【加算チェックリスト運用術】第9回:特別養護老人ホーム・介護老人保健施設で加算を取りこぼさない

9.介護報酬改定と算定の解説

  ―委員会・記録・LIFE(科学的介護情報システム)連携の3点見直し


1.入所系施設で加算が複雑化する背景と、共通して押さえる原則

特別養護老人ホームや介護老人保健施設では、近年、次のような加算が重層的に求められています。
科学的介護推進体制加算(LIFE提出・活用を前提とする仕組み)
生産性向上推進体制加算(業務改善および情報通信技術等の活用を評価する仕組み)
栄養ケア・口腔衛生管理体制加算(管理栄養士・歯科衛生士等を含む多職種連携)
感染症・災害時対応力強化加算(業務継続計画および訓練の実施を要する領域)
高齢者虐待防止体制の整備(虐待防止委員会、指針、研修、相談体制等)

共通点は、委員会の運営、会議録・実施記録の整備、LIFEデータの提出・活用という三つの柱が必ずどこかで関係していることです。
したがって、個別の加算要件を一つずつ暗記するよりも、三つの柱を同じ「運用の型」に乗せて月次で回すほうが、現場の負担が減り、算定の安定性も高まります。

原則は次の三点です。
1)委員会は「報告の場」ではなく「次の行動を決める場」にする
2)会議録・実施記録は「残すため」ではなく「改善を進めるため」に書く
3)LIFEは「提出して終わり」ではなく「分析→改善→再計画」に必ず接続する


2.委員会・記録・LIFEを“線”で結ぶ運用モデル(月次サイクル)

現場で迷わないために、委員会の種類を増やすのではなく、役割を結び直します。以下は入所系施設で汎用的に使える月次サイクルの一例です。

ステップA(前月のふり返り)
・科学的介護推進体制に関する委員会で、LIFEの前回提出データ(例:身体機能、栄養、口腔、排泄、安全指標など)を多職種で確認する。
・改善が必要な対象者群とテーマ(転倒、低栄養、口腔機能低下、記録負担など)を抽出する。

ステップB(今月の方針決定)
・業務改善に関する委員会で、抽出テーマを実務手順に落とし込む。
 例:夜勤巡視の間隔調整、見守り機器の設置場所変更、介護記録の入力手順統一、食事観察表の書式変更。
・栄養ケア・口腔衛生の委員会で、個別支援計画に反映させる。

ステップC(実施と記録)
・介護記録、看護記録、栄養記録、口腔衛生記録を、変更点に合わせて運用。
・ヒヤリ・ハット、事故報告、研修記録も同じ月次フォーマットに集約する。
・虐待防止体制に関する気づき(言動・接遇・環境上のリスク)も、同一の連絡ルートで早期拾い上げ。

ステップD(LIFE提出・分析)
・提出期限内にLIFEへデータ提出。
・LIFEフィードバック結果(傾向・比較)を次月の科学的介護推進体制の委員会資料に組み込む。

このA→B→C→Dの“線”を毎月繰り返すと、委員会、記録、LIFEが自然と一体化します。
「委員会で決めたことが記録に反映され、LIFEに提出され、結果がまた委員会に戻る」という循環ができれば、加算要件の大半は運用の中で満たせます。

会議録の要点(実務テンプレートの目安)
・議題、根拠データ(LIFE・事故統計・ケア記録集計等)、決定事項、担当者、期限、評価方法
・次回議題(何を、誰が、どう測るか)を必ず一行で書き残す


3.算定漏れを防ぐ月次チェックリスト(例)と、各項目の意味

一覧表にチェックを入れるだけではなく、なぜ必要なのかを理解して回すことが重要です。

項目1:委員会を月1回以上開催したか
→ 会議の頻度ではなく、改善サイクルが止まっていないかを確認するため。開催日と出席者を必ず記録。

項目2:議事録に根拠データと決定事項、担当者、期限を明記したか
→ 加算は「取り組みの実在」が評価対象。根拠と行動が紐づいていることが必須。

項目3:介護記録・看護記録・栄養記録・口腔衛生記録に決定事項を反映したか
→ 会議で決めたことが現場運用に落ちていなければ実効性がない。書式の更新や手順の明示も含む。

項目4:LIFEへ期限内に提出したか
→ 科学的介護推進体制加算の根幹。提出漏れは算定不可や返還のリスク。提出責任者と予備担当を決めておく。

項目5:LIFEフィードバックの気づきを次回会議に持ち帰ったか
→ 提出して終わりではなく、改善につながった事実を残す。計画の更新履歴が監査時の強い裏付けになる。


4.まだ科学的介護推進体制加算を算定していない施設へのやさしい導入ステップ

はじめから完璧を目指す必要はありません。小さく始め、慣れながら精度を上げるのが現実的です。

ステップ1:委員会を整える(30分で良いので毎月開く)
・管理者、介護職、看護職、管理栄養士、口腔衛生に関わる職員、機能訓練に関わる職員が参加。
・議題は「先月の出来事」「改善したいこと」「次にやること」の三点だけで良い。
・短い議事録でも必ず残す(形式はシンプルで構わない)。

ステップ2:得意な領域から一項目だけLIFE提出に挑戦
・例:管理栄養士が栄養関連項目、看護職が褥瘡関連項目、介護職が日常生活動作評価など。
・一人分、一項目からでも「提出できた」という成功体験を先につくる。

ステップ3:小さな改善結果を全職員で共有
・「食事観察の記入を簡素化したら記録時間が短縮した」「夜勤巡視の間隔調整で転倒が減った」など、現場の変化を必ず言語化して配信。
・共有の場は朝礼でも掲示でも良い。続けられる形で定着させる。

この三つだけで、翌月には「委員会→記録→LIFE→改善→共有」の流れが見え始めます。
最初のハードルは“完璧主義”。まずは小さく始めることが、結局は最短ルートです。


5.よくある落とし穴と回避策

落とし穴1:委員会の乱立と目的の重複
→ 目的別に委員会を一本化せずとも、議題とデータを横断共有する「ハブ会議(科学的介護推進体制に関する委員会など)」を設ける。決定事項は各委員会に分配。

落とし穴2:会議録はあるが記録に落ちていない
→ 書式の左上に「今回の変更点」を一行で明示。誰が見ても今月の運用差が分かるようにする。

落とし穴3:LIFE提出はできるが活用に戻らない
→ 次回会議の議題欄に「LIFEフィードバックの確認」を固定で入れる。分析担当者を決める。

落とし穴4:生産性向上推進体制加算の“導入しただけ”状態
→ 安全確認、操作研修、効果測定(記録時間、残業、事故等)を最低セットに。導入前後を必ず比較する。


小まとめ

入所系施設の加算運用は、委員会、記録、LIFE(科学的介護情報システム)という三つの要素を“線で結ぶ”だけで、驚くほど整理されます。
委員会は次の行動を決める場に、記録は改善のための道具に、LIFEは提出から活用へ。
最初は小さく、しかし確実に。月次のサイクルを止めないことが、算定の安定化、介護サービスの質の向上、職員の定着、そして経営の安定につながります。


外部リンク

  1. 厚生労働省「科学的介護情報システム(LIFE)について」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198094_00037.html
    → LIFEに関する制度概要、様式、提出要件などが公式にまとめられています。
  2. 厚生労働省「生産性向上推進体制加算に係る届出書等について」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000209634_00010.html
    → 加算(Ⅰ・Ⅱ)を対象とした届出・報告手続き、様式・通知が掲載されています。

(筆:ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕


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