令和8年3月4日、厚生労働省老健局老人保健課は、「介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度)(案)」を各自治体に送付しました。今回示された資料は、令和8年度の処遇改善加算等の算定に向けて、正式通知に先立って案として提示されたものです。本文でも、令和8年3月中旬ごろに正式発出予定とされているため、現時点では「案」であることを押さえておく必要があります。
しかし、案とはいえ、今回の内容は介護事業者にとって非常に重要です。
令和8年度の賃金改善、加算の取得、届出実務に直結するため、いまの段階から要点を整理し、正式通知に備えることが求められます。
今回の改定の背景
令和9年度改定を待たず、期中改定で対応する
今回の資料では、令和8年度介護報酬改定について、「強い経済」を実現する総合経済対策を踏まえ、介護分野の職員の処遇改善を進めるために、令和9年度介護報酬改定を待たずに期中改定を実施すると整理されています。
また、令和7年度補正予算による賃上げ・職場環境改善事業とも連動し、
- 介護従事者への幅広い賃上げ支援
- 生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員への上乗せ支援
を進める考え方が示されています。
つまり今回の見直しは、単なる加算率の変更ではなく、人材確保・離職防止・職場環境改善を一体で進めるための措置と理解することが大切です。
大きな変更点①
処遇改善加算の対象が「介護職員のみ」から「介護従事者」へ拡大
今回の見直しで最も注目される点の一つが、処遇改善加算の対象が介護職員のみから介護従事者へ拡大されることです。
これにより、これまでより広い職種を視野に入れた賃金改善が可能になります。
ただし、ここで注意したいのは、誰にでも一律・自由に配分できるという意味ではないことです。
本文では、
- 介護職員、とくに経験・技能のある介護職員の処遇改善が重要であること
- そのうえで、事業者の判断により柔軟な配分を行うこと
が示されています。
そのため、「対象が広がった」ことと、「重点配分の考え方がなくなった」ことは別問題です。
実務では、この点を切り分けて理解する必要があります。
大きな変更点②
生産性向上や協働化に取り組む事業者向けの上乗せ区分が設けられる
今回の改定では、生産性向上や協働化に取り組む事業者向けの上乗せ区分も設けられます。
ただし、この点も「ICTを入れれば上乗せされる」と単純化して理解すると危険です。
資料では、令和8年度特例要件として、たとえば次のような取組が示されています。
- ケアプランデータ連携システムの利用
- 生産性向上推進体制加算ⅠまたはⅡの算定
- 社会福祉連携推進法人への所属
このため、今回の「生産性向上」は、ICT導入だけを意味するものではなく、業務改善や連携体制を含む幅広い概念として捉える必要があります。
ここを「生産性向上=ICTだけ」と言い切ってしまうと、原文の趣旨から外れてしまいます。
大きな変更点③
これまで対象外だったサービスにも新たに加算を設ける
今回の資料では、これまで処遇改善加算の対象外だった
- 訪問看護
- 訪問リハビリテーション
- 居宅介護支援
などにも、新たに処遇改善加算を設けるとされています。
これまで「自分たちのサービスは対象外」と理解していた事業所にとっては、大きな変更です。
ただし、対象になったからといって、自動的に算定できるわけではありません。
算定要件を満たし、必要な届出を行い、賃金改善を実施することが前提です。
賃金改善の考え方
「月1.0万円」「最大1.9万円」は条件付きの説明である
今回の資料では、
介護職員のみならず介護従事者を対象に、幅広く月1.0万円(3.3%)の賃上げを実現する措置を行うとされています。さらに、生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員については、月0.7万円(2.4%)の上乗せ措置を実施すると整理されています。
そして、定期昇給0.2万円を含めると、介護職員について最大月1.9万円(6.3%)の賃上げが実現する措置と記載されています。
ここは非常に注目されやすい数字ですが、すべての事業所・すべての職員が一律に月1.9万円の賃上げになるという意味ではありません。
この金額は、
- 介護職員であること
- 生産性向上や協働化に取り組む事業者であること
- 定期昇給分も含めていること
など、複数の条件が重なった場合の上限的な説明として理解する必要があります。
