厚生労働省は、令和8年6月3日付で、介護保険最新情報Vol.1508「介護支援専門員等の在宅介護従事者の安全確保の徹底について」を発出しました。
今回の通知は、埼玉県川口市において、介護支援専門員が利用者宅で危害を加えられ死亡する事件が発生したことを受け、介護支援専門員等の在宅介護従事者の安全確保について、改めて確認と周知を求めるものです。
事件の詳細な経緯は、現在警察による捜査が進められている段階であり、通知でも詳細は明らかではないとされています。本稿では、事件の背景を推測せず、厚生労働省通知で示された安全確保の実務ポイントに絞って整理します。
今回の通知の趣旨
Vol.1508では、各都道府県・市町村に対し、管内の居宅介護支援事業所等へ周知するとともに、関係機関と連携し、必要な対策を積極的に講じるよう求めています。
通知の中心は、介護支援専門員等の在宅介護従事者の安全確保です。あわせて、その他の介護従事者についても、引き続き必要な安全確保策が図られるよう求められています。
利用者宅を訪問する業務では、職員が一人で現場に入る場面も少なくありません。利用者や家族等との関係が深刻なトラブルに発展するおそれがあるケースでは、事前の安全確認と、事業所としての組織的な対応が欠かせません。
今回の通知は、すべての訪問を一律に複数名で行うよう求める内容ではありません。大切なのは、リスクが想定されるケースを職員個人の判断に任せず、事業所として安全確保の体制を整えることです。
個々の職員任せにしない体制づくり
通知では、利用者や家族等との間で深刻なトラブルになるおそれがある事案について、「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」等の解釈通知において、介護サービス事業者が講ずることが望ましい措置が明確化されていることに触れています。
特に確認したいのは、ハラスメントや暴力等への対応を、担当職員一人の努力に委ねないことです。
介護事業者が確認しておきたいポイントは、次のとおりです。
- リスク要因の把握
利用者・家族との関係性、過去の言動、訪問時の不安要素、職員への威圧的な態度などを、事業所内で共有します。 - 基本方針の明確化
暴言、威圧、暴力、長時間拘束、執拗な要求などに対し、事業所としてどのように対応するかを確認します。 - 対応ルートの整理
担当職員、管理者、主任介護支援専門員、法人本部、保険者等へ、どの段階で相談・報告するかを決めておきます。 - 一人で抱え込ませない体制
不安を感じた職員が、早めに相談できる雰囲気と仕組みをつくります。
在宅訪問の現場では、「いつもの利用者だから大丈夫」「担当者がよく知っているから任せる」という判断になりがちです。しかし、安全確保の視点では、個人の経験や勘に頼りすぎず、組織としてリスクを見立てる姿勢が求められます。
危険が切迫する場合の退避・通報・中断ルール
安全確保では、支援を継続するための工夫とあわせて、職員の生命・身体に危険が及ぶおそれがある場合の対応基準を確認しておくことが重要です。
たとえば、暴力行為、凶器を示す行為、身体的危害を示唆する発言、退出を妨げる行為、長時間拘束などがある場合、担当職員だけで判断を続けることは危険です。
事業所として、次のような対応をあらかじめ整理しておくとよいでしょう。
- 訪問を中止・延期する判断基準
- その場から退避する判断基準
- 管理者へ即時報告するルール
- 保険者・地域包括支援センターへ相談する基準
- 警察等へ通報・相談する基準
- 今後の支援継続条件を組織で検討する手順
サービス提供の中断や契約上の対応は、介護保険法、指定居宅介護支援等の運営基準、契約書の条項、保険者との協議結果等を踏まえて慎重に判断します。必要に応じて、法律専門家へ相談することも選択肢になります。
個別事案ごとの契約解除やサービス提供拒否の可否は、一律に判断できるものではありません。ただし、危険が切迫する場面で職員を現場にとどめない判断基準は、事業所内で明確にしておく必要があります。
カスタマーハラスメント対策との関係
今回の通知では、令和7年6月に成立した改正法により、カスタマーハラスメント防止のための雇用管理上必要な措置がすべての事業主に義務付けられ、施行は令和8年10月とされていることにも触れています。
具体的な義務の範囲や事業主に求められる措置の詳細は、今後示される法令、指針、厚生労働省の解説資料等で確認する必要があります。
今回の通知は、令和8年10月の施行を待つだけでなく、在宅介護従事者の安全確保に向けた組織的対応を、現時点から確認する契機として受け止めたい内容です。
ここで注意したいのは、利用者や家族を一律に「危険」とみなすことではありません。介護・福祉の支援関係を大切にしながらも、職員の安全を守るために、事業所としてハラスメントや暴力リスクに備えることが求められます。
現場で確認したい視点は、次のようなものです。
- 利用者・家族からの苦情や不満が、説明や改善を求める範囲にとどまっているか
- 職員個人への人格否定、威圧、脅し、暴力的言動に発展していないか
- 訪問時に職員が強い不安や恐怖を感じていないか
- 対応を継続する条件、複数名対応に切り替える条件が整理されているか
- 管理者や法人が、職員の訴えを軽く扱っていないか
職員の安全確保は、利用者支援の質を守る基盤でもあります。
地域の関係機関との連携

Vol.1508では、個々の事業所だけで対応が困難な場合に備え、日頃から地域の関係者と連携し、相談や地域全体で対応できる体制を築いておくことが重要とされています。
