1.改正の背景
厚生労働省は令和7年9月24日付で「医療介護提供体制改革推進交付金」および「地域医療・地域介護対策支援臨時特例交付金」の運営を一部改正しました。
管理運営要領の一部改正は令和7年4月1日に適用されます。目的は、施設の老朽化、人材不足、地域ごとの需要の差といった課題に対し、基金の活用を柔軟かつ効率的にすることです。
2.交付申請の手続きが簡素化
これまで、事業完了後に「消費税(仕入控除税額)」を確定・報告し、返還が必要な場合は納付していました。
今回の改正により、都道府県または市町村が定めるところにより、交付申請の段階で消費税等相当額をあらかじめ減額して申請可能となりました。
事業完了後の実績報告期限(翌々年度6月30日まで)は維持されています。
この仕組みにより、事業者・自治体の事務負担が軽減され、資金繰りの見通しも立てやすくなります。
3.介護施設整備に関する改正
施設整備に関する改正は、地域の実態に合わせた柔軟な対応を可能にする大きな内容です。
(1) 対象地域の拡大
「介護付きホーム(特定施設)」の対象地域が拡大されました。
青森、岩手、秋田、山形、福島、長野、岐阜、三重、愛媛、鹿児島、沖縄の11県が追加され、従来24都道府県に加わります。これにより、地方における整備も一層進むことが期待されます。
(2) 大規模修繕・耐震化の恒久化
**「介護施設等の創設を条件に行う広域型施設の大規模修繕・耐震化整備事業」**の実施期限が撤廃され、恒久的に支援を受けられるようになりました。
(3) 新設された4つの整備メニュー
- 公有地を活用した代替施設整備
- 建替え期間中の受け皿として代替施設を整備。
- 土地買収・整地費、設備整備費は対象外。
- 都市部等の既存ストック活用(29人以下→30人以上へ転換)
- 小規模施設を大規模(30人以上)へ転換し、都市部での需要増に対応。
- 有料老人ホームは対象都道府県に限り適用。
- 特例として、大都市で転換する場合は配分基礎単価×1.05。
- 中山間・人口減少地域のダウンサイジング支援
- 定員を1割以上減らすなど、縮小や統廃合を支援。
- 介護施設等の集約・再編支援
- 複数施設の合築、併設、移転などを後押し。
(4) 配分基礎単価の上限引上げ
建設費の上昇に対応し、配分基礎単価の上限が4.7%引上げられました。
4.感染症対策事業の補助率見直し
新型コロナ対策で実施されてきた感染症対策事業について、5類移行や整備状況を勘案し、補助率は2/3から1/3へ引き下げられました。
今後は通常の感染症対策費として、施設経営の一部に組み込む必要があります。
5.人材確保と訪問介護体制の強化
今回の改正は「施設整備」だけでなく、「人材確保策」にも重点が置かれています。
(1) 介護人材確保のための福祉政策と労働施策の連携体制強化事業
- 労働局・人材センター・業界団体が協議会を設置。
- 合同説明会や就職イベントを支援し、介護業界への人材流入を促進します。
(2) 訪問介護等サービス提供体制確保支援事業
- ホームヘルパーへの同行支援や研修体制を補助。
- 小規模事業所の経営改善も対象となり、訪問介護サービスの基盤強化につながります。
6.介護事業者への影響
- 経営層・施設長
都市部では定員拡大、地方では縮小と、地域特性を踏まえた経営判断が重要です。 - ケアマネジャー
各自治体の整備方針を理解し、ケアプランに反映することが求められます。特に訪問介護基盤強化は、在宅支援の柱として重視されます。 - 中堅・リーダー層
新設事業の一部は「生産性向上に資する計画」が条件とされており、介護DXや記録効率化への現場提案が評価につながります。
7.まとめ
今回の改正は、
- 施設整備の柔軟化
- 人材確保と訪問介護強化
- 事務手続きの簡素化
この3つを柱に据えています。
介護事業者は「都市部での拡張」と「地方での縮小」という二極化にどう対応するかが最大の課題です。また、介護DXや生産性向上推進体制加算との連動を意識した経営戦略が求められます。

