主な対象読者
介護職、支援員、保育士、児童指導員、放課後児童支援員、リーダー職、研修担当者
「ちょっと待って」「座っていて」「ダメ」「早くして」。
介護・福祉の現場では、安全を守りたいときや業務が重なったときに、こうした言葉が出ることがあります。しかし、スピーチロックを考えるときは、言葉だけを見ても十分ではありません。
同じ「少し待ってください」でも、落ち着いた声で理由を伝えるのか、険しい表情でにらむように伝えるのかでは、相手の受け止め方は大きく変わります。
スピーチロックを考えるうえでは、言葉の内容だけでなく、声の調子、表情、視線、姿勢、距離感なども含めた「伝え方全体」を振り返る視点が欠かせません。
この記事で分かること
・スピーチロックとはどのような関わりか
・言語・準言語・非言語が相手に与える影響
・介護、障害福祉、障害児支援、保育で起こりやすい場面
・相手の意思を確かめる「双方向の関わり」の大切さ
・言葉による一方的な制止を減らす5つのポイント
スピーチロックとは? 言葉だけで判断しない
スピーチロックは、法律で定義された虐待類型や身体拘束の正式名称ではありません。
介護現場などで、言葉によって相手の行動を制止したり、意思表明を抑えたりする関わりを振り返る際に使われている実務上の言葉です。
ここで注意したいのは、「待って」「座っていて」といった特定の言葉を使っただけで、直ちにスピーチロックと判断するものではないという点です。
たとえば、
「床が濡れていて危ないので、ここで少し待ってください。拭いたら一緒に行きましょう」
という声かけであれば、安全を守るために必要な対応になることがあります。
一方で、本人が立ち上がるたびに「座っていて!」と強い口調で繰り返し、なぜ立ち上がったのかを確認しないまま制止し続けているのであれば、本人の意思や行動を一方的に抑えていないか、支援を振り返る必要があります。
見るべきなのは、言葉そのものよりも、その言葉がどのように使われ、相手にどのような影響を与えているかです。
言葉・声・表情・態度は一緒に伝わる
人とのコミュニケーションでは、言葉の内容だけが伝わっているわけではありません。
「何を言ったか」という言語情報に加えて、声の大きさ、速さ、強さ、抑揚といった準言語、さらに表情、視線、姿勢、身ぶり、相手との距離といった非言語情報も同時に伝わっています。
たとえば、職員が「少し待ってくださいね」と丁寧な言葉を使っていたとしても、険しい表情でにらむように伝えたり、強い声で突き放すように言ったりすれば、本人には「動くな」「言うことを聞け」と受け取られることがあります。
利用者や子どもは、職員の感情の変化を敏感に感じ取ることがあります。
強い言い方や乱暴な言い方が続けば、本人が黙る、視線をそらす、自分から希望を言わなくなる、特定の職員を避けるといった反応につながることもあります。
「どんな言葉を使ったか」だけでなく、「どんな表情・声・態度で伝えたか」まで振り返ることが大切です。
支援や保育は双方向の関わり
利用者支援や子どもとの関わりは、職員が一方的に指示を出して終わるものではありません。
職員が声をかけ、本人が反応し、その反応を受けて職員が関わり方を変えていく。支援や保育は、この相互のやり取りの中で成り立ちます。
「座っていてください」と伝えたとき、本人が不安そうな表情をしたのであれば、その反応を受け取ります。
「どうしましたか」
「何かしたいことがありますか」
「トイレですか」
「こちらへ行きたいですか」
と確認することで、本人が本当に伝えたかったことが見えてくる場合があります。
子どもとの関わりでも同じです。
「今はできないよ」と伝えて終わるのではなく、「どうしたかったの?」「あとで一緒にやろうか」とやり取りを続けることで、子どもの意思をくみ取ることができます。
相手の意思をうかがう姿勢があるかどうかは、スピーチロックを防ぐうえで非常に大切な視点です。
分野によって起こりやすい場面は異なる
高齢者介護では「なぜ動くのか」を見る
高齢者介護では、転倒への不安から、
- 「立たないで」
- 「一人で行かないで」
- 「今はトイレに行けません」
- 「何度も呼ばないで」
といった言葉が出やすくなります。
しかし、立ち上がる背景には、排泄したい、痛みがある、同じ姿勢がつらい、不安がある、誰かを探しているなど、本人なりの理由があるかもしれません。
認知症のある人へのケアでも、行動だけを止めるのではなく、その行動の背景にあるニーズを確認する視点が大切です。
障害福祉では、障害特性や意思表出を確認する
障害福祉では、活動の切り替え、作業、外出、食事などの場面で、
- 「ダメです」
- 「そこに行かないで」
- 「ちゃんとしてください」
- 「言うことを聞いてください」
といった声かけが続くことがあります。
本人が言葉で気持ちを十分に伝えられない場合、席を離れる、大きな声を出す、動きを止めるといった行動そのものが、意思表出になっていることもあります。
障害特性、感覚過敏、疲労、環境の変化、予定の見通しなどを確認することで、制止する以外の支援方法が見つかることがあります。
また、怒鳴る、脅す、侮辱するといった威圧的な言動は、障害者虐待防止の観点からも確認が必要です。
スピーチロックと心理的虐待は同じ意味ではありませんが、本人が職員の言葉や態度によって萎縮している場合は、単なる言葉づかいの問題として済ませない視点が必要です。
障害児支援・保育では、子どもの意思をくみ取る
児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所などでも、
