2026年10月1日、改正労働施策総合推進法により、事業主のカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)防止措置が義務化されました。
施行から1か月が経過しました。介護・福祉事業所では、相談窓口や対応指針を整備したうえで、実際に職員から相談を受けた際の管理者の判断が重要になっています。
「家族から繰り返し叱責されている」「利用者本人の暴言が続き、対応が怖い」。こうした相談を受けた際、管理者が最初に何を確認し、どのような対応を指示するかによって、その後の職員の負担や支援体制は変わってきます。
厚生労働省の指針では、カスハラの判断に当たり、要求内容、言動の態様、経緯、頻度、業務の性質などを総合的に考慮するとしています。苦情や強い口調の訴えが、すべてカスハラに該当するわけではありません。
今回は、介護・福祉事業所の管理者が初期対応で確認したい5つのポイントを、具体的な対応例とともに解説します。
管理者が初期対応で確認したい5つのポイント
① 職員の安全を確認し、対応を続けられる状態か判断する
職員から相談を受けたら、まず身体的な危険の有無と、心身の状態を確認します。
「相手はまだ興奮していますか」「身体への接触や脅迫はありましたか」「同じ方への対応を続けることに不安はありますか」と尋ね、現在の状況を把握します。
暴力や差し迫った危険がある場合は、職員の退避や安全確保を優先し、必要に応じて警察へ通報します。負傷があれば医療機関の受診も検討します。
身体的な被害がなくても、職員が強い恐怖や不安を感じている場合は、対応者の交代や複数名対応を検討します。
「もう少し我慢して対応してほしい」と職員に任せ続けることは、被害の長期化につながるおそれがあります。
② 相手の言動と、それまでの経緯を分けて確認する
相談した職員の説明を丁寧に聴き、何が起きたのかを確認します。
確認したいのは、発言内容、要求、対応時間、繰り返しの有無、職員の説明、その前後の経緯です。
たとえば、家族が「説明が違う」と強く訴えた場合、実際に説明の食い違いや対応の遅れがなかったかも確認します。
職員側に改善すべき点があった場合も、暴言や脅迫などの行為が正当化されるわけではありません。事業所側の対応上の問題と、相手の言動の相当性をそれぞれ確認します。
また、職員の説明に加えて、必要に応じて介護記録・支援記録、他職員の証言、利用者本人の状態などを確認します。
③ 現場対応を続けるか、管理者が引き継ぐかを判断する
職員の説明後も要求が繰り返される場合や、対応が長時間に及ぶ場合は、管理者が対応を引き継ぐことを検討します。
家族から「担当職員では話にならない」と繰り返し電話が入る場合には、管理者が窓口となり、確認事項と回答方法を整理します。
管理者が説明する際は、「ご指摘の内容を確認しました。事業所として対応できる範囲を整理し、改めてご説明します」など、回答までの流れを具体的に伝えます。
対応できない要求については、理由と事業所が対応できる範囲を説明します。
管理者への引き継ぎ後も、担当職員が個別に同じ説明を繰り返すことがないよう、対応窓口と方針を共有しておきます。
④ 利用者への支援に影響が出ていないか確認する
介護・福祉現場では、利用者本人への支援と、家族・利用者からのハラスメントへの対応を合わせて検討する必要があります。
高齢者介護では、家族との面談方法や連絡窓口を変更しても、利用者本人には必要な介護サービスを継続できる場合があります。
障害福祉では、本人の言動の背景に、意思疎通の難しさ、不安、感覚過敏、環境の変化などが関係している可能性もあります。
管理者は、支援方法や環境調整、合理的配慮の必要性を確認しながら、職員の安全を確保する対応を検討します。
サービス継続が困難になるおそれがある場合には、契約内容や運営基準、利用者への影響を確認し、必要に応じて介護支援専門員、相談支援専門員、市区町村等と連携します。
⑤ 対応後の職員支援と再発防止を具体化する
その場の対応が終了した後も、職員への確認を続けます。
「次の勤務で同じ場面になったとき、対応できそうですか」「管理者に引き継いでほしい場面はありますか」と尋ね、必要な支援を検討します。
精神的な負担が強い場合は、勤務調整や産業保健スタッフ等への相談も考えられます。
また、記録した事実をもとに、管理者が対応を切り替える基準、家族への説明方法、職員間の情報共有などを見直します。
同じ事案が繰り返される場合は、改善策を決めた後も実施状況を確認し、効果が不十分であれば対応方法を再検討します。
高齢者介護・障害福祉の事例から考える管理者の具体的対応

事例① 高齢者介護:家族から繰り返し電話で叱責される
特別養護老人ホームで、利用者Aさんの家族から「なぜ昨日の様子を報告しなかったのか」と電話が入りました。
担当職員が経過を説明しても、家族は「責任者を出せ」「こんな対応では信用できない」と強い口調で訴えます。その後も同じ内容の電話が繰り返され、担当職員は通常業務に支障を感じています。
この場面で管理者が最初に行うのは、家族の訴えの内容と、事業所側の説明・連絡状況の確認です。
説明に不足があった場合には、必要な説明や改善を行います。そのうえで、繰り返される叱責や長時間の電話への対応方法を検討します。
たとえば、次のように伝えることが考えられます。
「ご心配をおかけした点について、事実を確認してご説明します。今後のご連絡は管理者が窓口となります。確認が必要な事項は整理して回答いたします」
家族の意向を受け止めながら、対応窓口を整理し、職員への負担が集中しないようにします。
事例② 障害福祉:利用者本人の暴言が繰り返される
生活介護事業所で、予定変更があった際、利用者Bさんが職員に「お前のせいだ」「もう来るな」と強い言葉を繰り返しています。
担当職員は対応に不安を感じ、管理者へ相談しました。
管理者は、まず職員の安全と心理的負担を確認します。あわせて、予定変更の伝え方、見通しの示し方、本人の意思疎通の方法、当日の体調や周囲の環境を確認します。
そのうえで、サービス管理責任者等と相談し、予定変更を事前に視覚的に知らせる、本人が落ち着いて確認できる時間を設ける、担当職員の配置を調整するといった対応を検討します。
ただし、暴力や危険な行為がある場合には安全確保が優先されます。
障害特性への理解と合理的配慮を踏まえ、職員が安心して支援できる方法を組織で考えることが重要です。
管理者の初期対応を、事業所の共通ルールにする
今回の5つのポイントは、法令で定められた一律の対応手順ではありません。事業主に求められるカスハラ防止措置を、介護・福祉現場で具体的に運用するための実務上の確認事項です。
管理者が初期対応を行う際には、職員の安全、事実確認、対応者の変更、利用者への支援、再発防止を一連の流れとして確認します。
また、管理者自身が判断に迷う場合は、法人本部や上位者に相談できる体制も必要です。
職員から相談があったとき、最初に誰が話を聴き、何を確認し、どの段階で管理者が引き継ぐのか。事業所内で実際の事例を使って確認しておくことが、カスハラ防止措置を機能させるための重要な取り組みになります。
参考資料
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」
- 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」
- 厚生労働省「障害福祉の現場におけるハラスメント対策マニュアル」
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梅沢佳裕
― ベラガイア17 人材開発総合研究所/最新福祉情報サイト【介護キャンパス】主宰
【カテゴリトップ】福祉現場のハラスメント防止対策
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