見出しだけで「最大1.9万円アップ」と読むのではなく、どの条件のもとで示されている数字かまで確認することが大切です。
賃金改善の基本ルール
加算額に相当する賃金改善を実施しなければならない
資料では、介護サービス事業者等は、処遇改善加算の算定額に相当する介護職員その他の職員の賃金改善を実施しなければならないと明記されています。
対象となる賃金改善は、
- 基本給
- 手当
- 賞与等
を含みますが、退職手当は除かれます。
また、安定的な処遇改善の観点から、基本給による賃金改善が望ましいとも示されています。
さらに、令和8年度に増加した加算額については、新たに増加した処遇改善加算額に相当する賃金改善を新規に実施する必要がある点も重要です。
つまり、「加算を算定したら終わり」ではなく、その加算額に見合う賃金改善を実際にどう行ったかが問われる制度だということです。
算定要件の確認
キャリアパス要件・職場環境等要件・特例要件を分けて理解する
資料では、加算区分が複数整理されており、令和8年4月・5月と、令和8年6月以降で区分や取扱いに違いがあります。
そのうえで、主な要件として次が示されています。
- 月額賃金改善要件:加算Ⅳ相当額の2分の1以上を基本給等の改善に充てること。
- キャリアパス要件Ⅰ:任用要件・賃金体系の整備と周知。
- キャリアパス要件Ⅱ:研修の機会確保。
- キャリアパス要件Ⅲ:昇給の仕組み。
- キャリアパス要件Ⅳ:経験・技能のある介護職員の年額440万円以上要件(例外あり)。
- キャリアパス要件Ⅴ:介護福祉士等の配置要件。
- 職場環境等要件:入職促進、両立支援、腰痛対策、やりがい、生産性向上等。
実務上は、「どの区分を取りたいか」だけを見るのではなく、自事業所で未整備の要件がどこかを切り分けて確認することが重要です。
届出実務は特に重要
体制届・計画書・実績報告で期限が異なる
届出実務は、他サイトでは省略されがちですが、現場ではもっとも注意が必要な部分です。
資料に基づき、期限を整理すると次のとおりです。
届出期限の整理
| 手続 | 基本の考え方 | 令和8年度の特例的な扱い |
|---|---|---|
| 体制届出 | 通常、居宅系は算定開始月の前月15日まで、施設系は算定開始月の1日まで | 令和8年4月から新規算定・区分変更する場合は、居宅系・施設系ともに令和8年4月1日。ただし、都道府県知事等は令和8年4月15日までとしても差し支えない。 |
| 処遇改善計画書 | 通常、初めて算定する月の前々月末日まで | 令和8年4月・5月分は令和8年4月15日、令和8年6月以降のみ算定する新設事業所等は令和8年6月15日。 |
| 実績報告書 | 各事業年度における最終の加算支払月の翌々月末日まで | 令和8年度については通常、令和9年7月31日が提出期日。 |
このように、4月・5月・6月で扱いが異なるため、
「春までにまとめて出せばよい」といった大まかな理解では不十分です。
算定を予定している事業所は、対象月ごとのスケジュールを確認しておく必要があります。
まとめ
Vol.1474は令和8年度の処遇改善加算実務の基礎資料
今回のVol.1474は、
- 処遇改善加算の対象拡大
- 生産性向上・協働化に取り組む事業所向けの上乗せ区分
- 新たなサービス類型への加算創設
- 算定要件と届出実務の整理
を一体的に示した、令和8年度の算定準備の基礎資料です。
特に重要なのは、
- 「最大月1.9万円」は条件付きの説明であること
- 「生産性向上」はICTだけを指すのではないこと
- 届出・計画書・実績報告の期限を分けて確認する必要があること
です。
現時点では正式通知前の「案」ですが、4月・6月算定に向けた準備はすでに始まっています。
実務者としては、表面的な見出しだけで判断せず、原文に沿って丁寧に読み解くことが最も大切です。
著者(講師)クレジット
ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表 梅沢 佳裕
社会福祉士・介護支援専門員・アンガーマネジメントファシリテーター
関連リンク
■介護保険最新情報vol.1474(「介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度)(案)」の送付について)[921KB]別ウィンドウで開く(令和8年3月4日厚生労働省老健局老人保健課事務連絡)
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