介護・福祉現場のカスハラ対応|暴言・不当要求を受けたときの初動3ステップ

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介護・福祉現場では、利用者や家族から強い言葉を受ける場面があります。説明を求める苦情であれば丁寧な対応が必要ですが、暴言、威圧、人格否定、過剰な謝罪要求、長時間の拘束、不当要求へ進む場合は、ハラスメントに該当し得る言動として、初動対応を切り替える判断が必要になります。

ここでいうカスタマーハラスメントは、利用者や家族等から職員に向けられる著しい迷惑行為を指す実務上の用語として扱います。法令上の確定した定義として単純に当てはめるのではなく、厚生労働省のハラスメント対策マニュアル等の考え方を踏まえ、職員の安全確保と支援継続の両面から判断することが大切です。

この記事で分かること

  • 暴言・不当要求を受けたときの初動対応
  • 高齢者介護で家族から強い言葉を受けたときの考え方
  • 障害者支援で利用者本人の威圧的言動を受けたときの対応
  • 一人で抱え込まず、記録・共有・組織対応につなげるポイント

高齢者介護で家族から強い言葉を受けたときの初動

高齢者介護では、家族からの強い言葉が、利用者への心配や不安から出ていることがあります。転倒、体調変化、服薬、食事量、排泄、面会時の様子などについて、家族が「説明が足りない」と感じたとき、職員への厳しい叱責につながる場合があります。

まず必要なのは、家族の言葉をすぐに「カスハラ」と決めつけることではありません。何に不安を感じているのか、どの事実を確認したいのかを短く整理します。

ただし、次のような言動が出ている場合は、職員個人で受け続ける段階ではありません。

  • 人格を否定する発言
    「あなたは介護職に向いていない」「辞めた方がいい」など
  • 過剰な謝罪要求
    土下座、休日や夜間の謝罪訪問、担当者への直接謝罪の強要など
  • 不当な要求
    金銭要求、職員の処分要求、契約や制度を超えた特別対応の要求など
  • 長時間の拘束
    同じ話を繰り返し、職員を帰さない、業務を止めさせる対応など

家族からの強い言葉が、すべてカスタマーハラスメントに当たるわけではありません。正当な苦情、説明を求める申し出、利用者の権利を守るための訴えは、丁寧に受け止める必要があります。一方で、職員の人格や尊厳を傷つける言動、不当な要求、業務を妨げるような長時間拘束が続く場合は、苦情対応の範囲を超えている可能性があります。

初動の基本は、次の3ステップです。

ステップ1:その場で受け止める範囲を区切る

最初に、相手の不安や怒りを否定せず、確認する姿勢を示します。

「ご心配をおかけしている点は確認します」
「事実関係を確認したうえで、管理者から改めてご説明します」

このように、今この場で答えられることと、確認が必要なことを分けて伝えることが大切です。

職員個人の判断で約束をしたり、曖昧に謝罪を重ねたりすると、後から対応が難しくなる場合があります。強い言葉を受けている場面ほど、「その場で全部解決しよう」としないことが重要です。

ステップ2:一人で対応を続けない

暴言や威圧が続く場合は、対応者を交代する、複数対応に切り替える、管理者に引き継ぐ判断が必要です。

「このまま私一人で対応を続けるのではなく、管理者と一緒に確認します」
「ご要望の内容は、事業所として確認してお返事します」

このように伝えることで、家族対応を個人対応から事業所としての対応へ切り替えます。高齢者介護では、管理者、生活相談員、介護支援専門員など、法人・事業所内の管理ラインに早めに共有することが欠かせません。

居宅サービスの場合、担当ケアマネジャーとの情報連携も重要です。ただし、初期判断や職員保護の対応は、まず所属する事業所の管理ラインで確認することが基本です。状況が深刻な場合は、事業所内での報告・確認と並行して、速やかにケアマネジャーへ一報を入れることも必要になります。

特に、サービス提供の継続が難しくなりそうな場合、家族対応が他の事業所にも影響しそうな場合、ケアプランや支援体制の見直しが必要になりそうな場合は、事業所内だけで抱え込まないことが大切です。内部の管理ラインで初期対応を進めながら、関係職種と早めに情報を共有します。

