――経営層・リーダー層・中堅層が押さえるべき人材育成と介護DX戦略
1.背景:介護現場と国の動き
介護分野では、人材不足と業務の複雑化が深刻さを増しています。これに対応するため、国は昨年度から 生産性向上推進体制加算 を導入しました。この加算は、組織的な業務改善やICTの活用に取り組む体制を評価する仕組みであり、介護事業経営に直結します。
さらに、介護DX の推進、介護サービス事業者経営情報データベースシステムの稼働など、データとテクノロジーを活用した経営管理が不可欠な時代に入っています。
この大きな流れを受けて厚労省が打ち出したのが 「デジタル中核人材養成研修」 です。これは単なるスキル研修ではなく、経営と現場をつなぎ、組織変革を推進する人材を育成する国家的プロジェクトです。
2.研修の目的と育成される力
本研修は、介護事業所において次のような能力を発揮できる人材を育てます。
- 業務改善力:現場の課題を分析し、ICTや介護ロボットを活用した改善策を企画・実行する力
- リーダーシップ:現場に改善文化を根付かせ、職員を巻き込む推進力
- 科学的介護力:LIFEや各種データを活用し、エビデンスに基づいたケアを実現する力
- 経営参画力:加算算定や経営情報DBへの対応をリードし、経営判断を支援する力
3.研修の概要
開催要項
- 期間:2025年10月~2026年2月
- 形式:オンライン集合研修(3日間)+事前オンデマンド学習+職場での実践課題
- 対象:介護現場経験3年以上で、ICT導入や業務改善に主体的に取り組む意思のある職員
- 定員:全国1,500名(無料)
研修の流れ
- 事前学習(オンデマンド動画)
- 生産性向上の基礎
- 介護DXや介護ロボットの活用知識
- 倫理・利用者尊厳の理解
- 集合研修(オンライン3日間)
- 業務改善演習
- ICT・介護ロボット導入計画作成
- 科学的介護(LIFE等)の活用方法
- リーダーシップとチームマネジメント
- 自職場での実践課題
- 現場の業務分析
- 改善プロジェクト立案
- ICT導入計画書の作成
- 確認テスト・修了証発行
- 学習成果の確認
- 修了証発行(介護サービス情報公表制度に「介護ロボット・ICT研修修了者」として登録可能)
4.関連制度とのつながり
この研修の成果は、他の制度と密接に関係します。
- 生産性向上推進体制加算
→ 修了者を「生産性向上推進リーダー」として配置し、算定条件を充足しやすくなる。 - 介護DX
→ 電子記録やICT機器の導入・活用を現場で推進する中核的役割を担う。 - 介護サービス事業者経営情報データベースシステム
→ データ標準化や経営管理の基盤づくりを担い、施設の経営力強化に直結する。
5.将来像:デジタル中核人材が担う役割
将来、デジタル中核人材は「現場のICT担当者」にとどまりません。
まずは、現場のデジタル推進リーダーとして、職員がデジタル機器を使いこなせるように支援し、改善の文化を浸透させます。次に、経営と現場をつなぐ調整役として、加算や国の施策を理解し、経営層の判断を現場に落とし込む一方で、現場の声を経営層に届けます。
さらに長期的には、地域包括ケアシステムのハブとして、自治体や医療機関との情報連携、地域内でのICT普及啓発にも関与することが期待されます。つまり、デジタル中核人材は「介護の質を高める担い手」であると同時に、「地域全体の変革を牽引する存在」に成長していくのです。
まとめ
Vol.1416「デジタル中核人材養成研修」 は、加算・DX・経営情報DBと結びついた実践的人材育成施策です。
- 経営層は「誰を派遣し、どう活かすか」を戦略的に判断すること
- リーダー層は「業務改善・ICT導入の旗振り役」として役割を果たすこと
- 中堅層は「学びを現場で実践し、キャリアアップにつなげること」
この3つを重ねることで、介護事業所は人材不足の時代でも質を落とさない体制を築くことができます。