利用者本人や家族から突然、強い口調で苦情を言われると、介護・福祉職も感情の揺らぎが大きくなります。
「そんなつもりではなかった」
「こちらにも事情がある」
「きちんと支援しているのに」
こうした気持ちが高まり、そのまま相手へぶつけてしまうことを、アンガーマネジメントでは「反射」と捉えます。
反射が起きると、普段なら選ばないような強い言い方や乱暴な言い方になりやすく、相手の感情もさらに高ぶることがあります。
【この記事を読むと】
・苦情を受けた直後に起こりやすい「反射」が分かります
・感情の揺らぎが大きくなった時の対処法が分かります
・事実と感情を分けて確認する方法が分かります
・苦情対応の初動で何を伝えるかが分かります
苦情対応では、最初の数分がその後のやり取りに影響します。
相手の言葉に反射せず、まず自分の感情の動きに気づき、何が起きたのかを確認することが大切です。
苦情を受けた直後は「反射」が起こりやすい
苦情を受けると、支援する側にもさまざまな感情が生まれます。
「それは違います」
「こちらの責任ではありません」
「前にも説明しました」
そう言い返したくなることもあるでしょう。
特に、他の利用者への対応中だったり、記録や申し送りに追われていたりすると、感情の揺らぎが大きくなりやすくなります。
高齢者介護では、転倒、食事、服薬、排泄、持ち物、家族への連絡などが苦情につながることがあります。
障害福祉では、本人への声かけ、日中活動、作業への参加、送迎、他利用者との関係、支援方法、個別支援計画の内容などについて、本人や家族から意見を受けることがあります。
どちらの分野でも共通するのは、支援する側が「自分たちの対応は間違っていない」と説明したくなる場面があることです。
しかし、感情の揺らぎが大きいまま返答すると、相手の言葉に反射しやすくなります。
まず意識したいのは、言い返す前に、自分の感情の動きに気づくことです。
苦情対応の初動で押さえたい4つの流れ
1.すぐに言い返さず、相手の話を聞く
苦情を受けた直後に説明や反論を始めると、相手は「話を聞いてもらえない」と感じることがあります。
まずは、
「どのようなことがあったのでしょうか」
「その時の状況を教えていただけますか」
と確認します。
本人からの訴えであれば、言葉だけでなく、表情や態度、これまでとの変化にも目を向けます。
ここでは、相手の話にすべて同意する必要はありません。
大切なのは、何に困り、何を不満に感じているのかをつかむことです。
反射しそうになった時は、一度息を吐き、言葉を返すまでに少し間を取ります。
この短い間が、強い言い方や乱暴な言い方を防ぐ時間になります。
2.感情と事実を分けて確認する
苦情には、起きた事実と、その出来事をどう受け止めたかという感情が一緒に含まれています。
「いつも対応が遅い」
「全然話を聞いてくれない」
「職員の対応がひどい」
こうした言葉だけでは、何が起きたのか分かりません。
そこで、
「いつ頃のことでしょうか」
「どの場面が気になりましたか」
「その時、どのようなやり取りがありましたか」
と確認します。
障害福祉では、本人と家族で受け止め方が異なる場合もあります。家族の話を聞きながら、本人の意思や希望も確認する必要があります。
感情は受け止め、事実は具体的に確認する。
この二つを分けると、苦情の内容が見えやすくなります。
3.確認できたことだけを伝える
苦情を受けると、「すぐに答えなければ」と焦ることがあります。
ただし、記録や担当職員への確認が必要な内容までその場で答えると、後から説明が変わることがあります。
「現在確認できているのは、ここまでです」
「その点は記録を確認します」
「担当職員にも確認してからお伝えします」
このように、分かっていることと、まだ確認が必要なことを分けます。
高齢者介護では、医療的な判断やケアプランに関する内容を、看護職や介護支援専門員へ確認することがあります。
障害福祉では、支援内容や個別支援計画に関することを、サービス管理責任者や相談支援専門員、管理者へ確認する場面があります。
その場で答えきれないことを無理に答えないことも、適切な苦情対応の一つです。
4.次の対応を伝える
話を聞いて終わると、相手は「それで、どうなるのか」と感じます。
「記録を確認し、管理者へ報告します」
「担当職員にも状況を確認します」
「サービス管理責任者と確認して、改めてご連絡します」
このように、次に何をするのかを伝えます。
本人からの訴えであれば、「今後の支援方法をチームで確認します」と伝えることもあります。
苦情対応では、誰が、何を確認し、次にどう対応するのかが分かることが大切です。
感情の揺らぎが大きくなった時は「反射」を止める

アンガーマネジメントでは、怒りそのものをなくそうとはしません。
怒りを感じた時に、その勢いのまま言葉や行動に出さないことを意識します。
苦情対応中に、
・声が大きくなる
・早口になる
・「でも」「だって」と言いたくなる
・相手の話を遮りたくなる
・強い言い方で返したくなる
こうした変化が出たら、感情の揺らぎが大きくなっているサインです。
その時は、
「まず状況を確認させてください」
「その点は記録も確認します」
と一度区切ります。
- すぐに言い返さない。
- すぐに正しさを主張しない。
- その場で結論を急がない。
この一拍が、反射を防ぎます。
苦情は一人で抱えず、記録と共有につなげる
苦情を受けた職員が一人で抱え込むと、心理的な負担も大きくなります。
対応後は、
・誰から申し出があったか
・いつ、どこで起きたことか
・相手が何を訴えていたか
・どのように返答したか
・何を確認する必要があるか
・次に誰が対応するか
を記録し、管理者や関係職種へ共有します。
「家族がかなり怒っていた」だけでは、その後の対応につながりません。
「送迎時の職員の声かけについて家族から申し出あり。本人の様子と当日の支援記録を確認し、サービス管理責任者から家族へ連絡予定」と残せば、次に何をするかが分かります。
高齢者介護でも障害福祉でも、苦情対応は担当職員一人で完結するものではありません。
記録、申し送り、管理者への報告、関係職種との確認までつなげることが、その後の支援を支えます。
まとめ
苦情を突然受けると、介護・福祉職にも感情の揺らぎが生じます。
そんな時は、
反射を止める → 相手の話を聞く → 感情と事実を分ける → 確認できたことを伝える → 次の対応につなぐ
という流れを意識します。
強い言い方や乱暴な言い方を防ぐためにも、自分の感情の変化に早めに気づくことが大切です。
アンガーマネジメントでは、怒りや不満が生じた時に、反射せず、どのような言葉や行動を選ぶかを考えていきます。
高齢者介護でも障害福祉でも、苦情対応の初動でこの視点を持つことが、落ち着いた対応と、その後の支援につながります。
【次回の内容】
次回は、ヒヤリハット後の気持ちの整理法|動揺を引きずらない対処と再発予防を取り上げます。
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