介護現場で働いていると、利用者や家族、職員からの怒り・不満・クレームに向き合わざるを得ない場面が必ず出てきます。
生活相談員は、その「感情の矢面」に立つことも多く、「また自分のところにきた…」「正直こわい」と感じることもあるのではないでしょうか。
しかし、ソーシャルワーカーとしての相談援助の視点を持てば、クレームや怒りは、単なる「厄介ごと」ではなく、
「困っているサイン」「支援の必要性が表に出た瞬間」として捉え直すことができます。
ここでは、生活相談員が感情の衝突に冷静に向き合うための基本視点と、
現場で使える具体的な対応ステップを整理していきます。
1.クレーム・怒り・不満を“支援のサイン”として捉える
まず押さえたいのは、クレームや怒りを「対応すべき面倒な出来事」とだけ見ないことです。
ソーシャルワーカーの視点では、それらは「ニーズが表面化した状態」と捉えます。
文章で丁寧に説明すると、次のような考え方が基本になります。
- 怒りは、多くの場合、不安・悲しみ・孤独感・罪悪感などの「一次感情」の上に乗っています。
- 介護の場面では、「これ以上つらい思いをさせたくない」「自分の選択は間違っていないだろうか」といった、家族の揺れが背景にあります。
- そのため、「怒らないでください」「落ち着いてください」と感情だけを抑え込もうとすると、かえって関係がこじれることがあります。
生活相談員が意識したい基本姿勢を、あえて箇条書きにすると次の通りです。
- 怒り=悪いこと、ではなく「困りごとの表現形」と捉える
- 言葉の強さよりも、その奥の“不安”や“心配”に焦点を合わせる
- 自分を責められている、と受け取らず「施設への期待の高さ」として聴き直す
- 「冷静にさせる」より「安心して話してもらう」状況づくりを優先する
この視点を持っているだけで、同じクレーム対応でも、
あなた個人が「責められている」のではなく、「支援ニーズを一緒に探っている状況」として向き合いやすくなります。
2.生活相談員が実務で使える対応ステップと場面別のポイント
では、具体的にどのような手順で対応していけばよいのでしょうか。
ここでは、生活相談員が現場ですぐに活用できるように、ステップ+場面ごとのポイントで整理します。
まず、共通の基本ステップは次の5つです。
- ①まず“受け止める言葉”を一言そえる
「驚かれましたよね」「ご心配、ごもっともです」と、感情に寄り添う一言を必ず入れる。 - ②最後まで話を遮らずに聴く
途中で説明を挟まず、相手が「ひと通り言えた」と感じるまで、表情やうなずきで聴き続ける。 - ③感情と事実を整理してフィードバックする
「○○が心配で、△△の点が気になっているのですね」と、相手の話を要約して確かめる。 - ④一緒に“どうしていくか”を考える姿勢を示す
「では、今後どうしていけると安心でしょうか?」と、共同で解決策を探るスタンスに切り替える。 - ⑤約束したことを記録・共有し、フォローの場を決める
相談記録に残し、必要に応じてケアマネ・看護・介護職・管理者と共有し、見直しのタイミングを決める。
次に、代表的な場面ごとのイメージを、新任相談員でも浮かびやすいように具体的に示します。
● 場面1:転倒・誤嚥など“事故報告”後の家族の怒り
- よくある言葉
「なんで目を離したんですか?」
「もっと見てくれていれば防げたはずです!」 - 相談員の留意点
- すぐに「そんなことはありません」「職員は頑張っています」と反論しない。
- まずは「驚かれましたよね」「心配になりますよね」と、感情に焦点を当てて受け止める。
- その後で、事故後の対応・再発防止策など「何をしているか」を段階的に説明する。
- 説明は専門用語を避け、「どの場面で・何を・誰が・どのように行うか」を簡潔に伝える。
● 場面2:「もっと○○してほしい」という要求が続く家族
- よくある言葉
「もっとリハビリを増やしてほしい」
「毎日様子を電話で知らせてください」 - 相談員の留意点
- 要求の背景には、「離れて暮らすことへの不安」「自分が見ていない時間が見えない怖さ」がある。
- まずは、
「遠くにいて、なかなか様子が見えない分、ご心配ですよね」と共感を言語化する。
- 次に、
「特にどんな点が一番ご不安ですか?」と不安の“中心”を一緒に探る。
- 施設としてできること・できないことを、
代替案を示しながら丁寧に擦り合わせる(例:毎日→週1回の連絡+月1面談など)。
● 場面3:職員への不満が相談員に集中したケース
- よくある言葉
「前に対応した職員さんの態度が冷たかった」
「話を聞いてくれない職員がいる」 - 相談員の留意点
- 「その職員はそんな人ではありません」と即座に“擁護モード”に入らない。
- 相手が感じた事実として、
「そう感じられたのですね」「嫌な気持ちになられましたね」と受け止める。
- 具体的な場面や言葉を確認しつつ、
職員側の事情と家族の受け止めの両方を整理していく。
- 職員には、責めるのではなく「利用者・家族の感じ方」という情報として伝え、
関わり方を一緒に考える視点を持つ。
● 場面4:相談員自身が感情的に巻き込まれそうなとき
- よくある内心
「自分だって頑張っているのに…」
「そんな言い方はないのでは?」 - セルフケアのポイント
- 一度、深呼吸して“今の自分の感情”を自覚する(怒り・怖さ・悲しさなど)。
- 「自分への攻撃」ではなく、「状況への不安のぶつけ先」と捉え直す。
- 必要に応じて、
– 上司や先輩相談員に同席してもらう
– 面談を一度区切り、「あらためて時間を設定し直す」
など、一人で抱え込まない仕組みを活用する。
小まとめ:感情を“受け止めて整理する”のが相談員の役割
生活相談員に求められるクレーム・怒り・不満への対応術とは、
単に「波風を立てないようにおさめる技術」ではありません。
- 怒りや不満を、困りごとや不安の“サイン”として捉えること
- 感情を否定せずに、その奥にある本音を一緒に整理していくこと
- そのうえで、施設としてできること・できないことを丁寧に共有していくこと
これらを積み重ねることで、
クレーム対応の場そのものが、信頼関係を深めるケアの一部になっていきます。
ソーシャルワーカーとしての生活相談員だからこそ、
感情の衝突に冷静に向き合い、「対立の場」を「支援につながる対話の場」に変えていく力が求められています。
その一歩として、今日の現場で出会う怒りや不満を、
「新しい支援のスタートライン」として捉え直してみてください。

