1.生産性向上推進体制加算Ⅱとは? ― はじめやすい第一歩
2024年度の介護報酬改定で新設された生産性向上推進体制加算は、介護現場での業務改善とテクノロジー活用を評価する新しい仕組みです。
その中でも加算Ⅱ(10単位/月)は、比較的取り組みやすい“入門編”の位置づけです。主な目的は、利用者の安全確保と介護サービスの質の維持・向上、そして職員の負担軽減を両立させることにあります。とはいっても、職員に十分な説明周知窓の準備を行わず、フライングして導入すると、スムーズに業務改善が進められず、業務が滞ってしまう可能性もあります。
厚生労働省が示す要件は次の4つです。
- 委員会の開催:安全・質向上・負担軽減をテーマに話し合い、改善を進める。
- テクノロジー導入:見守りセンサーや介護記録ソフトなど、ICT機器を1つ以上導入する。
- 改善活動の継続:厚労省の「生産性向上ガイドライン」に沿い、業務改善を継続する。
- データ提出:1年に1回、改善の成果を示すデータを提出する。
つまり、“導入して終わり”ではなく、“活用して効果を出す”ことを評価する加算なのです。月10単位という小規模な加算ですが、生産性向上推進体制加算Ⅰ(100単位)へのステップアップにもつながる重要な基盤です。
2.算定要件と実務で押さえるべきポイント
算定の中心となるのは、委員会活動と改善計画の実効性です。委員会は開催することが目的ではなく、「話し合いを行い、実際の改善につなげること」が求められます。議題には必ず「担当者・期限・評価方法」を明記し、‶結果を数値で確認できる指標(例:転倒件数、残業時間、記録作成時間など)”を設定しましょう。
改善計画を作成する際は、次のような項目を押さえると効果的です。
- 目的・目標を明確にする(例:転倒事故の削減、残業時間の削減など)
- 実施期間と担当者を設定する
- 実施後の検証方法を決める(前後比較やアンケートなど)
また、職員研修も算定に欠かせません。導入した機器の操作研修だけでなく、転倒予防や感染症対策などの「質向上研修」も含まれます。新任職員にはマニュアルや標準操作手順書を配布し、OJTや現場演習で理解を深めることが大切です。
導入するテクノロジーとしては、見守りセンサー、介護記録ソフト、インカム、移乗支援機器などが代表的です。導入後は必ず安全確認を行い、ヒヤリ・ハット報告と結びつけて導入前後の効果を可視化すると、監査時のエビデンスにもなります。
3.算定を確実にするための「見える化」と記録整備
算定の信頼性を高めるために、委員会や改善活動の記録を残すことが最重要です。以下のような書類を整備しておくと安心です。
- 委員会議事録:開催日・出席者・議題・決定事項・担当者・期限を明記。
- 改善計画書と検証記録:目的・指標・結果・改善点を記録。
- 導入・研修記録:機器名、設置場所、操作研修実施日、安全確認内容を記載。
- 効果データ:利用者の満足度、業務時間、残業時間、有給取得率などを数値化。
特に「効果データ」は厚労省への提出が義務づけられています。
例として、利用者5名程度の満足度調査(WHO-5などの幸福感尺度)や、1か月分の業務時間の集計などが挙げられます。提出は1年以内に1回が原則です。
監査では、‶「継続性」と「エビデンス(証拠)」”*が重視されます。
「委員会を開いただけ」「機器を導入しただけ」では加算の要件を満たしません。取り組みを続け、結果をデータで示すことが最も重要です。
小まとめ
生産性向上推進体制加算Ⅱは、介護現場の業務改善を推進する「第一歩」として位置づけられています。委員会を中心にテクノロジーの活用・計画的な業務改善・効果の見える化を進めることが、安定した算定への近道です。
月10単位と小規模な加算ですが、取り組みを積み上げていくことで加算Ⅰ(100単位)への移行にもつながります。何より、利用者の安心と職員の働きやすさを両立させるための実践的な仕組みとして、今後ますます重要性が高まるでしょう。

