苦情とカスハラの違いとは?介護・福祉現場で迷わない線引きの基本

福祉現場のハラスメント防止対策

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介護・福祉現場では、利用者や家族から強い言葉を受けたときに、「これは苦情なのか、それともカスハラなのか」と迷う場面が少なくありません。現場で働く職員ほど、相手の困りごとや背景事情を考えようとするため、違和感があっても「まずは自分が受け止めなければ」と抱え込みやすくなります。

特に、高齢者介護では家族からの苦情や強い申し出が深刻化しやすく、障害者支援では利用者本人からの強い訴えや威圧的な言動に戸惑うことがあります。どちらも支援の場で起きるため、単純に「相手が悪い」と切り分けるのではなく、支援上の訴えとして受け止めるべき部分と、職員の就業環境を害する行為として線を引くべき部分を分けて考える必要があります。

そこで本記事では、苦情とカスハラの違いを現場実務の視点から整理します。高齢者介護では家族対応、障害者支援では利用者本人対応を中心に、どこで迷いやすいのか、どこで線を引くのかを確認していきます。日々の対応の中で判断がぶれないように、実務者が持っておきたい基本の見方を押さえておきましょう。

高齢者介護で迷いやすい「家族からの苦情」と「家族からのカスハラ」

高齢者介護では、家族が強い不安や焦りを抱えていることが珍しくありません。利用者本人の体調変化、今後の見通し、費用負担、サービス内容への不満などが重なると、家族の言い方がきつくなったり、感情的になったりすることがあります。このため、現場では強い口調や厳しい訴えを見ただけで、すぐにカスハラと決めつけない姿勢も大切です。

たとえば、次のような内容は、言い方に問題があっても、まずは苦情として受け止める必要があります。

  • 送迎の遅れや説明不足への不満
  • ケア内容や職員対応への確認や改善要望
  • 利用者本人の変化についての不安や質問
  • 契約内容やサービス範囲に関する疑問

このような訴えは、現場の見直しや説明の改善につながる可能性があります。したがって、相手の口調だけではなく、何に困っているのか、何を求めているのかを丁寧に確認することが必要です。

一方で、内容に一理あるように見えても、次のような言動が重なると、家族からのカスハラとして見ていく必要があります。

  • 長時間にわたって一方的に職員を責め続ける
  • 「おまえじゃ話にならない」など人格を否定する
  • 制度や契約の範囲を超える要求を執拗に繰り返す
  • 他職員の前でも怒鳴る、威圧する、謝罪を強要する
  • 「名前を出して言いふらす」など拡散をほのめかす

ここで大切なのは、要求の中身だけでなく、要求の仕方を見ることです。たとえ出発点が正当な不満であっても、相手を傷つけたり、就業環境を害したりする言動にまで至っていれば、それは単なる苦情対応では済まなくなります。

高齢者介護の現場では、家族との関係を壊したくないという思いから、その場で何とか収めようとしてしまいがちです。しかし、職員が一人で抱え込むと、対応が場当たり的になり、かえって家族側の不満や要求が強まることもあります。苦情は受け止める、カスハラには線を引くという基本姿勢を持つことが、結果的に家族との関係を必要以上に悪化させないことにもつながります。

ただし、厚労省が示すカスハラ対策マニュアル(※)にもあるように、それがたとえはカスハラであったとしても、利用者特性を十分に理解した対処策を講じることも介護・福祉専門職のあるべき対応です。つまり、直ぐに引きはがすような対処策をとらず、それぞれの特性に沿った個別の対処が望ましいと思われます。

厚労省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」

障害者支援で迷いやすい「利用者本人の訴え」と「利用者本人のカスハラ」

障害者支援では、利用者本人の訴えをどう理解するかが、より難しい課題になることがあります。障害特性、過去のつらい経験、被害感の強さ、環境変化への不安、支援への不信感などが背景にあると、強い口調や拒否、支配的な言動として表れることがあります。そのため、利用者本人の言動を表面的に見て判断せず、まずは背景理解を欠かさないことが重要です。

ただし、背景を理解することと、すべてを許容することは同じではありません。支援の現場では、利用者本人の訴えの中に、確かに受け止めるべき困りごとが含まれている場合があります。たとえば、説明が伝わっていない、支援の手順に納得できていない、感覚過敏やこだわりから不安が強くなっているといったことです。このような場合は、まず訴えを整理し、支援方法の見直しや説明の工夫が必要かを検討することが大切です。

その一方で、次のような状態が続く場合は、利用者本人からのカスハラとして線引きを考える必要があります。

  • 支援者に対して繰り返し暴言や威圧を行う
  • 命令口調で過度な要求を続ける
  • 特定の職員を支配するような関わりが強まる
  • 長時間の拘束や執拗な呼び出しが続く
  • 配慮を重ねても、人格否定や攻撃的言動が続く

障害者支援の現場では、「利用者本人だから強く言えない」「支援者側が我慢すべきではないか」と感じやすいものです。しかし、職員が疲弊し、支援に萎縮が生じれば、本人にとっても安定した支援が続きにくくなります。支援の継続と職員の安全は、対立するものではなく、どちらも守る必要があります

そのために有効なのは、事実と要望を分けて考えることです。たとえば、

  • 本人は何に困っているのか
  • どこに誤解や不安があるのか
  • 要望のうち、支援として調整できる部分はどこか
  • 一方で、許容できない言動は何か

このように分けて整理すると、必要な配慮と必要な線引きが見えやすくなります。さらに、障害者支援では個別対応の比重が高いため、問題が表に出にくい傾向があります。違和感があった時点で、記録を残し、共有し、必要に応じて上司やチーム判断につなげることが欠かせません。

現場で意識したいポイントを挙げると、次の3点にまとまります。

  • 背景理解は大切だが、暴言や威圧を放置しない
  • その場で一人で結論を出そうとしない
  • 記録と共有を通じて、個人対応にしない

障害者支援では、支援関係を保ちたい思いが強いからこそ、職員側が限界まで我慢してしまうことがあります。だからこそ、冷静に見立てて、組織として対応する姿勢が必要です。

まとめ

苦情とカスハラの違いは、相手が不満を持っているかどうかではなく、その訴えが改善につながる内容か、そして言動が許容範囲を超えていないかで見ていくことが大切です。高齢者介護では家族からの強い訴え、障害者支援では利用者本人からの強い言動が迷いやすい場面になりやすいですが、どちらも背景理解と線引きを分けて考える必要があります。現場で抱え込まず、記録共有を通じて組織で判断することが、職員を守り、支援の質も守る基本になります。

【次回の内容】
次回は、カスハラ対策の義務化で何をすればいい?介護・福祉事業所の準備ポイントを取り上げます。

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【筆者】

梅沢佳裕
ベラガイア17 人材開発総合研究所最新福祉情報サイト【介護キャンパス】主宰

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