。
また、障害のある方が関わる場合は、障害者虐待防止法に基づく通報・相談窓口が関係します。高齢者分野と障害福祉分野では、相談先や対応の流れが異なる場合があります。複合的な支援が必要なケースでは、地域包括支援センター、障害者虐待防止センター、相談支援専門員、市町村担当課など、関係機関の役割を確認しながら進めます。窓口名や担当部署は自治体によって異なるため、自治体の最新案内を確認しておくことが大切です。
連携では、情報を広げすぎないことにも注意します。虐待が疑われる情報は、本人や家族の生活に深く関わる内容であり、個人情報保護や守秘義務の観点からも慎重な取扱いが必要です。共有は、本人の安全確保と支援のために必要な範囲に限定し、事業所の規程や関係法令に沿って対応します。
家族や養護者への対応にも配慮が必要です。確認の仕方によっては、家族が強く反発したり、本人への圧力が強まったりするおそれがあります。家族を責める言い方ではなく、「介護のご負担が大きくなっていませんか」「安全に生活を続けるために、少し状況を確認させてください」といった形で、支援につなげる姿勢を保ちます。
ただし、家族への配慮を優先しすぎて、本人の安全確認が遅れてはいけません。本人の生命・身体・尊厳を守ることを最優先に、必要な通報・相談につなげることが、居宅ケアマネの初動で最も大切な視点です。
虐待が疑われる場面では、ケアマネ個人の経験だけに頼ると負担が大きくなります。事業所内で通報・相談の手順を確認し、地域包括支援センターや市町村窓口の連絡先を把握しておくことで、いざという時の迷いを減らせます。
まとめ
家族など養護者による高齢者虐待が疑われたときに大切なのは、一人で抱え込まず、事実を記録し、早い段階で通報・相談・連携につなげることです。特に在宅生活で気づく虐待の多くは、養護者による高齢者虐待として整理されるため、本人と家族・養護者の状況を慎重に確認する視点が求められます。
高齢者虐待防止法では、重大な危険がある場合の通報義務と、それ以外の場合の通報努力義務が示されています。現場では判断に迷う場面もあるため、虐待かどうかをその場で断定するよりも、本人の安全を確認し、疑いの段階で適切な窓口へつなぐ初動が重要です。
家族や養護者の背景に配慮しながらも、本人の尊厳と安全を守る視点を失わないことが、居宅ケアマネの虐待防止実務の基本になります。
【次回の内容】
次回は、不適切ケアと虐待の違いとは? グレーゾーンの判断基準と現場対応を取り上げます。
【参考・出典】
・厚生労働省「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について(国マニュアル)」
・e-Gov法令検索「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」
※実際の運用は、厚生労働省資料に加え、市町村や地域包括支援センターの相談・通報手順を確認してください。
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