(筆者:ベラガイア17人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕:社会福祉士・ケアマネジャー)
今回は、普段実施している研修内容の一部として、講義②「折れた後の回復プロセスと抱え込まないコツ」と、ワーク②「反芻ストップ・ワーク」の内容をご紹介します。前編では、呼吸・切り替え・区切りという視点から、現場で気持ちを立て直す基本を確認しました。後編では、その先にある「折れた後、どう回復していくか」、そして「一人で抱え込まずに立て直すにはどうしたらよいか」を、介護・福祉の実務者向けに丁寧に整理していきます。
介護の現場では、利用者対応や家族対応だけでなく、申し送り、上司や同僚とのやりとり、業務の重なりなど、心が疲れる場面が日常の中にあります。そうしたときに必要なのは、「強い心を持つこと」ではありません。大切なのは、折れたあとに、どう戻るかを知っていることです。後編では、そのための回復の順番と、気持ちを長引かせすぎないための具体的な方法を扱います。
講義②:折れた後の回復プロセスと“抱え込まないコツ”
落ち込むこと自体は、弱さではありません
仕事の中で心が折れそうになると、「こんなことで落ち込む自分はだめなのではないか」と思ってしまうことがあります。ですが、まず皆さんにお伝えしたいのは、落ち込むこと自体は異常ではなく、ごく自然な反応だということです。
たとえば、家族から強い言葉を受けたあと、同僚の一言が心に残ったあと、申し送りで注意を受けたあとに気持ちが沈むのは、弱いからではありません。むしろ、それだけ真剣に仕事に向き合っているからこそ、心が反応しているともいえます。ここで大事なのは、「落ち込んではいけない」と自分を追い込まないことです。まずは、今の自分は揺れているのだと受け止めることが、回復の第一歩になります。
回復には「順番」があります
気持ちが大きく揺れているときは、何から手をつければよいか分からなくなりやすいものです。そこで後編では、回復の優先順位をはっきりさせています。大切なのは、「安全 → 業務 → 気持ち」の順番です。
まず最優先なのは、利用者の安全やその場の安全を守ることです。その次に、業務を最小限でも継続できる状態に戻すこと。そして最後に、自分の気持ちを整えていきます。気持ちがつらいと、どうしても心の整理を先にしようとしがちですが、現場ではその順番ではかえって苦しくなることがあります。だからこそ、まず安全、次に業務、そのうえで気持ちという順番を知っておくことが大切です。
ここで目指すのは、「何事もなかったように完全に元気になること」ではありません。落ち着いて次の行動に移れる状態まで戻ることで十分です。介護の現場では、毎回100%の回復を求めるよりも、まず少し戻ることのほうが現実的で、実際に役立ちます。
レジリエンスは「一人で頑張ること」ではありません
レジリエンスという言葉は、「自分で何とかする力」のように受け取られがちです。もちろん、自分で立て直す力は大切です。ですが、この講義で強調しているのは、レジリエンスは一人で抱え込むことではないという点です。必要な場面で人に頼ること、支えを使うことも、回復力の一部です。
たとえば、次のような状態が続いているときは注意が必要です。
- 眠れない日が続く
- 食欲が落ちている
- 仕事に集中しにくい
- ため息ばかり出る
- 涙もろさやイライラが続く
このようなときは、「まだ頑張れる」と無理を重ねるよりも、相談、休養、勤務調整などを使うことが大切です。これは甘えではなく、必要な手当てです。むしろ、早めに支えを入れられる職場ほど、離職やミスを防ぎやすくなります。
ここで使っている精神的ケアという言葉は、自分で行うセルフケアだけでなく、上司や同僚への相談、休養、勤務調整、必要に応じた受診など、周囲の支えも活用しながら心の負担を軽くしていくことを指しています。
※セルフケアとは、自分で自分の心身を整える取り組みのことです。
申し送りや相談の場は、「責める場」ではなく「立て直す場」です
後編でとても重要なのが、申し送りや相談の場の使い方です。介護現場では、申し送りが「指摘される場」「注意される場」と感じられてしまうことがあります。すると、必要な情報共有までつらいものになり、職員は萎縮しやすくなります。
そこで大切になるのが、申し送りを「責める場」ではなく「立て直す場」として捉えることです。その基本は、「事実 → 次の手順 → 支援」の順で話すことです。何が起きたのか、そのあとどう動くのか、必要ならどんな支えを入れるのか。この順番で整理すると、人格や能力への評価に流れにくくなります。
つまり、職場の言葉の使い方そのものが、職員のレジリエンスに関わっています。強い言い方や叱責ではなく、事実を確認し、次にどうするかを共有し、必要なら支える。この流れがあるだけでも、現場での心の傷つき方は変わってきます。
回復は「続けられる形」にしてこそ意味があります
後編では、回復の方法を一度知って終わりにしないための工夫も扱います。ここで特に大切なのが、反芻を長引かせすぎないことです。
※反芻(はんすう)とは、嫌だった出来事や気になることを、頭の中で何度も繰り返し思い返してしまうことです。
嫌な出来事を思い出してしまうこと自体は自然なことです。問題は、いつまでも頭の中で繰り返し続けてしまうことです。そこで必要になるのが、区切る習慣です。
たとえば、
- 帰宅後に3分だけメモを書く
- 休憩の最後に呼吸を3回して終える
- 寝る前は5分だけ考えてタイマーで止める
このように、時間ややり方を決めて終えるだけでも、反芻は長引きにくくなります。ここでも大切なのは、「完璧にやること」ではなく、一つに絞って続けることです。いろいろ試すよりも、自分に合う方法を一つ決めて使うほうが、現場では役に立ちます。
