監修・執筆:梅沢佳裕(社会福祉士・研修講師)
「‶AI″を活用しています」と言えること自体は、運営指導(実地指導)での評価に直結しません。運営指導で問われるのは、流行の導入ではなく、日々の運営が制度に沿って行われ、必要な取り組みが継続され、説明できる形で残っているかどうかです。
そこで本記事は、介護・福祉事業所が‶AI″を活用しながらも、運営指導の場面で困らないように、‶委員会運営″を中心に「何を整え」「何を残し」「どう説明するか」を、具体の型と文例で整理します。
※本稿では読みやすさのため、最初に「人工知能(AI)」と表記し、その後は「AI」に統一します。
1.運営指導で「本当に見られる」委員会運営とは何か
運営指導の場面で、委員会に関して指摘が起きやすいのは、次のような状態です。
「委員会を開いているはずなのに、議事録が薄い」「結論が曖昧」「現場の手順変更に落ちていない」「研修の実施が確認できない」「記録が散らばっていて提示できない」。
つまり、委員会は“開いたかどうか”だけでなく、‶実質的に機能しているか″が問われます。
ここで誤解が起きやすい点を先に整理します。運営指導は「AIを使っているか」を直接問う場ではありません。AIは手段です。運営指導で説明すべきは、次の三点です。
- 事業所として、必要な取り組み(委員会、研修、手順整備など)を、継続的に行っていること
- その取り組みが現場の運用(手順・連携・記録)に落ちていること
- 証拠(議事録、研修記録、改訂履歴、周知記録など)を提示できること
では、AIは何に役立つのでしょうか。AIは、委員会運営の「作業」を軽くし、説明に必要な情報を整えるのに役立ちます。たとえば、議事録の要点整理、決定事項の抽出、周知文のたたき台作成、改善状況の一覧化などです。
ただし、ここで最重要の前提があります。‶個人情報をAIに入力しない″。この一線を明確にしたうえで、AIを使います。
2.委員会を「運営指導に強い形」で回す‶会議の型(フォーマット)″
委員会が形骸化する最大の原因は、「話し合いはしたが、何も変わらない」ことです。運営指導でも、この状態はすぐ見抜かれます。
そこで、委員会の議題と議事録を、最初から‶説明できる型″で統一します。おすすめは、毎回この順番に固定する方法です。
2-1.委員会の議論をブレさせない基本順序
1)何が起きたか(事実)
2)何が影響した可能性があるか(要因の整理。断定ではなく仮置き)
3)次に何を変えるか(手順・役割・環境の変更)
4)いつまでに、誰が、どこまでやるか(実行の約束)
5)次回、何を見て確かめるか(確認する指標)
この順番にすると、議論が「気をつけよう」から「手順をこう変える」に移ります。運営指導で説明するときも、「検討して終わり」ではなく「変更して確認している」と言えます。
2-2.AIの使いどころは「判断」ではなく「整理」
AIは、委員会の判断を代わりに行う道具ではありません。委員会の判断を、誰が見ても分かる形に整える道具として使います。現場で実用的なのは次の使い方です。
- 議事録を「結論中心」に整える(決定事項、担当、期限、確認項目を見える化)
- 議題の要点を整理する(論点が散らばらないように前提を整理)
- 周知文を作る(注意喚起ではなく「手順の変更」を伝える文章にする)
ここで必ず守るのは、‶個人情報を含む内容は入力しない″ことです。AIに入れるのは、匿名化・一般化した情報に限定し、事例は要素を置き換えた「学習用の事例」として扱います。
3.運営指導で困らない‶エビデンス台帳″の作り方
運営指導で現場が慌てるのは、「やってはいるが、出せない」状態です。紙とデータが混在し、担当者しか場所が分からず、必要な記録がすぐに提示できない。これは指摘につながりやすい典型です。
解決策はシンプルで、‶エビデンス台帳″を作り、「どこに何があるか」を固定します。
3-1.台帳に入れる項目(最小構成)
台帳は大作りにしなくて大丈夫です。まずは次の最小セットで十分です。
- 委員会:年間計画、開催記録、議事録
- 研修:年間計画、実施記録、出席、資料(配布物)
- 手順:指針・手順書、改訂履歴、周知記録
- 点検:自己点検の記録、改善の履歴
3-2.台帳のテンプレート(そのまま使える例)
以下を、紙でも電子でもよいので一枚にまとめます。
【エビデンス台帳(例)】
・項目:虐待防止委員会
・保管場所:共有フォルダ/委員会→虐待防止→2025
