
厚生労働省の介護保険最新情報Vol.1511では、地域づくり、災害時対応、家族介護者支援に関する複数の資料が周知されています。
その中で、地域包括支援センターの実務者に確認していただきたい資料の一つが、株式会社野村総合研究所による「市町村と地域包括支援センターが始める!BCP作成を行動に変える、平時の体制整備ハンドブック~災害への備えと『対話』~」です。
本記事は、同資料の全文要約や転載ではありません。地域包括支援センター、市町村、関係機関の実務者が原資料を読む際の入口として、現場で確認したい視点を整理するものです。詳細な内容、図表、事例は必ず原資料をご確認ください。
この資料の主眼は「平時の体制整備と対話」です
このハンドブックの主眼は、地域包括支援センターのBCPの考え方を、平時の体制整備と市町村との対話につなげることにあります。
地域包括支援センターは、日頃から高齢者の相談支援、権利擁護、包括的・継続的ケアマネジメント支援、地域のネットワークづくりに関わっています。災害時には、在宅高齢者、要配慮者、避難所に行けない人、生活機能の低下が心配される人など、福祉的支援が必要な人の情報が集まりやすい立場にあります。
一方で、地域包括支援センター自身も被災します。職員が出勤できない、事務所が使えない、通信が途絶える、通常業務と災害対応が重なる。そのような状況では、センター単独の努力だけに頼る体制は長続きしません。
介護保険サービス事業所等におけるBCP策定や研修・訓練等の取扱いは、対象となるサービス種別や運営基準等を確認する必要があります。今回のハンドブックは、それらに新たな制度上の義務を追加する資料ではありません。市町村と地域包括支援センターが、平時から役割・情報・連携・受援を確認するための視点を整理した周知資料として読むことが大切です。
なぜ包括センターの災害対応が問われているのか
近年の災害対応では、避難所にいる人への支援に加えて、在宅避難者、車中泊、福祉避難所、施設、仮設住宅など、さまざまな場所で生活する人への支援が課題になっています。
令和6年能登半島地震でも、避難生活の長期化や生活環境の変化により、高齢者等の要配慮者への福祉的支援の必要性が改めて確認されました。
地域包括支援センターは、平時から地域の高齢者の生活状況や支援ネットワークに関わる機関です。そのため災害時にも、安否確認、相談対応、支援ニーズの把握、関係機関へのつなぎ、地域の情報整理などの役割が期待されます。
ただし、包括センターに新しい仕事を一方的に上乗せする発想で進めると、現場の負担が大きくなります。日常業務の中にある相談支援、地域ケア会議、民生委員やケアマネジャーとの連携、見守り活動、情報整理を、災害時にも機能する形に点検しておくことが現実的です。
災害対応は、有事だけの特別対応ではなく、平時の地域づくりとつながっています。
調査から見える現場の課題
ハンドブックでは、市町村アンケートやヒアリング調査をもとに、災害への備えに関する現状も整理されています。
特に注目したいのは、災害時を想定した地域包括支援センターの役割について、「特に明文化されたものはない」と回答した市町村が55.0%と示されている点です。なお、この数値は原資料に掲載された市町村アンケート結果に基づくものです。母数や調査方法の詳細は、原資料で確認してください。
役割が明文化されていない場合、発災時に「誰が何をするのか」「包括センターはどこまで担うのか」「市町村は何を判断するのか」が現場判断になりやすくなります。支援が必要な人への対応が遅れたり、包括センターに負担が集中したりするおそれがあります。
また、市町村が包括センターに期待する役割としては、災害時に支援が必要な高齢者等を把握するための情報整理、BCP・マニュアル等の整備、多様な主体との地域ネットワーク構築が挙げられています。
ここから見えてくるのは、包括センターが「支援の起点」として期待されている一方で、その役割や限界、応援を受ける仕組みが十分に共有されていない地域もあるという現実です。
平時の体制整備で確認したい4つの視点
資料では、平時からの体制整備を進める上で、4つの視点が示されています。包括実務者向けに整理すると、次のようになります。
| 視点 | 包括実務者が確認したいこと |
|---|---|
| 認識や目線のすり合わせ | 市町村と包括センターで、災害時に「何を・誰が・どこまで」担うのかを確認する |
| ネットワーク形成 | 民生委員、社協、ケアマネジャー、医療機関、介護事業所などとの平時の関係を災害時にも活かせる形にする |