- 「早くして」
- 「泣かないの」
- 「そこから動かないで」
- 「言うことを聞かないなら○○できないよ」
といった言葉が使われることがあります。
子どもは年齢や発達段階によって、自分の気持ちや困りごとを十分に言葉にできないことがあります。
児童指導員や保育士には、行動を止める前に、「何が嫌なのか」「どうしたかったのか」「何を伝えようとしているのか」をくみ取る姿勢が求められます。
子どもとの関わりでは、大人の表情や声色、距離感も大きな影響を与えます。
言葉が穏やかでも、怒った表情で見下ろすように伝えれば、子どもは「怖い」「逆らってはいけない」と感じることがあります。
相手を傷つけない関わりに見直す5つのポイント
スピーチロックを防ぐために、「この言葉は禁止」と決めるだけでは十分ではありません。
現場では、次の5つを確認してみてください。
1.まず、本人が何をしようとしているのかを見る
立ち上がる、席を離れる、何度も呼ぶ、活動をやめる。
行動には、その人なりの理由があります。
制止する前に「どうしましたか」「何かしたいことがありますか」と確認することで、支援の方向が変わることがあります。
2.止める必要があるときは、理由と見通しを伝える
安全のために、すぐ行動を止めなければならない場面もあります。
その場合は、
「ここは滑りやすいので、少し待ってください。すぐ一緒に行きます」
のように、なぜ止めるのか、その後どうなるのかを伝えます。
理由が分かり、次の見通しが持てると、本人の不安も軽くなります。
3.できる方法や選択肢を示す
「行かないで」「触らないで」「今はできません」が続くと、本人には禁止されたことだけが残ります。
「こちらならできます」
「あと5分でできます」
「一緒にやってみましょう」
など、代わりにできる方法を示すことで、本人の選択肢を残せます。
4.表情・声・態度も振り返る
丁寧な言葉を使っていても、強い声、険しい表情、にらむような視線、威圧的な姿勢で伝えていれば、相手は心理的な圧迫を感じることがあります。
言葉・準言語・非言語を合わせて振り返ることが大切です。
「自分は丁寧に言った」という職員側の認識だけでなく、相手がどう受け止めていたかにも目を向けます。
5.相手の反応を受け取り、やり取りを続ける
声をかけた後の表情、返事、しぐさを見ます。
本人が不安そうにしていないか、萎縮していないか、別の希望を伝えようとしていないかを確認します。
支援や保育は、相手の反応を受け取りながら進める双方向の関わりです。
一度伝えて終わるのではなく、相手の反応に合わせて声かけや支援方法を調整していくことが、言葉による一方的な制止を減らします。
職場で共有したいサイン
・「待って」「ダメ」が以前より増えている
・特定の利用者や子どもへの口調だけが強くなる
・職員によって対応が大きく異なる
・本人が特定の職員を見ると黙る、避ける、萎縮する
・職員が本人の反応を確認せず、指示だけで関わっているこうした変化がみられたら、言葉づかいだけでなく、支援方法や職場環境も含めて振り返ります。
リーダー職や研修担当者も、「スピーチロックは禁止です」と注意するだけでは、現場の改善につながりにくいものです。
どの場面で強い言葉が出やすいのか、本人は何を求めていたのか、職員はどのような気持ちで対応していたのか、別の関わり方はなかったのか。
実際の場面を職員同士で振り返ることが、日常の支援を変える第一歩になります。
まとめ
スピーチロックは、「待って」「座っていて」「ダメ」といった特定の言葉だけで判断するものではありません。
確認したいのは、言葉、声の調子、表情、視線、態度を含めた伝え方によって、本人の行動や意思表明が一方的に抑えられていないかという点です。
そして、もう一つ大切なのが、相手との双方向性です。
職員が伝え、本人が反応し、その反応を受けて関わりを変えていく。高齢者介護、障害福祉、障害児支援、保育のいずれでも、相手の意思をうかがいながら関係をつくることが支援や保育の基本になります。
何気なく使っている言葉や態度を、ときどき振り返る。
その積み重ねが、不適切なケア・支援を防ぎ、本人の尊厳を守る虐待防止につながります。
【次回の内容】
次回は、虐待防止委員会は何をする? 事業所で押さえたい役割・議題・記録の基本を取り上げます。
【参考・出典】
厚生労働省「高齢者虐待防止のためのケーススタディ」
厚生労働省「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」
こども家庭庁・文部科学省「保育所や幼稚園等における虐待防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」
【研修を企画されている方へ】
本テーマに関する研修講師についてお引き受けしております。事業所での学習会から講演会まで各種承っております。高齢者分野・障害者分野の事業所の実情に応じて、職員向け・管理者向けの内容に調整しながらご提案可能です。お気軽にご相談ください。
→お問い合わせフォーム
【カテゴリトップ】
https://kaigocampus.com/category/abuse-zero-guide/
【介護キャンパスのホーム】
https://kaigocampus.com/
【介護キャンパスLINE公式はこちら|友だち追加】
https://lin.ee/uO5quf33
↑↑さまざまな実務者向けお役立ち情報をLINE公式でもお届けしています。
▲上記のバナーをタップして、友だち追加していただけるとうれしいです。