監修・執筆:梅沢佳裕(社会福祉士・介護支援専門員・研修講師)
まず最初に、大事なお知らせです。
今年度、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対策を「事業者が整備すべきもの」として位置づける改正(施行は2026年10月頃が予定とされる動き)が進んでいます。
現場では「大変だよね」で終わりがちですが、今回のポイントはそこではありません。
これからは、カスハラを “現場職員が個人スキルで耐える問題” とせず、事業主が“雇用管理上の措置”として仕組みをつくり、職員を守る 方向に軸足が移っています。
つまり、職員の頑張りに頼らず、相談窓口・初動フロー・再発防止までを法人として整備することが、事業者に求められる時代になります。
この記事では、介護・障がい福祉の現場に引き付けて、**「何が義務になるのか(事業者がやるべきことの芯)」**と、**事業所基準(線引き)**の作り方まで、実務目線で整理します。
2026年施行予定「カスハラ対策義務化」で、介護事業者の何が変わるのか
なぜ今「義務化」なのか(個人対応→組織対応へ)
これまで、カスハラは「現場で何とかする」「経験者が受け止める」になりやすい領域でした。
しかし、それでは職員の疲弊が蓄積し、退職・休職、サービスの質の低下にもつながります。
だから今回の方向性は明確です。
“個人対応”から“組織対応”へ。
事業者が、職員を守るための仕組み(方針・相談・手順・教育・記録)を整えることが、中心テーマになっています。
介護・障がい福祉で起きやすい典型
介護現場のカスハラは、よくある一般業種の「クレーム」と同じではありません。特に多いのは、次のような形です。
- 暴言、人格否定、威圧、脅し
- 長時間拘束(電話・面談・訪問先での居座り)
- 過大要求(本来業務を超える要求、特別扱いの強要)
- 反復・執拗(同じ要求の繰り返し、説明しても終わらない)
- 暴力、物を投げる、性的言動・接触 など
「苦情」と「カスハラ」の切り分け(改善要望は拾う/攻撃は止める)
介護は「声を拾う文化」が強い分、切り分けを誤ると混乱します。基本はこうです。
- 苦情(改善要望):内容を拾い、改善へ(事実確認→説明→対応)
- カスハラ(攻撃・許容範囲を超えた言動・要求など):止める、線引きする、法人対応へ戻す
ここを曖昧にすると、「全部受ける」か「全部拒む」かの極端になり、現場が壊れます。
だから事業者は、“拾うべき声”と“止めるべき事態”を、基準で運用できる状態をつくる必要があります。
事業所が整備すべき“5点セット”(方針・窓口・手順・教育・記録)
指針(案)で示される“措置”は、介護現場に落とすと5点セットとして整理すると分かりやすいです。
ブログでは、この束をそのまま 「準備チェックリスト」 にすると刺さります。
① 方針の明確化(カスハラには毅然と対応し、職員を守る)
まず必要なのは「姿勢」の明文化です。
- カスハラには毅然と対応する
- 職員の安全と尊厳を守る
- 個人で抱えさせず、法人として対応する
そして実務では、方針だけでは回りません。次の“線”が必要です。
どこから中断/交代/退出か(例:暴言が止まらない、脅し、接触、物を投げる、退出困難 等)
② 相談体制の整備(相談窓口、相談後の動き、プライバシー保護)
「相談していいよ」だけでは機能しません。必要なのは“動き”です。
- 誰が受けるか(窓口)
- 誰が判断するか(管理者・法人・顧問等)
- どこまで上げるか(エスカレーション)
- 被害者のプライバシー保護(共有範囲・記録の扱い)
相談が「聞いて終わり」になると、現場は二度と相談しなくなります。
相談後の動きまで、仕組みにするのがポイントです。
③ 初動フロー(現場→上長→管理者→法人の“順番”を1枚に)
現場が迷うのは「文章」より「順番」です。
だから、初動は 視認性のよい1枚のフローに整理して掲示するのがおすすめです。
- 現場:安全確保・区切り・報告
- 上長:状況確認・応援・判断補助
- 管理者:対応方針の決定・窓口一本化
- 法人:文書対応・顧問相談・外部連携
※夜間・一人対応の場面(訪問介護・居宅ケアマネなど)は、対応の境界線となる一本化した基準を設けておくと職員も現場も、さらには結果として当事者である利用者ご家族も守られます。
④ 研修・周知(新人でも迷わない「型」を渡す)
実務で効果的なのは、“知識”より“現場ですく実践できるコツ”です。
- 定型句(場を一度 仕切る言葉かけ)
例:「確認して戻ります」「上司に共有します」 - 対応禁止(1人で抱えない/その場で約束しない/即答しない)
- ロールプレイ(言えない・動けないを減らす)
新任でも迷わないように、「言葉」と「行動」をセットで定着させます。
⑤ 記録(事実記録+感情記録の位置づけ)
カスハラ対策は、記録がないと“組織の判断”ができません。
- 事実記録(公的記録):日時・場所・発言/行為・職員対応・結果
- 感情記録(私的記録):怖かった気持ち・萎縮させられた気持ち・業務への影響など、私的記録にカスハラを受けた際の自分の感情をありのままに書き留めておきます。
→ カスハラ該当性の判断や、職員保護の根拠になる場合もある
※感情記録は、公的記録とは分けて運用し、取扱い(共有範囲・保管・プライバシー)を明確にしておくと安全です。
マニュアルに「何を盛り込む?」—介護現場向け“最低限の章立て”
「何から書けばいい?」で止まりがちなので、最低限の骨組みを固定します。
まずはこの8章立てでOKです。
- 定義(苦情/カスハラ/犯罪に該当し得る言動)
- 判断基準(状態・影響・危険度・反復性)
- その場対応(安全確保、言い方、区切り、エスカレーション)
- 訪問・単独場面の特則(退出・中止・再開条件)
- 家族対応(窓口一本化、文書回答、期限)
- 職員保護(担当替え、複数対応、メンタルケア)
- 悪質事案への対処(警告、通報、提供拒否の検討※法令の範囲で)
- 再発防止(原因分析、サービス設計・連携の改善)
ここまで揃うと、「起きた時にどう動くか」が、法人として再現できます。
※マニュアルについては、次回以降のブログでさらに具体的にご紹介します!