通知で示されている関係機関には、次のようなものがあります。
- 地域ケア会議
- 医師等の他職種
- 保険者
- 地域包括支援センター
- 保健所
- 地域の事業者団体
- 法律の専門家
- 警察等
在宅介護の安全確保は、一つの事業所だけで完結しない場合があります。利用者の疾病、認知症、精神疾患、家族関係、生活困窮、近隣トラブルなど、複数の要因が絡むこともあります。
管理者や主任介護支援専門員は、困難ケースを担当者だけに任せず、必要に応じて地域包括支援センター、保険者、医療機関、警察等と連携する判断が求められます。
複数名訪問・同行訪問に関する支援
通知では、介護支援専門員の安全確保のため、利用者宅に複数名で訪問する場合の経費についても触れています。
具体的には、令和7年度補正予算に計上され、令和8年度に繰り越された「地域のケアマネジメント提供体制確保支援事業」の中の介護支援専門員業務負担軽減支援事業を活用できることが示されています。
通知上は、介護支援専門員の安全確保や、介護支援専門員等の同行訪問による経費が示されています。実際にどの職種・事業所・経費が対象となるかは、自治体の実施要件や実施状況によって異なります。
対象となる経費、申請主体、申請方法、実施期限などは、自治体の要綱や案内を確認してください。
複数名訪問が必要と判断されるケースがある場合は、市町村や都道府県の案内を早めに確認しておくとよいでしょう。
事業所で確認しておきたい実務ポイント
今回の通知を受けて、居宅介護支援事業所や在宅系サービス事業所では、次の点を確認しておきたいところです。
- 訪問時の安全確認ルール
訪問前に不安要素があるケースを確認し、単独訪問、複数名訪問、電話対応、訪問延期などの判断基準を整理します。 - 職員からの相談ルート
担当職員が不安を感じたとき、管理者や主任介護支援専門員にすぐ相談できる体制を確認します。 - 危険が想定されるケースの共有
過去の暴言、威圧的態度、長時間拘束、執拗な要求、暴力の可能性などを、事業所内で共有します。 - 退避・通報・訪問中止の判断基準
生命・身体に危険が及ぶおそれがある場合に、誰が、どの段階で、訪問中止、退避、警察相談、保険者相談を判断するのかを整理します。 - 複数名訪問・同行訪問の判断
職員の安全確保が必要な場合に、誰が同行するのか、費用や支援事業の活用をどう確認するのかを整理します。 - 地域機関との連携先
地域包括支援センター、保険者、警察、法律専門家等へ相談する場面を整理し、連絡先を確認します。 - カスハラ対策との接続
令和8年10月施行とされるカスタマーハラスメント対策に向けて、雇用管理上の措置、相談体制、職員保護の仕組みを確認します。
利用者支援と職員保護を両立させる
介護支援専門員や在宅介護従事者は、利用者の生活を支えるために、利用者宅という私的な空間に入って支援を行います。そこには、施設内とは異なる緊張感やリスクがあります。
一方で、利用者や家族が不安や困難を抱えているからこそ、支援が必要になる場面もあります。
大切なのは、利用者や家族を一律に危険視することではありません。支援を継続できる条件を整えつつ、危険が切迫する場合には、退避、通報、訪問中止、関係機関への相談を組織として判断できる体制を持つことです。
担当者の我慢や善意に頼りすぎる支援は、いずれ限界を迎えます。
安全が守られてこそ、継続的で質の高い支援が可能になります。
まとめ
介護保険最新情報Vol.1508は、介護支援専門員等の在宅介護従事者の安全確保について、改めて徹底を求める事務連絡です。
通知では、個々の職員で対応するのではなく、組織として必要な体制を構築すること、あらかじめリスク要因を把握すること、地域ケア会議、保険者、地域包括支援センター、警察等の関係機関と連携することが示されています。
また、複数名訪問に係る経費について、介護支援専門員業務負担軽減支援事業を活用できることも示されています。ただし、実際の活用は自治体の実施要件や案内を確認する必要があります。
今回の通知は、在宅介護従事者の安全確保を、個人の注意や経験だけに頼らず、事業所・法人・地域で支える体制づくりとして捉えることを促しています。
居宅介護支援事業所や在宅系サービス事業所では、訪問時の安全確認、複数名訪問の判断、退避・通報・訪問中止の基準、相談ルート、地域機関連携、カスタマーハラスメント対策を改めて確認しておきましょう。
※ご確認いただきたい点
本記事は、厚生労働省が公表した介護保険最新情報Vol.1508の原文(※)に沿って、実務者向けに要点を整理したものです。
できる限り正確を期して記載していますが、実際の運用判断にあたっては、必ず厚生労働省の原通知・関係告示・最新の疑義解釈等の一次情報をご確認ください。
とくに、厚労省通知や医療関係の情報は、通知本文の文脈や関連する告示・算定ルールをあわせて確認することが重要です。
本記事は実務理解を助けるための参考情報であり、最終的な判断は必ず元情報に基づいて行っていただくことをおすすめします。
関連リンク
■介護保険最新情報vol.1508(「介護支援専門員等の在宅介護従事者の安全確保の徹底について」)(令和8年6月3日厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課事務連絡)
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