移動介助・移乗介助は、転倒や転落のリスクが高まりやすい場面です。ベッドから車いすへ移る、トイレへ歩く、浴室へ向かう、立ち上がる。こうした日常の動きの中に、利用者の体調変化や筋力低下、ふらつき、理解力の変化が表れます。
ところが記録では、「歩行不安定」「移乗介助実施」「ふらつきあり」といった短い表現だけで終わってしまうことがあります。これでは、どの場面で何が起き、どのような介助が必要だったのかが読み手に伝わりにくくなります。
この記事では、移動介助・移乗介助の記録で何を書くか、転倒予防につながる記録文例、そして【高齢者介護】【障害福祉サービス】それぞれの移動支援記録の注意点を取り上げます。
移動介助・移乗介助の記録で何を書く?観察ポイントを整理
移動介助・移乗介助の記録では、介助を「行ったかどうか」だけにとどめず、利用者の状態や介助の内容、危険を感じた場面、次の勤務者へ伝えたい点を残すことが大切です。
たとえば、「トイレ誘導を行った」と書くだけでは、歩行状態や転倒リスクまでは分かりません。実際には、立ち上がり時に足が出にくかったのか、方向転換でふらついたのか、手すりを持てなかったのか、車いすのブレーキ操作に不安があったのかによって、次の対応は変わります。
記録に入れたい観察ポイントは、主に次の内容です。
- 立ち上がり時の様子
- 歩行中のふらつきや足の出方
- 方向転換時の安定性
- 手すり・歩行器・車いすの使用状況
- 声かけへの理解と反応
- 介助量の変化
- 本人の訴えや痛みの有無
ここで意識したいのは、「危ない」「不安定」といった判断だけで書かないことです。判断を書く前に、何を見てそう考えたのかを記録に残します。
たとえば、次のような記録は現場でよく見られます。
NG例
「歩行不安定。転倒注意。」
この記録では、どの場面で不安定だったのかが分かりません。次の職員は、見守りでよいのか、片側介助が必要なのか、二人介助を検討するのか判断しにくくなります。
修正文例
「10時、居室からトイレまで歩行器を使用して移動。立ち上がり時に右足が出るまで約5秒かかり、廊下の方向転換時に体が右側へ傾いた。職員が右側から支え、転倒なくトイレへ移動した。次回も方向転換時のふらつきを確認する。」
この記録では、時間、場所、福祉用具、利用者の動き、職員の介助内容、次に確認する点が分かります。転倒予防につながる情報が、次の勤務者へ伝わりやすくなります。
移乗介助でも同じです。
「車いす移乗介助」とだけ書くと、状態変化は見えません。ベッド端座位で体幹が傾いたのか、立位保持が難しかったのか、足の位置が定まらなかったのかを具体的に残すことで、支援の見直しにつながります。
また、介護・福祉現場では、日々の介護記録・支援記録、ヒヤリハット記録、事故発生時の記録を分けて考える視点も大切です。事故が発生した場合は、サービス種別や自治体の基準、事業所の手順に沿って、必要な連絡・報告・処置・記録を行います。そのうえで、日常の記録では、事故に至る前の小さな変化を残すことが転倒予防につながります。
転倒予防につながる移動介助・移乗介助の記録文例
転倒予防につながる記録では、事実、対応、今後の確認点を分けて書くと読みやすくなります。
たとえば、移乗介助では次のように書けます。
文例1:ベッドから車いすへの移乗
「8時30分、起床後にベッドから車いすへ移乗。利用者A様は端座位で左側へ体が傾き、左手でベッド柵を強く握っていた。職員が足底の位置を確認し、『前に体を倒します』と声をかけたところ、ゆっくり立ち上がった。立位時に膝折れは見られず、軽介助で車いすへ移乗した。」
この記録では、端座位、立位、移乗の流れが分かります。単に「移乗できた」と書くよりも、どこに注意が必要だったのかが伝わります。
文例2:トイレまでの移動
「14時、本人より『トイレに行きたい』との訴えあり。職員が付き添い、歩行器で居室からトイレへ移動した。廊下では歩幅が小さく、右足を引きずる様子が2回見られた。本人は『足が重い』と話された。トイレ後も同様の歩行状態であったため、看護職へ報告し、看護職の判断でバイタルサイン測定と夕方までの歩行状態の経過確認を行うこととなった。」
この文例では、本人の訴え、歩行状態、職員の対応、報告後の確認内容が分かります。「看護職へ報告した」という事実に加え、報告後にどのような指示や確認につながったかを残すことで、次の勤務者も状態変化を追いやすくなります。
報告内容を記録する際は、誰に報告したか、どのような指示を受けたか、その後どのような観察や対応を行ったかを簡潔に残します。これは責任の所在を強調するためではなく、利用者の安全を継続して確認するための記録です。
