【働く女性×仕事と介護の両立支援】第8回:制度は整っているのに、なぜ「利用しにくい」と感じてしまうのか

10.仕事と介護の両立・介護離職防止

【介護離職防止】仕事と介護の両立支援制度はなぜ「利用しにくい」のか
― 働く女性と企業が直面する3つの構造的課題

(筆:ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕)


介護休業制度両立支援制度は整備されているはずなのに、実際には十分に制度を利用できていない
人事労務の実務者や経営者の方から、こうした声を伺うことがあります。

近年、介護離職(介護を理由とした離職)は社会問題として注目され、企業にとっても人材の流出採用・育成コストの増大、さらには生産性の低下につながり得る重要課題になっています。
それにもかかわらず、「制度があるのに離職が起きる」——ここには、単なる制度不足では説明できない構造があります。

本連載は、仕事と介護の両立を「個人の努力」や「自己責任」に寄せず、制度職場の運用相談導線といった仕組みの側から丁寧に整理する入門編です。
第8回は、制度はあるのに利用しにくいと感じる理由を、実務者の視点で解きほぐします。


両立支援制度は「ある」——課題は“利用できる形”になっているか

まず確認しておきたいのは、仕事と介護の両立を支える制度は、すでに一定の枠組みがあるという点です。
代表的なものとして、次のような制度が挙げられます。

  • 介護休業制度(一定期間、就業を休む制度)
  • 介護休暇(短期の休暇を取得する制度)
  • 短時間勤務制度所定外労働の制限時間外労働の制限深夜業の制限
  • 柔軟な働き方時差出勤テレワーク等:企業の制度設計による)

制度が存在しているにもかかわらず、現場では
制度を利用したいが言い出しにくい
どの制度を選べばよいか分からない
「利用申出(申し出)をすると評価や配置に影響しそうで不安
といった声が出やすいのが実情です。

ここで重要なのは、制度の有無ではなく、制度が**“利用可能な状態”として職場に実装されているか**という視点です。


情報が「必要な人」に届きにくい——制度周知(周知徹底)の課題

制度が利用されにくい理由の一つは、制度周知の難しさです。
制度は多くの場合、就業規則、社内規程、イントラネット等に整理されています。しかし、介護は多くの方にとって、突然現実味を帯びるテーマでもあります。

特に働く女性の場合、
「介護が生活や仕事に影響を及ぼす前の段階では」
「相談するほどではない」
と感じて、情報収集を後回しにしてしまうことがあります。

その結果、いざ介護が始まった時点で初めて制度を調べ、時間や心理的余裕がないまま、制度の選択利用申出を迫られるケースが生まれます。
つまり「知らなかった」ではなく、必要なタイミングで情報が届きにくいという構造があるのです。

実務の観点では、

  • 制度を“棚”に置くだけでなく、事前周知(平時の周知)
  • 対象者別の案内(管理職・一般職・非正規等)
  • 相談導線の明確化
    といった工夫が求められます。

相談先が分断され、本人が“橋渡し役”になってしまう

もう一つの要因は、相談窓口支援導線が分断されやすいことです。
企業内では一般に、

  • 制度説明:人事労務(人事部門)
  • 業務調整:所属長(上司)
  • 心身の不調:産業保健(産業医・保健師等)
  • 介護の実務:地域包括支援センターケアマネジャー(介護支援専門員)
    と、関係者が分かれます。

役割分担自体は合理的ですが、問題は「誰に、何を、どこまで相談すればよいか」を、本人が整理しなければならない点です。
制度利用を考える当事者が、企業内外の相談先をつなぐ“橋渡し役”になり、結果的に負担が増してしまう——この構造が、相談の遅れや孤立につながりやすくなります。

実務者の立場から見ると、ここは

  • ワンストップ窓口(最初の相談先の一本化)
  • 初回面談(相談)で確認する項目の標準化
  • 上司と人事の連携(情報共有のルール化)
    を整えることで、改善余地が大きい領域です。

「利用しにくさ」は本人の問題ではなく、運用設計の問題でもある

制度が利用されにくいとき、つい
「本人が申し出ないから」
「周知しているのに見ていないから」
と捉えてしまいがちです。

しかし、仕事と介護の両立の現場で起きているのは、
制度が“利用できる形”として伝わっていない
相談の入り口が複雑で、当事者が迷いやすい
申し出の心理的ハードルが高い

といった、運用面の課題であることが少なくありません。

ここを「本人の責任」に寄せないことが、介護離職防止の第一歩です。
企業にとっては、制度を整備するだけでなく、運用面談相談導線をセットで設計することが、実務上のポイントになります。


おわりに:両立支援は“制度の準備”だけで終わらない

仕事と介護の両立支援は、特別な誰かのための施策ではありません。
誰もが当事者になり得る時代だからこそ、早い段階から
制度周知相談窓口面談の仕組みを整え、必要な人が必要な時に制度を利用できる状態をつくることが重要です。

次回は、制度の話に加えて、職場で「言い出しにくい」「不利になりそう」と感じてしまう背景——すなわち職場文化評価不安の側面を、入門者にも分かる形で整理していきます。


ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕
 社会福祉士・介護支援専門員・人材開発アドバイザー


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