・内容:年間計画、議事録、手順改訂、研修記録
・最終更新日:〇年〇月〇日
・管理者:〇〇(役職)
・次回更新予定:〇年〇月〇日
この台帳があるだけで、運営指導の当日に「探す時間」が激減します。説明も安定します。
4.文例:運営指導で説明できる委員会議事録(抜粋例)
ここからは「実際にどう書けばよいか」を、文例として示します。
※個別のサービス種別・法人ルールにより表現は調整してください。目的は「説明できる構造」をつくることです。
【議事録 抜粋例】
・議題:転倒・転落の再発予防(〇月分)
1)事実:夜間帯の居室内移動中に転倒が2件発生。いずれもトイレ移動時。
2)要因(仮置き):見守り配置の偏り/ナースコール到達までの時間差/照明位置の不適合の可能性。
3)変更点(決定):
①夜間の巡視ルートを一部変更し、当該区画の巡視頻度を増やす。
②トイレ動線の照明位置を調整し、足元照度を確保する。
③対象者の移動時支援の声かけ文言を統一する。
4)担当と期限:
①巡視ルート変更:夜勤リーダー〇〇、〇月〇日から実施。
②照明調整:施設管理〇〇、〇月〇日までに対応。
③声かけ統一:介護主任〇〇、〇月〇日までに職員周知。
5)確認項目:翌月、夜間転倒件数とヒヤリハットの内容を比較し、改善効果を確認する。
この形なら、運営指導で「検討した」「周知した」だけではなく、‶手順を変え、担当と期限を決め、確認している″と説明できます。
5.AI活用を運営指導に耐える形にする「法人ルール」最小セット
AI活用で運営指導上のリスクになるのは、「便利だから」と個人情報を入れてしまうことです。これが起きると、説明が難しくなります。そこで、最初から「AI利用ルール」を短くてもよいので明文化します。
5-1.そのまま使えるAI利用ルール(例)
- AIに、氏名、住所、生年月日、顔写真、具体的な病歴など、個人が特定される情報は入力しない。
- 事例は匿名化し、要素を置き換えた「学習用事例」として扱う。
- AIが出した文章はそのまま使わず、職員が事実確認と修正を行う。
- 記録の判断は人が行い、AIは文章整理・要点整理の補助として用いる。
- 利用範囲(議事録整形、周知文下書き、研修資料下書きなど)を決め、逸脱しない。
この「短いルール」があるだけで、運営指導での説明が格段に安定します。
6.そのまま使えるチェックリスト(運営指導対策×AI×委員会)
□ 委員会の議事録に、決定事項、担当者、期限、確認項目が残っている
□ 委員会で決めた変更点が、手順書や申し送りに反映されている
□ 研修が計画・実施・出席確認まで一式で残っている
□ エビデンス台帳により、記録の保管場所が固定されている
□ AI利用ルールが明文化され、個人情報を入力しない運用になっている
7.現場でよくある質問(Q&A)
質問:運営指導では「AIを使っていますか」と聞かれますか。
回答:AIそのものより、委員会、研修、手順整備が制度に沿って実施され、説明できる形で残っているかが中心です。AIを使うなら、その運用が個人情報保護に反しない形になっているかを説明できるようにしてください。
質問:委員会が忙しくて回りません。最低限の要点は何ですか。
回答:議題を増やすより、‶会議の型(フォーマット)″を固定し、「変更点」「担当」「期限」「確認項目」を必ず残してください。ここが残れば、少ない時間でも委員会は機能し始めます。
質問:AIの文章はそのまま議事録に貼ってもよいですか。
回答:おすすめしません。AIは誤りが混ざる可能性があります。議事録は法人の記録です。AIは整理の補助に留め、最終的には担当者が事実確認して整える運用にしてください。
小まとめ
運営指導に強い事業所は、特別なことをしているわけではありません。
‶委員会運営″を「会議の型」で固定し、‶議事録″と‶研修″と‶手順改訂″を、‶エビデンス″として迷いなく提示できる形にしているだけです。
AIは、その作業を軽くし、継続を助ける道具になります。だからこそ、AIの前に「運用」を整えましょう。運用が整えば、運営指導の説明も、現場の安心感も、同時に底上げできます。
(筆:ベガライア17人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕:社会福祉士・研修講師)
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