2028年4月1日から、これまで努力義務だった労働者数50人未満の事業場にも、ストレスチェックの実施が義務化されます。小規模な介護・福祉事業場でも、個人結果を誰が扱うのかを今から整理しておく必要があります。
ここでいう「ストレスチェック」とは、労働安全衛生法に基づく「心理的な負担の程度を把握するための検査」です。厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」は、その実施に広く用いられている標準的な調査票です。
ストレスチェックを実施すると、「職員の状態を把握するため、管理者も結果を確認した方がよいのでは」と考えることがあります。しかし、職員への配慮と、個人結果を確認することは別です。
個人結果は、まず本人に通知される
ストレスチェックの個人結果は、実施者から労働者本人へ直接通知されます。
事業者が個人結果の提供を受けるには、原則として本人の同意が必要です。同意を求めるのは、結果が本人へ通知された後です。実施前や実施時に、結果提供への同意をあらかじめ取ることは適切ではありません。
また、同意を強要したり、同意しないことを理由に不利益な取扱いをしたりすることも認められていません。
管理者だから見られる、ではない
施設長や管理者であっても、本人の同意なく個人結果を見ることはできません。
小規模な職場では、「結果はどうだった?」「高ストレスではなかった?」と本人に聞きたくなる場面もあるでしょう。ただ、ストレスチェック結果は健康情報です。本人が望まない開示を求めるような運用は避けます。
管理者が把握すべきなのは、必ずしも検査結果そのものではありません。「夜勤を減らしてほしい」「今の業務量がきつい」といった相談があれば、必要な業務上の配慮を検討します。
人事権のある管理者が扱えない事務がある
人事に関して直接の権限を持つ監督的地位にある人は、ストレスチェック結果など、労働者の健康情報を扱う実施事務には従事できません。
一方、健康情報を扱わない次のような事務には関わることができます。
- 実施計画や日程の調整
- 外部委託先との連絡
- 職員への実施案内
- 内容を見ない状態での調査票の配布
- 未受検者への受検勧奨
「制度を運営すること」と「個人結果を扱うこと」を分けるのがポイントです。
高ストレス者の面接指導ではどうなる?
ストレスチェックの結果、高ストレス者として選定され、医師による面接指導が必要と判断された労働者は、本人の申出により面接指導を受けることができます。
事業者は申出を受けた場合、医師による面接指導を実施し、その結果に基づいて医師の意見を聴いたうえで、必要に応じて就業上の措置を検討します。
面接指導を申し出たことや、ストレスチェック結果だけを理由に不利益な取扱いをすることは認められていません。
本人の同意により事業者へ提供された結果についても、健康確保に必要な範囲を超えて上司や同僚へ共有してはいけません。
小規模事業場ほど、実施前にルールを決める

介護・福祉の小規模事業場では、施設長が人事、労務、現場管理を兼ねていることもあります。2028年4月の義務化に向け、少なくとも次の点は整理しておきたいところです。
- 誰が個人結果を扱うのか
- 誰には結果を見せないのか
- 本人同意をどのように確認するのか
- 高ストレス者を面接指導へどうつなぐのか
- 健康情報を職場内でどこまで共有するのか
ストレスチェックは、職員が安心して回答できる運用があってこそ機能します。
管理者が担うのは、個人結果を知ることよりも、職員のプライバシーを守りながら必要な支援につなげられる体制を整えることです。
管理者が今から整えておきたい5つのこと
ストレスチェックを適切に運用するには、管理者が個人結果を確認するのではなく、職員が安心して受検し、必要な支援につながれる仕組みを整えることが大切です。
1.誰が何を担当するのかを決める
まず、実施者、実施事務従事者、事業者・管理者の役割を整理します。
特に小規模な介護・福祉事業場では、施設長や管理者が人事・労務を兼ねていることがあります。誰が個人結果を扱えるのか、誰は扱わないのかを実施前に明確にしておきます。
外部機関へ委託する場合も、結果通知、データ管理、高ストレス者への対応など、どこまでを委託するのか確認しておきましょう。
2.職員に「誰が結果を見るのか」を説明する
職員が最も気にするのは、自分の結果が管理者や同僚に知られるのではないかという点です。
実施前に、
「個人結果は誰に通知されるのか」
「管理者はどこまで情報を知るのか」
「本人の同意はどの場面で必要なのか」
を分かりやすく説明します。
個人情報の取扱いを曖昧にしないことが、安心して回答できる環境につながります。
3.高ストレス者を支援につなぐ流れを決める
高ストレス者として選定され、医師による面接指導が必要と判断された職員から申出があった場合、事業者は面接指導につなげます。
そのため、実施してから医師を探すのではなく、誰が申出を受け、どの医師・外部機関へつなぐのかを事前に決めておくと安心です。
面接指導後は、医師の意見を踏まえ、必要に応じて勤務時間や業務内容などの就業上の措置を検討します。
4.管理者への相談ルートも用意する
ストレスチェックの結果そのものを管理者が知らなくても、職員から「夜勤を減らしてほしい」「業務量が負担になっている」と相談を受けることはあります。
その際は、検査結果の開示を求めるのではなく、本人が困っていることと、職場として調整できることを確認します。
直属の上司には話しにくい場合もあるため、人事・労務担当者や法人の相談窓口など、複数の相談ルートを示しておくことも有効です。
5.職場全体の課題にも目を向ける
ストレスチェック制度には、個人への対応だけでなく、集団分析を職場環境改善に活用する仕組みがあります。
集団分析とその結果を活用した職場環境改善は、現時点では努力義務です。また、2027年4月からは、集団分析を行う場合、個人を特定できない方法で実施することが明確化されます。
介護・福祉現場であれば、夜勤や勤務配置、休憩の取り方、記録業務、利用者・家族対応、職員間の連携など、ストレス要因となり得る職場環境を見直す材料として活用できます。
個人の結果を追いかけるより、「この職場で働く人に負担が集中しているところはないか」を見ることが、管理者に求められる視点です。
「結果を見る管理」から「働ける環境を整える管理」へ
ストレスチェック制度で、管理者がすべきことは職員のストレス状態を一人ずつ把握することではありません。
- 職員が安心して受検できる。
- 必要なときに面接指導や相談につながれる。
- 業務上の配慮が必要なら検討できる。
- 職場全体の負担にも目を向けられる。
こうした仕組みを整えることが、管理者の大切な役割です。
2028年4月の50人未満事業場への義務化を、単なる制度対応で終わらせず、職員が安心して働き続けられる職場づくりにつなげていきましょう。
参考資料
厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」
厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」
厚生労働省・こころの耳「ストレスチェック制度について 労働者数50人未満の事業場」
厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」
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