文例3:立ち上がり時のヒヤリハット
「16時、食堂の椅子から立ち上がる際、利用者B様がテーブルに手をついて急に立ち上がろうとした。右足が椅子の脚に当たり、体が前方へ傾いた。職員が前方から支え、転倒には至らなかった。本人へ立ち上がる前に職員へ声をかけるよう説明し、夕食時は席の位置と椅子の引き方を確認する。」
このように、転倒に至らなかった場面も記録に残すことで、ヒヤリハットとして共有する材料になります。ヒヤリハットの様式や共有方法は事業所によって異なりますが、日々の小さな変化を共有することで、事業所内の安全対策に活かしやすくなります。
事故が発生した際はもちろんのこと、転倒に至らないヒヤリハットや日々の小さな変化を記録に残すことが、結果として大きな事故の予防につながります。
新人職員に教えるときは、「移動できた」「移乗できた」だけで終わらせず、次の3点を確認すると実践しやすくなります。
- どこで不安定になったか
- どの介助で安全が保てたか
- 次の職員に何を見てほしいか
記録は長く書くこと自体が目的ではありません。短い記録でも、次の支援につながる情報が入っていれば、実務に役立つ記録になります。
【高齢者介護】【障害福祉サービス】移動支援記録の注意点

【高齢者介護】の移動介助・移乗介助では、筋力低下、認知症の症状変化、服薬後の眠気、脱水、発熱、痛みなどが転倒リスクに関係します。
そのため、「いつもより足が出にくい」「立ち上がりに時間がかかった」「声かけへの反応が遅い」といった変化を見逃さずに記録することが大切です。
たとえば、認知症のある利用者C様が夜間に居室から出ようとした場面では、次のように書けます。
「22時15分、利用者C様が居室入口で立っているところを職員が確認。『家に帰る』と話され、歩き出そうとした。足元にふらつきがあり、職員が横に付き添って椅子へ誘導した。水分を少量摂取後、表情が落ち着き、10分後にベッドへ戻られた。」
この記録は、行動を否定する表現を避けながら、夜間の移動リスクと対応を残しています。認知症の症状が関係している可能性を考える場合でも、記録ではまず、実際の発言、移動しようとした方向、足元の状態、職員の対応を書きます。
【障害福祉サービス】の移動支援記録では、身体機能だけでなく、障害特性や環境刺激への反応も重要です。障害福祉サービスは、障害者総合支援法に基づくサービスが中心となりますが、実際の記録様式や報告手順は、サービス種別や自治体、事業所の運用によって異なります。
音、人の動き、予定変更、待ち時間などが影響し、急に走り出す、立ち止まる、座り込む、介助を拒むことがあります。その場合も、「問題行動」と決めつけず、場面と反応を分けて記録します。
「作業室から食堂へ移動する際、廊下で他利用者の大きな声が聞こえると、利用者D様はその場で立ち止まり、両手で耳をふさいだ。職員が人の少ない通路へ案内し、『少し待ちます』と伝えると、約2分後に歩行を再開した。」
この記録では、本人の反応、環境、職員の対応が分かります。環境刺激が行動に影響した可能性と、安全確保のために職員が行った対応を分けて記録しているため、次回以降の移動ルートや声かけ方法の検討にもつながります。
高齢者介護でも障害福祉サービスでも、移動支援記録では、利用者本人を一方的に悪者にしない書き方が大切です。記録に残すべきなのは、評価や決めつけではなく、安全な移動を支えるための情報です。
まとめ
移動介助・移乗介助の記録は、転倒予防に直結する大切な情報です。
「歩行不安定」「移乗介助実施」だけでは、次の職員が具体的な注意点を判断しにくくなります。立ち上がり、歩行、方向転換、移乗、福祉用具の使用状況、本人の訴え、職員の対応を具体的に残すことで、記録は支援に活きる情報になります。
また、日常の記録、ヒヤリハット記録、事故発生時の記録は、それぞれ役割が異なります。事故が発生した場合は、サービス種別や自治体の基準、事業所の手順に沿って、必要な連絡・報告・処置・記録を行います。そのうえで、日々の記録では、転倒に至る前の小さな変化や介助量の変化を残すことが大切です。
大切なのは、どの場面で、何が起き、どの介助で安全を保ったかを記録することです。転倒事故の記録だけでなく、転倒の手前にあるヒヤリハットや小さな変化を残すことが、利用者の安全と職員間の連携につながります。
【次回の内容】
次回は、食事介助・水分摂取の記録の書き方を取り上げます。
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