なお、家族から高齢者本人への虐待が疑われる場合は、職員へのハラスメント対応とは別に、高齢者虐待防止法に基づく対応や市町村等への相談が必要になることがあります。カスハラ対応と高齢者虐待対応は、制度上の位置づけを分けて考える必要があります。

ステップ3:記録を残し、対応方針を確認する

カスハラ対応で見落とされやすいのが記録です。あとから振り返ると、「誰が、いつ、何を言われ、どう対応したのか」が曖昧になりやすくなります。

記録には、次の内容を残します。

  • 日時・場所・対応者
  • 相手の発言や要求の内容
  • 職員が伝えた内容
  • 対応時間や周囲への影響
  • 管理者へ報告した時刻
  • 外部職種へ共有した場合の日時と内容
  • 今後の対応方針

記録は相手を責めるためだけのものではありません。職員を孤立させず、組織として判断するための材料になります。

強い言葉を受けた直後は、職員自身も動揺しています。記憶だけに頼らず、できるだけ早い段階で事実を記録し、管理者と対応方針を確認しておくことが大切です。


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障害者支援で利用者本人の威圧的言動を受けたときの初動

障害者支援では、利用者本人との関係性が支援の中心になります。日々の関わりが長く続くため、職員との距離が近くなり、要求の線引きが難しくなることがあります。

利用者本人から大声、威圧的な言動、執拗な要求、特定職員へのこだわりが見られたとき、その背景には不安、見通しの持ちにくさ、過去の経験、障害特性が関係している場合があります。だからこそ、言動だけを切り取って「問題行動」と見るのではなく、支援上の背景を確認する視点が必要です。

一方で、背景理解があるからといって、職員が傷つき続けてよいわけではありません。支援上の配慮と職員保護は、同時に考える必要があります。

また、利用者本人から職員への暴力や著しい威圧があった場合の対応は、障害者虐待防止法における「施設従事者等による障害者虐待」とは区別して考えます。ただし、その後の職員側の対応が不適切になれば、虐待防止の観点から問題になる可能性があります。利用者本人への支援を続けながら、職員の安全確保も同時に考えることが必要です。

障害者支援での初動も、基本は3ステップです。

ステップ1:安全を確保し、場面を落ち着かせる

まず確認するのは、職員自身と周囲の安全です。大声や威圧が続く場合、無理に説得を続けると、かえって感情が高まることがあります。

「少し距離を取ってお話しします」
「大きな声が続くと話を続けられません。落ち着いてから確認します」

このように、行動の限界を短く伝えます。ポイントは、本人を責める言い方にしないことです。感情を否定するより、今の場面で続けられる対応の条件を伝えます

職員が危険を感じる場合や、周囲の利用者にも影響が出ている場合は、その場で説得を続けるより、距離を取る、別室に移る、応援を呼ぶなど、安全を優先します。

ステップ2:要求の内容と支援上の背景を分ける

利用者本人の訴えの中には、正当な希望や困りごとが含まれている場合があります。一方で、職員個人への私的連絡の要求、勤務時間外の対応要求、特定職員への過度な依存、威圧による要求の押し通しは、支援として受け続けることが難しくなります。

初動では、次のように分けて確認します。

  • 本人は何に困っているのか
  • 今すぐ対応が必要な安全上の問題はあるか
  • 要求はサービスの範囲内か
  • 特定職員だけに負担が偏っていないか
  • 同じ言動が繰り返されていないか

ここを曖昧にすると、「前はやってくれた」「あの職員なら対応してくれる」という受け止めにつながり、関係がさらにこじれることがあります。

本人の困りごとを確認することと、すべての要求に応じることは同じではありません。支援として受け止める部分と、事業所として区切る部分を分けて考えることが必要です。

ステップ3:チームで同じ対応方針を確認する

障害者支援では、職員によって対応が変わると、本人の混乱や不信感につながることがあります。そのため、現場で起きたことをまず管理者やサービス管理責任者へ報告し、事業所としての対応方針を確認することが大切です。