| 計画策定及び研修・訓練 | BCPやマニュアルを作成するだけでなく、実際に動けるかを研修・訓練で点検する |
| 高齢者等の情報整理 | 支援が必要な人の情報を、個人情報保護や自治体の共有基準に留意しながら、災害時に使える形で整理する |
1. 認識や目線のすり合わせ
市町村と包括センターが、災害時に「何を」「誰が」「どこまで」「どの順で」担うのかを確認します。
委託型の包括センターでは、母体法人のBCPや人員配置も関係します。市町村、包括センター、運営法人の間で、平時から前提条件を共有しておくことが欠かせません。具体的な責任範囲や委託契約上の取扱いは、自治体ごとの契約書、仕様書、運営方針等で確認する必要があります。
2. ネットワーク形成
災害時に機能するネットワークは、平時の関係性から生まれます。
民生委員、自治会、社会福祉協議会、ケアマネジャー、医療機関、介護事業所、生活支援コーディネーターなど、日頃のつながりを災害時にも活かせるようにしておく視点です。
包括センターがすべてを抱える体制ではなく、包括センターを支えるネットワークを地域で設計することが重要です。
3. 計画策定及び研修・訓練
BCPやマニュアルは、作成しただけでは機能しません。
発災時に誰が連絡を取るのか、どの業務を優先するのか、安否確認の対象をどう絞るのか、通信が使えない場合にどう動くのか。こうした実際の動きを、研修や訓練で確認する必要があります。
大規模な訓練だけが方法ではありません。短時間の机上演習、連絡網の確認、優先確認対象者の見直しなど、日常業務の中で小さく点検することも有効です。
4. 高齢者等の情報整理
災害時の支援は、支援が必要な人に気づくことから始まります。
ただし、包括センターが地域の高齢者を全数把握することは現実的ではありません。避難行動要支援者名簿、個別避難計画、ケアマネジャーが持つ情報、民生委員や地域住民の情報などを、個人情報保護や自治体の共有基準、本人同意の取扱いに留意しながら重ね合わせる視点が必要です。
また、情報は集めるだけでなく、災害時に使える形で整理されているかが問われます。紙と電子の併用、更新頻度、保管場所、持ち出し方法、共有範囲なども確認しておきたい点です。
包括実務者が自センターで確認したいこと
この資料を読む際、包括実務者は次の点を自センターに引き寄せて確認するとよいでしょう。
- 市町村との間で、災害時の包括センターの役割が明文化されているか
- 平時、発災直後、復旧期で、センターが担う役割を整理しているか
- 職員が出勤できない場合の業務優先順位を確認しているか
- 安否確認や相談対応の優先対象を決めているか
- 市町村、民生委員、ケアマネジャー、介護事業所との情報共有ルートがあるか
- 応援を求める基準や連絡先が整理されているか
- BCPやマニュアルを定期的に見直しているか
特に重要なのは、包括センターが「支援する側」であると同時に、「支援を受ける側」にもなるという視点です。災害時には、包括センターの職員、拠点、情報、通信手段が同時に機能しにくくなることがあります。
その前提で、市町村や関係機関と、どのように応援を受け、どの機能を優先して守るのかを話し合っておく必要があります。
まとめ
今回のハンドブックは、地域包括支援センターのBCPの考え方を、平時の体制整備と対話に結びつけるための資料です。
ポイントは、包括センターだけで災害対応を抱え込まないことです。市町村が主体となり、包括センター、地域住民、ケアマネジャー、介護事業所、医療・福祉関係者が、平時から役割・情報・連携・受援を確認しておくことが、災害時の高齢者支援を支えます。
地域包括支援センターの災害対応は、センター単独で完結するものではなく、市町村や関係機関との連携を平時から整えておくことが土台になります。
多忙な実務の中で、すべてを一度に整えることは簡単ではありません。まずは、市町村と包括センターの間で「災害時に何を担うのか」「どこまで担えるのか」「どこから応援が必要なのか」を話し合うところから始めることが、実効性ある体制整備への第一歩になります。
参考・出典・関連リンク
●株式会社野村総合研究所
「市町村と地域包括支援センターが始める!BCP作成を行動に変える、平時の体制整備ハンドブック~災害への備えと『対話』~」
令和8年(2026年)3月作成
●厚生労働省
介護保険最新情報Vol.1511
令和8年(2026年)6月15日発出
■介護キャンパスのトップページはこちら
■介護保険最新情報・障害者福祉情報の一覧はこちら


