生活相談員の実務では、家族から強い要望を受ける場面があります。
たとえば、「転倒が心配なので、できるだけ歩かせないでください」という要望です。
家族の立場から見れば、転倒や骨折を避けたいという思いがあります。本人を大切に思うからこそ、強い言葉になることもあります。
一方で、本人は「自分で歩きたい」と考えているかもしれません。介護職は日常の歩行状態を見ており、看護職は疾患や服薬、身体状況から転倒リスクを考えています。
このように、ひとつの場面の中に、本人の希望、家族の不安、安全への配慮、専門職としての判断が重なっています。
生活相談員に求められるのは、家族の要望にそのまま応えることでも、家族を説得することでもありません。
まずは、本人・家族・多職種が何を見て、何を大切にしているのかを整理し、本人の生活を中心に支援の方向を考えることです。
研修でも、本人中心の相談援助、家族を含めた支援関係の形成、多職種との連携・調整、権利擁護と意思決定支援を、生活相談員・施設ケアマネジャーに共通する実践の視点として扱っています。
まず、立場ごとの見方を整理する
同じ場面に関わっていても、それぞれが見ているものは同じではありません。
本人:「自分で歩きたい」
↓
家族:「転倒してほしくない」
↓
介護職:「日常の歩行状態はどうか」
↓
看護職:「疾患、服薬、身体状況からみたリスクはどうか」
↓
施設ケアマネジャー:「本人の生活目標や施設サービス計画と整合しているか」
こうして整理すると、単なる「家族からの要望への対応」ではないことが分かります。
ここには、本人の自己決定と安全確保、家族の思い、各専門職の判断が関係しています。
こうした場面では、誰か一人の意見だけを採用すると、別の大切な視点が抜け落ちやすくなります。
生活相談員は、まず「それぞれが何を根拠にそう考えているのか」を整理します。
それが、連携・調整を進める最初の一歩になります。
本人にとって「歩くこと」は何を意味しているのか
家族から「歩かせないでください」と言われたとき、生活相談員が最初に確認したいのは、本人にとって歩くことがどのような意味を持っているかです。
たとえば、食堂まで自分で歩くことが長年の習慣になっている人もいます。
トイレまで自分で移動することを「自分でできること」として大切にしている人もいます。
また、廊下を歩くことで職員や他の利用者と挨拶を交わし、その時間を楽しみにしている人もいます。
表面的には「歩行」という一つの行為ですが、本人の生活から見ると、そこには、
- 自分でできるという実感
- これまで続けてきた生活習慣
- 他者との交流
- 楽しみ
- 自己決定
といった意味が含まれていることがあります。
そのため、転倒リスクだけを見て歩行を制限すると、本人が大切にしてきた生活まで失われる可能性があります。
生活相談員は、本人はどう感じているのか、どのように過ごしたいのか、その行為が本人の生活にどんな意味を持っているのかまで考えます。
本人が自分の意思を十分に言葉で表現できない場合には、生活歴、普段の表情、反応、これまでの選択、好みなどから意思や選好を丁寧に捉えていきます。
これは、本人中心の相談援助であり、意思決定支援の実践でもあります。
午後の研修でも、複数の意見がある場面ほど、本人の意向や生活全体に立ち戻って考えることを扱っています。
家族の要望は、その「背景」まで聴く
次に大切なのは、家族がなぜその要望を出しているのかを確認することです。
「転ばないようにしてください」
という言葉だけを受け取ると、施設として対応できるか、できないかという話になりやすくなります。
しかし、その背景にはさまざまな事情があります。
以前、転倒して大きなけがをした経験があるのかもしれません。
施設での生活が十分に見えず、「本当に大丈夫なのか」と不安を感じている場合もあります。
また、「自分が施設に入所させたのだから、何かあったら申し訳ない」という責任感や罪悪感を抱えていることもあります。
そこで生活相談員は、
「何をしてほしいのか」だけでなく、「何を心配しているのか」まで確認します。
この違いはとても重要です。家族が本当に求めているものが、「歩かせないこと」そのものとは限りません。
「本人が安全に過ごしていると安心したい」
「今の状態をきちんと説明してほしい」
「何かあったときに施設が対応してくれると分かりたい」
という思いが背景にあることもあります。
ここまで理解できると、家族への関わり方も変わります。
生活相談員にとって家族は、本人を支える重要な関係者であると同時に、必要に応じて相談援助の対象となる存在でもあります。
研修でも、家族支援について、要望の背景、家族自身の負担、本人との関係、支援方針を一緒に検討することを取り上げています。
意見が違うときは、「判断根拠」をそろえる
本人と家族、多職種の意見が分かれたとき、生活相談員がすぐに結論を出す必要はありません。
まず、それぞれの判断根拠を整理します。
本人
→ なぜ歩きたいのか。生活の中でどのような意味があるのか。
家族
→ 何を心配し、何を不安に感じているのか。
介護職
→ 実際の歩行状態はどうか。どの場面でふらつきがあるのか。
看護職
→ 疾患、服薬、血圧、体調などからどのようなリスクがあるのか。
施設ケアマネジャー
→ 本人の生活目標や施設サービス計画と、現在の支援は整合しているか。
こうして判断根拠をそろえると、支援の検討が具体的になります。
「歩くか、歩かないか」という二択で考える必要もありません。
たとえば、
- 見守りができる時間帯に歩く
- 移動距離や動線を見直す
- 福祉用具を調整する
- 履物や環境を確認する
- 身体状況を再評価する
- 家族にも実際の歩行状態を説明する
といった選択肢が出てきます。
大切なのは、リスクをゼロにすることだけを目的にせず、本人の生活と安全の両方をどう支えるかを考えることです。
生活相談員は「話し合える状態」をつくる
本人、家族、多職種の意見がそろわないときには、話し合いの場を設けることもあります。
ただし、カンファレンスを開けば自然に結論が出るわけではありません。
生活相談員には、話し合いが進みやすいように準備する役割があります。
たとえば、
- 誰に参加してもらうか
- 事前に何を確認しておくか
- 本人の意向をどう共有するか
- 各職種の判断根拠をどう整理するか
- 何を話し合う場なのか
を明確にしておきます。
こうした準備があることで、単なる意見交換から、支援方針を考える場へと変わります。
生活相談員は、本人・家族・多職種の間を行き来しながら、必要な情報をつなぎ、見方の違いを整理し、話し合いを支えます。
ここには、相談援助、家族支援、意思決定支援、権利擁護、連携・調整、合意形成といった生活相談員の専門機能が含まれています。
研修資料でも、生活相談員の役割として、本人・家族との相談援助を基盤に、多職種や関係機関へ働きかける専門性が整理されています。
家族の要望が強い場面ほど、本人の生活に立ち返る
家族から強い要望を受けると、生活相談員も「どう返答しよう」「どう納得してもらおう」と考えやすくなります。
そんなときほど、一度、順番を整理してみます。
本人は、どのように過ごしたいのか。
↓
家族は、何を心配しているのか。
↓
多職種は、何を根拠に判断しているのか。
↓
本人の生活を支えるために、何に取り組む必要があるのか。
この順番で考えると、「家族からの要望への対応」だけにとどまらず、相談援助として支援を捉え直すことができます。
本人、家族、多職種のそれぞれの思いや情報を整理しながら、本人の生活を中心に支援の方向を整えていく。
その積み重ねが、生活相談員の専門性につながります。
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