さらに、「何が自分に効いたか」を一行だけでも残しておくと、次に同じような場面が来たときに迷いにくくなります。たとえば、「呼吸で落ち着いた」「上司に話したら少し楽になった」といった短い記録でも十分です。この小さな積み重ねが、自分のレジリエンスを支えていきます。
ワーク②:反芻ストップ・ワーク
反芻は、無理に消そうとしなくてよいのです
ワーク②では、あとから何度も思い出してしまう出来事を扱います。ここで大切なのは、つらい出来事を無理に消そうとしないことです。消そうとするほど、かえって頭に戻ってくることがあるからです。そこでこのワークでは、「ぐるぐるをなくす」ことではなく、「区切って終える」ことを体験していきます。
最初に行うのは、場面を一つだけ決めることです。たとえば、申し送りでの注意、同僚の一言、家族対応で責められた場面など、「あとから思い出してつらくなる場面」を一つ選びます。ここで大切なのは、詳しく書きすぎないことです。このワークは、その出来事を深掘りして苦しくなるためのものではなく、終わらせ方を練習するためのものだからです。
書くのは「3つだけ」にします
次に、3分だけ紙に書き出します。書くのは、次の3つだけです。
- 事実(1行)
- 気持ち(1語)
- 今やること(1つ)
たとえば、
「申し送りで注意された」
「悔しい」
「呼吸を3回する」
というような形です。
ここでのポイントは、反省を書き込まないことです。長く書けば書くほど、気持ちが再び強くなってしまうことがあります。このワークで大切なのは、内容を整理すること以上に、3分で止めることです。つまり、書くこと自体より、時間で区切る体験に意味があります。
終わり方を言葉で決めておくと、戻りやすくなります
そのあとに行うのが、終えるフレーズを決めることです。たとえば、
- 「今日はここまで」
- 「今は休む」
- 「明日やる」
- 「安全確認に戻る」
といった、自分なりの一言を固定しておきます。終わり方を言葉で決めておくと、あとから反芻が戻ってきたときにも、再び区切りやすくなります。これは、現場でも家庭でも使いやすい方法です。
自分に合う「終え方」は、一つで十分です
ワーク②では、反芻を終える方法として、いくつかのやり方が示されています。たとえば、
- 3分メモで終える
- 呼吸3回で終える
- 時間を決めて終える
ここで大切なのは、たくさん持たないことです。あれもこれもと増やすのではなく、自分に合う一つだけを選びます。そして、「いつ使うか」まで決めておくことがポイントです。帰宅後、夕食後、寝る前、休憩の最後など、使う場面が決まっていると実行しやすくなります。
「終えられた体験」そのものが回復です
このワークで皆さんに持ち帰っていただきたいのは、反芻をゼロにすることではありません。目標は、長引かせないことです。「今日はここで終えられた」「3分で止められた」という体験そのものが、回復につながります。
ここで背景にある考え方として、認知行動療法やメタ認知の発想があります。
※認知行動療法とは、ものの受け止め方や行動のしかたを見直しながら、心の負担を軽くしていく考え方です。
※メタ認知とは、自分の考え方や気持ちの動きを、一歩引いて見つめることです。
難しく感じる必要はありません。要するに、「今、自分はこのことをぐるぐる考えている」と気づき、少し距離を取って終える練習だと考えると分かりやすいと思います。これができるようになると、同じような出来事があっても、前より長く引きずりにくくなっていきます。
本研修(後編)で皆さんに持ち帰っていただきたいこと
後編で大切にしているのは、レジリエンスを「我慢の力」としてではなく、「回復の技法」として理解することです。落ち込まないことを目指すのではなく、落ち込んだあとにどう戻るかを知ること。抱え込まないこと。申し送りや相談の場を、お互いを責める場ではなく立て直す場にしていくこと。反芻を無理になくそうとせず、区切って終えること。こうした一つひとつが、介護の現場で長く働き続けるための支えになります。
前編の呼吸・切り替え・区切りと、後編の回復の順番・抱え込まないコツ・反芻を長引かせない方法は、別々の内容ではありません。どちらも、心が揺れた(揺らぎ)あとに戻る力(回復力)を育てるための大切な土台です。
著者(講師)
ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表 梅沢 佳裕
社会福祉士・介護支援専門員・アンガーマネジメントファシリテーター
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■関連リンク:厚生労働省「こころの耳」
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研修企画担当の皆さまへ(講師依頼について)
レジリエンス研修は、「気持ちを強く持ちましょう」といった精神論だけでは、現場に残りにくいテーマです。本研修の後編では、折れた後の回復の順番を整理し、一人で抱え込まないコツや、反芻を長引かせない方法を、実務で使える形で確認していきます。
前編の呼吸・切り替え・区切りとあわせて実施することで、介護職・福祉職が日々の業務の中で自分を守りながら働き続けるための、より実践的な学びにつながります。新任職員には基礎的な心の守り方として、中堅職員には抱え込みを減らす視点として、管理者には申し送りや支援体制の見直しの視点として活かしやすい内容です。
普段実施している研修内容の一部をご紹介しましたが、全体ではさらに現場に引きつけた形でお伝えしています。レジリエンスを「我慢」ではなく「回復の技法」として職員に届けたい事業所様に適した研修です。
このような事業所様におすすめです
- 職員が気持ちを引きずりやすい
- 申し送りや人間関係で疲弊しやすい
- 我慢ではなく、具体的な回復方法を学びたい
- 新任から中堅まで共通して使える内容を探している
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