現場が回る「事業所基準」の作り方(“線引き”を言語化する)
同じカスハラでも、介護現場は「相手が顧客であると同時に“支援対象者”」です。
だから事業者が決めるべき基準は、3レイヤーに分けると誤解が減ります。
A. 「支援としての対応」(認知症・疾患・障がい特性が背景にある)
目的:ハラスメント認定で切るのではなく、ケアの組み立てで減らす
具体:トリガー(不安、疼痛、環境刺激、伝え方)を見立て、
ケアプラン/支援計画/環境調整/家族支援に落とす
ただし:暴力・脅迫・性的接触など安全を脅かす行為は、支援の工夫だけに閉じない(Bへ)
B. 「安全配慮としての対応」(職員の安全確保を優先)
目的:危険がある時は“支援より先に安全”
具体:距離確保、複数人、退出基準、通報基準、訪問の中止・再開条件
C. 「契約・提供体制としての対応」(主語を“法人”に戻す)
介護のカスハラ対応は「3階層」で考える!
全部を“カスハラとして、切り捨てるような対応をするという話ではありません。現場で迷わないために、対応を3つに分けて整理します。
① 落ち着かせる(ケアで減らす)
相手の言動に、認知症・病気・障がい特性・不安・痛み・環境の影響がありそうな時。
→ 何がきっかけか(不安・疼痛・待ち時間・伝え方など)を探し、ケアのやり方や環境を調整して“落ち着く形”を作ります。
② 守る(危ない時は安全が最優先)
暴力、物を投げる、脅し、近づいてくる、触ろうとする、退出できないなど危険がある時は②を最優先。
→ 距離を取る/1人にならない/複数人対応/退出基準/通報基準/訪問の中止・再開条件を決めます。
③ ルールに戻す(交渉は個人じゃなく法人で)
過大要求、執拗なクレーム、長時間拘束などで、現場の一人が抱えて泥沼化している時。
→ 連絡時間・回答期限・窓口一本化・受付のフォーム化・文書回答に切り替え、交渉の主語を“法人”に戻します。
合言葉:落ち着かせる(ケア)/守る(安全)/ルールに戻す(法人)
現場が回る“線引き”のコツ(言葉ではなく「行動と危険」で決める)
線引きを「言って良い/言ってはいけない」で決めると、現場は揉めます。
決める軸は、行動と危険です。
- 危険(接触・物・退出困難) → 即、安全対応(距離・複数・退出・通報)
- 反復(同一行為が続く) → 窓口一本化、法人対応へ
- 業務影響(長時間拘束) → 対応時間を規定し、文書回答へ
さらに重要なのは、サービス形態での運用差です。
- 入所:同じ基準で“館内運用”をどう回すか
- 通所:送迎・受付・フロアでの線引きをどうするか
- 訪問:単独・退出困難を前提に「中止・再開条件」を先に決める
“同じ基準・違う方法” を示すと、現場の納得感が一気に上がります。
準備はいつから?—「今年の10月までに」逆算チェックリスト
※ブログでは安全のため、「2026年10月“予定”】【施行までに準備】 と表現し、確定日は最新情報に沿って更新する書き方が無難です。(※予定は変更されることもあります。2026年12月施行など様々な情報も散見されています。その点はご留意ください。)
- 今月:現状棚卸し(起きている類型、ハイリスク場面、単独・夜間の弱点)
- 来月:方針・基準(線引き)確定、初動フロー作成(1枚化)
- 次:研修・周知、相談窓口整備、記録様式(事実+感情記録の運用)
- 直前:ロールプレイ、夜間・単独場面の訓練、外部連携(包括・警察・顧問)
ひとこと注意(ブログの書き方として安全)
- 「提供拒否・出入り禁止」などは例として出やすい一方、介護は サービス提供の継続性/権利擁護/虐待防止/契約・重要事項説明/地域連携 が絡みます。
- ブログでは必ず、「法令の範囲で/顧問等と確認のうえ」 と添えるのが安全です。
- 重要なのは「出禁」よりも、まず 窓口一本化・複数対応・安全基準・文書対応 といった、“法人に主語を戻す整備”です。
【コピペ用】準備チェックリスト(5点セット)
- 方針:職員を守る宣言/線引き例
- 窓口:相談先・判断者・エスカレーション/プライバシー
- 手順:初動フロー1枚(夜間・単独を含む)
- 教育:定型句・禁止事項・ロールプレイ
- 記録:事実記録+感情記録(取扱い・共有範囲を明確化)
小まとめ
- 今年度、カスハラ対策は「個人対応」から「事業者の仕組み」へ移る改正が予定されています。
- 介護・障がい福祉では、支援/安全/契約の3レイヤーで線引きを整備すると誤解が減ります。
- まずは 5点セット(方針・窓口・手順・教育・記録) を“今年の10月までに”逆算して整えるのが現実的です。
今回のブログは、介護事業所が対応すべきカスハラ対応に向けたアウトラインです。次回からも引き続き、本内容を細部にあたって深めていきます。

