介護施設の生活相談員にとって、「聴く力」はあらゆる支援の出発点です。
入所前の相談、家族との面談、クレーム対応、看取り期の支援――。
どの場面でも、「どう聴くか」で、その後の展開や信頼関係が大きく変わります。
多忙な現場では、「とりあえず話を聞いて、必要な説明をして終わり」という対応になりがちです。
しかしソーシャルワーカーとしての生活相談員に求められるのは、単なる「聞き取り」ではなく、相手の感情や背景ごと受け止める“聴き方”です。
今回は、傾聴の本質と、生活相談員としてどのように発揮していくのかを整理します。
1.「聞く」ではなく「聴く」――傾聴の本質を理解する
まず押さえておきたいのは、生活相談員が行う傾聴は“情報収集”だけが目的ではないという点です。
情報や事実を集めることはもちろん大事ですが、同じくらい重要なのは、
- この人は今、どんな気持ちで話しているのか
- どんな人生を歩んできて、何を大切にしてきたのか
- その価値観やこだわりが、今の生活にどう影響しているのか
といった背景まで含めて理解しようとする姿勢です。
そのうえで、傾聴の本質を支える要素を、あらためて3つにまとめてみます。
①「言葉の奥にある感情」を聴き取る
たとえば、入所面談で利用者が
「こんなところに来るつもりはなかったんだけどね」と話したとします。
言葉だけを受け取ると「施設への不満」と見えますが、その奥には
- 長年暮らしてきた家を離れる寂しさ
- 家族に迷惑をかけたくない思い
- 「自分の力では暮らせなくなった」喪失感
など、さまざまな感情が入り混じっています。
傾聴では、発言の表面だけを追わず、「その言葉は、どんな気持ちから出てきたのか?」に意識を向けることが大切です。
「ここに来るつもりはなかった」という表現の奥にある、「家を守ってきた誇り」「手放すつらさ」に耳を澄ませていきます。
② 評価や助言よりも「受け止めること」を優先する
生活相談員は、つい「どう支援するか」「どう調整するか」を考えがちです。
しかし、傾聴の最初の一歩は“評価しないこと”です。
- 「そんなふうに考えるべきではありません」
- 「それは間違っていますよ」
といった評価や説得は、相手の心を閉じさせてしまいます。
まずは、
- 「そう感じておられるのですね」
- 「そういう経験をされてきたのですね」
と、“その人の感じ方”を一旦そのまま受け止めることが重要です。
受容されたと感じたとき、人は初めて“自分の気持ちを整理しよう”と心のギアを切り替えていきます。
③ 相手のペースに合わせ、非言語のサインも聴く
特養や有料老人ホームでは、認知症やコミュニケーションの低下により、言葉だけでは思いを伝えきれない方も多くいます。
そのような場面で大切なのは、言語以外の情報にも耳を傾けることです。
- 目線を合わせると安心した表情になる
- ある話題になると急に落ち着かなくなる
- 食事や入浴の話をすると顔がこわばる
こうした変化は、その方の「好き/苦手」「安心/不安」を教えてくれる重要なサインです。
相談員は、
- あえてゆっくり話す
- 質問を短くシンプルにする
- 写真やカレンダー、昔の仕事道具など“きっかけ”を一緒に眺める
といった工夫を通じて、相手のペースに合わせた聴き方を選んでいきます。
「言葉が少ない=意思が弱い」ではありません。
表情やしぐさも含めて“聴き取る”のが、ソーシャルワーカーとしての傾聴です。
2.生活相談員の傾聴が生きる具体的な場面とポイント
では、実際の現場ではどのような場面で傾聴が生かされるのでしょうか。
新任相談員がイメージしやすいように、代表的な場面と、そこでの“聴き方のポイント”を見ていきます。
● 場面1:入所相談・利用開始の面談
入所前の相談や見学の場面では、利用者も家族も不安でいっぱいです。
- 利用者:「迷惑かけたくないんだよ」
- 家族:「もう家では限界で…でも施設に入れるのも罪悪感があって」
ここでのポイントは、
- 「どちらが正しいか」ではなく、双方の気持ちを同じ重さで聴くこと
- 「大変でしたね」「ここまでお一人で頑張ってこられたのですね」と、
まずはこれまでの歩みをねぎらう言葉を届けること
です。
「入所の可否」や「サービス内容」の話は、そのあとで十分間に合います。
最初の時間は、“これまでよく頑張ってこられましたね”と伝える場として捉えると、関係作りがスムーズになります。
● 場面2:生活の中での不安や不満の訴え
入所後、利用者から次のような言葉が出てくることがあります。
- 「職員さん、忙しそうで悪いね」
- 「こんなところに長くいるつもりじゃなかった」
ここで、
- 「そんなこと言わないでください」
- 「みんな頑張っているんですよ」
と打ち消してしまうと、そこで対話は終わってしまいます。
傾聴のポイントは、
- 「そう感じる場面が多いのですね」「どんなときに、そう思われますか?」と、
気持ちに寄り添いつつ、具体的な場面を一緒に振り返ること - 聴き取った内容を、ケアマネや介護職と共有し、小さな改善につなげること
です。
「聴いてもらえた」「わかってもらえた」と感じると、利用者は少しずつ安心して本音を話してくれるようになります。
● 場面3:家族からのクレーム・不安の相談
生活相談員が一番緊張する場面かもしれません。
たとえば、こんな訴えがあります。
- 「昨日転んだって聞いて、本当にびっくりしたんです!」
- 「もっとちゃんと見てもらえないんですか?」
ここで大事なのは、すぐに言い訳や説明に入らないことです。
- 「驚かれましたよね」「心配になりますよね」と、まず感情の言葉に寄り添う
- 「どのあたりが一番ご不安ですか?」と、不安のポイントを一緒に整理する
そのうえで、「事実」「今後の対応」「一緒に確認していきたいこと」を伝えていきます。
クレーム対応も、相手の感情を聴くことから始まる対人援助の一つと捉えると、相談員としての役割が見えやすくなります。
● 場面4:看取り期の家族と向き合うとき
看取り期には、家族の心も揺れ動きます。
- 「延命した方がよかったのでは…」
- 「もっと何かできたんじゃないかと、今でも思ってしまう」
このとき重要なのは、「正しい答え」を示すことではありません。
相談員の傾聴の役割は、
- 家族の罪悪感や迷いをそのまま受け止めて、言葉にしてもらうこと
- 本人の生活歴や価値観を一緒に振り返り、「その方らしい最期」について家族とともに考えること
です。
「どんな人生を歩んでこられた方でしたか?」「どんなふうに過ごすことを大切にされていましたか?」と問いかけ、
家族が「この選択でよかったのだ」と少しずつ受け止められるよう伴走していく――。
ここにも、生活相談員の静かな傾聴力が求められます。
小まとめ:傾聴は“特別な技術”ではなく、日々の姿勢そのもの
生活相談員の傾聴は、「特別な時だけ使うスキル」ではありません。
入所相談、日々の声かけ、家族面談、職員との対話――。
毎日のあらゆるコミュニケーションの土台にある“姿勢”そのものです。
- 言葉の奥にある感情を聴く
- 評価や助言よりも、まず受け止める
- 相手のペースに合わせ、非言語のサインも大切にする
この3つを意識するだけでも、利用者・家族・チームとの関係性は大きく変わっていきます。
「聴いてもらえた」と感じてもらえる相談員は、自然と“頼られる存在”になっていきます。
あなたの傾聴力は、今日から少しずつ磨いていくことができます。
まずは一人ひとりの言葉の奥にある思いに、ていねいに耳を傾けてみませんか。