そのうえで、必要に応じて相談支援専門員とも情報を共有します。相談支援専門員は、利用者の生活全体やサービス等利用計画に関わる重要な職種です。ただし、サービス提供事業所内の初期判断や職員保護の対応は、まず事業所の内部ラインで確認します。

たとえば、私的な連絡要求が続く場合は、次のように伝える方針を共有します。

  • 「個人の携帯電話では連絡を受けられません」
  • 「相談は事業所の連絡先で受けます」
  • 「大声や威圧が続く場合は、話をいったん中断します」

このような線引きは、本人を排除するためのものではありません。支援を続けるために、職員と利用者双方の安全を守るためのものです。

組織対応は「現場の工夫」だけではない

介護・福祉現場のハラスメント対策は、職員個人の我慢や対応力だけに任せるものではありません。事業所には、職員が安心して働ける環境を確保するため、相談できる体制、報告ルート、対応方針、研修などを準備しておく責任があります。

厚生労働省の介護現場・障害福祉現場向けのハラスメント対策資料でも、利用者や家族等によるハラスメントについて、事業者として実態を把握し、対策を検討・実施することの重要性が示されています。個々の事案では、法令上必ず対応すべきこと、運営基準やマニュアル上確認したいこと、事業所として望ましい対応を分けて考えることが大切です。

そのため、暴言や不当要求を受けたときの初動対応は、単なる現場の工夫ではありません。事業所として職員を守り、利用者・家族への対応を継続可能にするための組織対応です。

日頃から、次の点を確認しておくと、いざというときに対応が遅れにくくなります。

  • 誰に最初に報告するか
  • どの段階で複数対応に切り替えるか
  • 管理者が対応を引き受ける基準は何か
  • ケアマネジャーや相談支援専門員へ共有するタイミングはいつか
  • 記録様式や記録項目は決まっているか

現場で起きた出来事を、職員個人の「我慢できるかどうか」に委ねないことが大切です。早めに記録し、早めに共有し、事業所として対応方針を確認することで、職員も利用者・家族も守りやすくなります。

まとめ

暴言・不当要求を受けたとき、最初から相手を敵視する必要はありません。高齢者介護では、家族の不安や説明不足への不満が背景にある場合があります。障害者支援では、利用者本人の不安、障害特性、関係性のこじれが影響していることもあります。

ただし、背景を理解することと、職員が暴言や威圧を受け続けることは別です。初動対応では、その場で受け止める範囲を区切ること、一人で対応を続けないこと、記録と共有につなげることが欠かせません。

また、カスタマーハラスメント、家族等による高齢者虐待、障害者虐待防止法上の虐待は、それぞれ制度上の位置づけが異なります。現場では同じ場面の中で複数の問題が重なることもあるため、記録を残し、管理者や関係職種と共有しながら、必要な対応を切り分けていくことが大切です。

カスハラ対応は、職員個人の我慢で解決するものではありません。内部の管理ラインへ早めに報告し、必要に応じてケアマネジャーや相談支援専門員などの外部職種とも並行して情報共有することで、対応の遅れや抱え込みを防ぎやすくなります。

【次回の内容】
次回は、『怒っている相手にどう返すか、介護・福祉現場で使える初期対応フレーズ集』を取り上げます。

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【筆者】

梅沢佳裕
― ベラガイア17 人材開発総合研究所最新福祉情報サイト【介護キャンパス】主宰

【カテゴリトップ】福祉現場のハラスメント防止対策
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梅沢 佳裕

ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表
最新福祉情報サイト【介護キャンパス】主宰
梅沢 佳裕

社会福祉士・介護支援専門員・アンガーマネジメントファシリテーター他。
東京都を拠点に、介護・福祉事業所の人材育成、管理職研修、法定研修、制度改正対応、BCP、カスタマーハラスメント対策などをテーマに、研修講師・コンサルティング・執筆活動を行っています。

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公的資料や最新通知を確認しながら、制度と現場実践をつなぐ分かりやすい解説を心がけています。

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