【アンガーマネジメント】第6回:利用者・家族からのきつい言葉への対応術

2.アンガーマネジメント

介護や看護の現場では、日々の支援の中で利用者や家族からきつい言葉を投げかけられる場面があります。
「なんでこんなに遅いの?」「前の人の方が良かった」——そんな一言は、職員の心を大きく揺さぶり、怒りや落ち込みを引き起こしやすいものです。

しかし、その言葉をそのまま「自分への攻撃」と捉えてしまうと、感情に振り回されてしまいます。背景や心理を理解し、冷静に受け止める方法を知ることは、アンガーマネジメントの大切な実践です。今回は、利用者や家族からの厳しい言葉に対してどう対応すればよいかを考えていきましょう。


1.きつい言葉の背景を理解する

利用者や家族が厳しい言葉を発するのは、必ずしも職員を否定したいからではありません。

  • 不安や焦り:病状や介護生活への見通しが立たない不安
  • 喪失感:これまでできていたことを失う悔しさ
  • 疲労やストレス:介護を担う家族の心身の限界

つまり、多くの場合、きつい言葉は本人や家族のSOSです。「怒っている人」ではなく「不安を抱えている人」と視点を変えるだけで、自分の感情が揺さぶられにくくなります。


2.感情と事実を分けて考える

きつい言葉をそのまま受けると、自分の怒りや悲しみが反応してしまいます。そこで役立つのが感情と事実を切り分ける視点です。

  • 「遅い!」 → 感情:苛立ちや不安 / 事実:送迎が5分遅れた
  • 「前の人の方が良かった」 → 感情:比較からくる不満 / 事実:対応の仕方に違いがある

事実を抜き出すことで、改善策(「事前連絡をする」「違いを丁寧に説明する」など)が見えます。感情だけを受け止めてしまうと、職員が傷つくだけで終わってしまいます。


3.成功事例と失敗事例から学ぶ

成功事例:共感と事実説明で利用者の気持ちが和らいだケース

あるデイサービスでの出来事です。午前の送迎が10分遅れ、利用者のAさんが「遅い!なんでこんなに待たせるんだ!」と怒りをぶつけました。
対応した職員はまず深く頭を下げ、「お待たせしてしまい、ご不便をかけましたね」と共感の言葉を伝えました。

続けて「今日は道路が予想以上に混雑してしまいました。次回は事前にご連絡いたします」と事実を説明し、改善策も示しました。Aさんは「そうか、それなら仕方ないね」と落ち着き、帰宅時には笑顔が見られました。

このケースでは、①感情を受け止め、②事実を誠実に伝え、③今後の工夫を約束したことで、関係が悪化するどころか信頼が高まりました。


失敗事例:感情的な反発で信頼を失ったケース

一方、訪問介護でのBさん宅での出来事です。新しく担当になった職員に対して、Bさんは「前の人の方が良かった。あなたは手際が悪い」と厳しい言葉を口にしました。
職員は心に大きなショックを受け、「そんなこと言わないでください!」と感情的に反発してしまいました。

結果、Bさんの表情はさらに硬くなり、「やっぱり頼りにならない」と不信感を募らせました。事業所が調整に入るまで関係は悪化し、信頼を取り戻すまで数か月を要しました。

このケースでは、相手の不安の背景を理解せず、自己防衛的に反応してしまったことが失敗の要因でした。


小まとめ

  • きつい言葉の背景には不安や疲労が隠れている
  • 感情と事実を分けて考えることで冷静に対応できる
  • 共感+事実説明+境界線の設定が信頼を守るカギになる
  • 成功事例では信頼関係が強まり、失敗事例では関係が悪化することを確認した

厳しい言葉に直面しても、冷静に対応できれば利用者や家族との関係を深めることができます。アンガーマネジメントは「怒りを抑える技術」ではなく、「環境や関係を整える技術」でもあるのです。


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(筆:ベラガイア17 人材開発総合研究所 梅沢佳裕)

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