介護・福祉現場で起きるカスタマーハラスメントは、突然始まるように見えて、実際には不安、不信感、説明不足、支援関係のこじれなどが少しずつ重なり、表面化することがあります。
特に高齢者介護では、利用者本人よりも家族対応の場面で強い叱責や不当要求が起きやすくなります。一方、障害者支援では、利用者本人との関係性が長く続く中で、距離感や要求の線引きが難しくなることがあります。
この記事では、「なぜカスハラが起きるのか」という視点から、高齢者分野と障害者分野の違いを整理します。あわせて、職員個人の心構えにとどめず、事業所としてどのような組織対応につなげる必要があるのかを確認します。
高齢者分野で家族の不安や不信感が強まりやすい理由
高齢者介護の現場では、利用者本人の生活を支えている一方で、家族が日常のケア場面を直接見る機会は限られています。施設入所、通所介護、訪問介護、ショートステイなど、サービスの形は違っても、家族は「見えない時間」に不安を抱えやすくなります。
たとえば、面会時に利用者の表情が暗い、衣類が汚れていた、食事量が減っている、転倒の説明が分かりにくかった。このような場面が重なると、家族の中で「きちんと見てもらえているのか」という不信感が強まることがあります。
家族からの質問や苦情は、ケアの質を見直す大切なきっかけになります。説明を求めること、事故の経緯を確認すること、生活状況について意見を伝えることは、利用者を大切に思う家族の自然な反応でもあります。
ただし、説明を求める範囲を超えて、職員への人格否定、長時間の叱責、土下座要求、過剰な謝罪要求、金銭要求へ進む場合は、苦情対応からカスハラ対応へ切り替える判断が必要になります。
高齢者分野で家族対応がこじれやすい背景には、次のような事情があります。
- 介護への罪悪感
家族が「自分で介護できなかった」という思いを抱えている場合、ちょっとした出来事が強い反応につながることがあります。 - 老いを受け入れる難しさ
認知症の進行、食事量の低下、歩行機能の低下などを、家族がサービス側の不備として受け止めることがあります。 - 説明への不満
事故や体調変化の連絡が遅い、説明が短い、職員によって説明が違うと感じると、不信感が深まりやすくなります。
家族の感情を、すべて問題行動として扱う必要はありません。不安の奥には、利用者を大切に思う気持ちがある場合もあります。一方で、職員の尊厳や安全を傷つける言動まで受け続ける必要はありません。
たとえば、「転倒時の状況を詳しく知りたい」という申し出には、丁寧な説明が求められます。一方で、「担当職員を辞めさせろ」「今すぐ自宅まで謝罪に来い」「誠意を金額で示せ」といった要求には、現場の個人で判断せず、事業所として対応範囲を区切る必要があります。
現場職員だけで抱え込まず、速やかに管理者、生活相談員、介護支援専門員(ケアマネジャー)など、法人・事業所内の管理ラインに報告・共有することが最優先です。そのうえで、必要に応じて居宅介護支援事業所のケアマネジャーなど、外部の関係職種と情報連携を図ります。
障害者分野で利用者本人との関係がこじれやすい背景
障害者支援の現場では、利用者本人との関係性が支援の中心になります。就労継続支援、生活介護、グループホーム、相談支援、居宅介護などでは、支援者と利用者が長期間にわたり関わることも多く、信頼関係が支援の土台になります。
その一方で、関係が近くなるほど、支援の境界線が曖昧になることがあります。「この職員なら聞いてくれる」「前は対応してくれた」「自分だけ特別にしてほしい」という思いが強くなり、過度な要求や支配的な言動につながる場合があります。
障害特性、生活歴、対人関係の苦手さ、不安の強さ、過去の支援経験への不信感などが背景にあるケースもあります。そのため、障害者分野のカスハラ対応では、言動だけを切り取って判断すると、支援の文脈を見落とすおそれがあります。
たとえば、予定変更に強い不安を感じる利用者が、大声で職員を責める場面があります。これは、見通しの持ちにくさや不安の表れとして理解できる場合があります。しかし、同じ言動が繰り返され、特定職員への威圧、脅し、執拗な呼び出し、私的連絡の要求へ進む場合は、支援上の配慮と職員保護を同時に考える段階に入ります。
障害者支援で関係がこじれやすい背景には、次のような要素があります。
- 支援関係が長期化しやすい
