――多職種協働を円滑にする「つなぐ力」
(監修・執筆:梅沢佳裕/社会福祉士・介護支援専門員・研修講師)
介護・障害・児童といった福祉現場では、多職種連携が支援の質を左右すると言われ続けています。
介護職、看護職、生活相談員、ケアマネジャー、相談支援専門員、リハ職、心理職、事務職――。
それぞれの専門性が重なり合うことで、利用者の生活は支えられています。
一方、現場からはこんな声も少なくありません。
「連携しているはずなのに、話が噛み合わない」
「会議では合意したのに、現場では動きがそろわない」
「いつも誰かが板挟みになって疲れてしまう」
この“連携のズレ”が生じる場面で、静かに、しかし確実に現場を支えているのが、
福祉現場で働く中堅職のフォロワーシップです。
多職種連携がうまくいかない理由とは?
多職種連携が難しくなる理由は、単なる人間関係の問題ではありません。
現場を丁寧に見ていくと、そこには共通する構造があります。
それは、職種ごとに「大事にしている視点」が違っているという点です。
職種ごとに「大事にしている視点」が違っている
同じ利用者を支援していても、
職種が違えば、最優先で見ているポイントも異なります。
たとえば、高齢者施設で夜間の転倒対策が話題になったケースです。
- 介護職は「生活リズムが崩れないか」「夜勤体制で回るか」を大事にします
- 看護職は「転倒による医療リスク」「急変の可能性」を重視します
- 生活相談員は「家族への説明」「施設としての責任」を意識します
どの職種も、利用者のことを考えていないわけではありません。
ただ、見ている角度が違うのです。
この違いを整理しないまま話し合うと、
「現場を分かっていない」
「専門職として無責任だ」
といった感情が生まれやすくなります。
だからこそ中堅職には、
「どちらが正しいか」を決めるのではなく、「何を大事にして意見が出ているのか」を言葉にして整理する役割が求められます。
福祉現場における中堅職のフォロワーシップとは?
では、この職種間のズレを、実際に誰が埋めているのでしょうか。
管理職でしょうか。
それとも各専門職同士でしょうか。
多くの現場を見てきた立場から言えるのは、
最も現実的にこの役割を担っているのは中堅職であるということです。
フォロワーシップは「調整役の専門性」
中堅職のフォロワーシップは、単なる「上司の補佐」ではありません。
- 管理職の方針を、現場で実行できる形に整える
- 現場職員の声や違和感を、課題として整理する
- 職種ごとの視点の違いをつなぎ、合意点を見つける
この三方向を支える専門性こそが、中堅職のフォロワーシップです。
たとえば障害者支援施設で、
「本人の意思を尊重したい支援員」と
「家族や関係機関との調整を重視する相談支援専門員」の意見が対立した場面。
中堅職が
「どちらも本人の生活を守ろうとしている点は共通していますよね」
と整理したことで、議論は対立から建設的な話し合いへと変わりました。
管理職と現場、職種同士をつなぐ「橋渡し役」になる
中堅職に求められるもう一つの重要な役割が、
**管理職・現場職員・多職種の間に立つ「橋渡し役」**になることです。
福祉現場では、管理職の方針がどうしても抽象的な言葉で示されることがあります。
「自立支援を強化する」「連携を深める」「事故を減らす」――
方向性は正しくても、現場職員にとっては
「具体的に何をすればいいのか」が見えにくい場合があります。
そこで中堅職が、
「声かけのタイミングを一つ遅らせてみよう」
「選択肢を提示する場面を意識して増やそう」
といった形で、現場で実行できる行動レベルに整理して伝えることで、
方針は少しずつ現場に根づいていきます。
同時に中堅職には、
現場職員の不安や違和感を、
そのままの感情で上に投げるのではなく、
背景や状況を添えて管理職に伝える役割もあります。
この「上から下へ」「下から上へ」をつなぐ動きこそが、
多職種連携を現実的なものにしていきます。
職種間連携を強めるフォロワーシップの実践例
フォロワーシップは、会議の場だけで発揮されるものではありません。
むしろ、日常の小さな調整の積み重ねにこそ、その力が表れます。
会議・カンファレンスでの立ち回り
特養でのカンファレンスで、
ケアマネと介護職の意見が平行線になった場面。
中堅職が
「目的は“安全に生活してもらうこと”で同じですよね。
ただ、今は大事にしている視点が少し違っているように感じます」
と発言したことで、議論は整理されました。
論点を言葉にして示す力が、場の空気を変えたのです。
日常業務でできる「つなぐ一言」
- 「その意図、別の職種から見るとこうかもしれません」
- 「誤解が出そうなので、少し補足しますね」
- 「一度整理してから共有します」
こうしたワンクッションの言葉が、
職種間の信頼関係を守ります。
そのまま使えるチェックリスト
- 職種ごとの「大事にしている視点」を意識できているか
- 情報共有が一方通行になっていないか
- 対立を深める言い方になっていないか
- 誰かが板挟みで孤立していないか
一つでも当てはまれば、
そこがフォロワーシップ発揮のポイントです。
現場でよくある質問(Q&A)
Q.中堅職が橋渡し役になると負担が増えませんか?
A.負担は増えます。ただ、調整を放置した場合の混乱と比べると、結果的に現場は安定します。
Q.それは管理職の仕事では?
A.最終判断は管理職ですが、判断材料を整えるのは中堅職の重要な役割です。
Q.自分の立場が弱くなりませんか?
A.むしろ「全体を見て動ける人」として信頼が高まるケースが多いです。
福祉現場の多職種連携は、制度や仕組みだけでは回りません。
職種ごとに「大事にしている視点」が違うことを理解し、橋渡しする人がいて、初めて機能します。
その役割を担っているのが、
中堅職のフォロワーシップです。
小まとめ|中堅職のフォロワーシップが現場をつなぐ
福祉現場の多職種連携がうまくいかない背景には、
職種ごとに「大事にしている視点」が違っているという構造があります。
これは誰かの能力不足や姿勢の問題ではなく、
専門性を持つがゆえに生じる自然な違いです。
その違いを理解し、整理し、つないでいく役割を担っているのが、
中堅職のフォロワーシップです。
中堅職は、管理職の方針と現場の実情を結び、
職種同士の視点のズレを調整する**「橋渡し役」**として、
現場全体が前に進むための土台を支えています。
多職種連携は、制度や会議だけでは機能しません。
日常の声かけや調整、ひとつひとつの判断の積み重ねによって、
初めて“実際に動く連携”になります。
その中心にいる中堅職の存在こそが、福祉現場の安定と支援の質を支えています。
執筆・監修
ベラガイア17人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕
社会福祉士/介護支援専門員/研修講師
ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表
介護・障害・児童分野を横断し、
現場実務者・中堅職・管理職向けの研修・執筆を行っている。
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