介護の現場では、利用者やそのご家族からの強いクレームや無理な要求、暴言、威圧的言動が日常的に発生し得ます。これを放置すると、“ちょっとした苛立ち”が“重大なトラブル”に発展することもあります。だからこそ、‶カスタマーハラスメント(カスハラ)”においては、初動対応でいかに芽を摘むかが、事業所・職員・利用者の安全と安心を守るうえで非常に重要です。
本記事では、特養や通所施設、訪問介護を始めとする介護事業所に勤務する実務者を想定し、その場で使える対応スキルを中心に解説します。具体的な判断手順と実践例を元に、「危険度を抑える」「拡大を防ぐ」ための行動を整理しました。
1.その場で危険を小さくする判断の視点
カスハラの初動対応には、次の3つの視点を意識して“芽を小さくする”判断が不可欠です。
(1) 状態を確認する
利用者・家族の行動や発言には、病状・認知症特性・疲労・ストレスといった背景が絡むことがほとんどです。
「いつもと様子が違う」「薬が変わった」「夜になって興奮が強い」などの変化に敏感になり、単純に“怒鳴る”“無礼だ”と切り捨てない視点を持ちましょう。
(2) 影響を見積もる
発言や行動が、本人・他利用者・職員・業務に与える影響を即座に推し量ります。たとえば、怒鳴り声が他利用者の不安を煽る、強い要求に応じたら他者の介護が手薄になる、などが挙げられます。
(3) 危険度を判定する
言葉だけか、物を使い始めるか、身体への接触が始まるか。接近・手の動き・場所の制約など「危険の兆候」が見えたら、安全最優先で距離を取る、複数人対応に切り替える、管理責任者へ交代などの動きを即座に判断すべきです。
2.具体的その場対応:危害を抑えるアクション
実際の場で使える手法を以下にまとめます。すべての現場で使える“引き出し”です。
- やわらかく短く声をかける
感情的に反応せず、落ち着いた声と口調で伝える。
例:「お話を伺いますが、少し落ち着いて頂けますか?」 - できることとできないことを明確に伝える
「そのご希望は今は対応できません。ただ、○時までには確認できます」など代替案も添える。 - 距離と配置を工夫する
接近されたら後退、椅子越し、間に机を挟むなど空間を使って安全を確保。 - 複数人対応に切り替える
単独で対応せず、別の職員を呼び、同席してもらう。訪問時なら同行を要請することも検討。 - 記録を即時に残す
その場で、発言原文・時刻・場所・対応した言葉・相手の反応を事実ベースで記録する。 - エスカレーション(報告・相談)を行う
担当者だけで抱え込まず、上長や相談窓口に早めに報告。 - 東京都では 介護職員カスタマー・ハラスメント総合相談窓口 を開設しています。
さらに、東京都福祉局では「介護現場におけるカスタマーハラスメント対策強化事業」を実施しており、制度的支援も提供されています。
小まとめ
初動対応での意識と動きが、カスハラの拡大を防ぎます。
- 状態・影響・危険度の視点で判断する
- 落ち着いた言葉で代替案を示し、距離をとる
- 記録と相談を速やかに行う
これらを地道に実践し続けることが、介護現場で働く職員と利用者の安心を守る基盤となります。