関係が続くほど、役割の境界が見えにくくなることがあります。 - 本人の思いを尊重する支援が誤解される
自己決定支援を「何でも希望どおりにしてくれる」と受け止められる場合があります。 - 職員個人への依存やこだわりが生じる
特定の職員にだけ強い要求や感情が向かうことがあります。
このような場面では、支援チームとして共通の対応を確認しておくことが大切です。職員によって対応が変わると、利用者は「なぜ今日はだめなのか」と混乱し、関係がさらにこじれることがあります。
実務では、本人の困りごとを確認しながら、対応できることと対応できないことを具体的に伝えます。
たとえば、次のような伝え方です。
- 「その相談は、勤務時間内に担当者が伺います」
- 「個人の携帯電話では連絡を受けられません」
- 「大声が続く場合は、いったん話を中断します」
このとき、職員個人の判断で伝えると、関係がさらに悪化することがあります。管理者、サービス管理責任者(サビ管)、相談支援専門員などと共有し、組織としての対応方針を確認したうえで伝えることが重要です。
制度面から見たハラスメント防止対策の位置づけ

カスハラ対応は、現場職員の我慢や気合いで乗り切るものではありません。介護・福祉事業所には、職員が安心して働ける環境を確保するため、ハラスメント防止の方針、相談体制、対応手順、研修などを事業所として準備していく責任があります。
介護分野では、令和3年度介護報酬改定で全サービスを対象にハラスメント対策が強化され、職場における性的な言動や優越的関係を背景とした言動によって職員の就業環境が害されることを防止するため、方針の明確化等の必要な措置が運営基準に位置づけられました。
あわせて、利用者や家族等からの著しい迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメントについても、防止方針の明確化等が推奨されています。法令上の義務と、実務上望ましい取り組みを分けて理解することが、管理者には求められます。
また、労働施策総合推進法等の改正により、令和8年10月1日からは、カスタマーハラスメント防止措置が事業主の義務として施行されます。介護・福祉現場でも、利用者支援を継続する視点と、職員を守る視点を両立させた体制づくりが、より重要になります。
事業所として確認したい項目は、次のとおりです。
- カスハラに関する基本方針を明確にしているか
- 職員が相談できる窓口や報告ルートがあるか
- 暴言、不当要求、威圧、長時間拘束などの記録方法が決まっているか
- 管理者が対応を引き受ける判断ラインが共有されているか
- 職員研修や事例検討で対応方針を確認しているか
記録も欠かせません。利用者や家族の発言、職員の対応、継続時間、周囲への影響、支援上の配慮、今後の対応方針を残します。
記録は相手を責めるためだけのものではありません。支援の継続可能性を判断し、職員を孤立させないための資料になります。
まとめ
カスハラは、相手の言動だけで突然判断するものではありません。高齢者介護では、家族の不安、不信感、説明への不満が強まることで、叱責や不当要求に発展することがあります。障害者支援では、利用者本人との関係が長く続く中で、支援の境界線が曖昧になり、関係がこじれることがあります。
大切なのは、背景を理解しながらも、職員が傷つき続ける状態を放置しないことです。苦情として受け止める部分、支援上配慮する部分、カスハラとして組織対応へ切り替える部分を分けて考える必要があります。
そして、カスハラ対応は職員個人の努力だけに任せるものではありません。事業所として、方針、相談窓口、記録、管理者判断、研修を準備し、利用者・家族への適切な対応と職員保護を両立させていくことが求められます。
【次回の内容】
次回は、暴言・不当要求を受けたときの介護・福祉職の初動対応3ステップを取り上げます。
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【筆者】
梅沢佳裕
― ベラガイア17 人材開発総合研究所/最新福祉情報サイト【介護キャンパス】主宰
【カテゴリトップ】福祉現場のハラスメント防止対策
https://kaigocampus.com/category/kaigo-harassment/
【介護キャンパスのホーム】
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