【介護職員等処遇改善加算】第5回:介護職員等処遇改善加算の全体像を理解する

9.介護報酬改定と算定の解説

― 新体系Ⅰ〜Ⅳと経過措置Ⅴの基本構造と実務対応の要点


1.介護職員等処遇改善加算が一本化された背景

2024年度の介護報酬改定では、これまで並立していた介護職員処遇改善加算介護職員等特定処遇改善加算介護職員等ベースアップ等支援加算が廃止され、「介護職員等処遇改善加算」として一本化されました。

国が狙ったのは、介護職員の賃金を一時金ではなく毎月の給与に確実に反映させ、恒常的な改善を図ることです。従来は賞与や期末手当としてまとめて支給する事業所も多く、職員が安定した生活設計を立てにくい問題がありました。そこで、給与の月例化を前提に制度を設計し直したのです。

同時に、キャリア形成(キャリアパス要件)働きやすい環境づくり(職場環境等要件)も評価対象とされ、処遇改善を単なる「賃上げ」にとどめず、人材の成長や定着を促す制度へと進化させました。


2.新体系Ⅰ〜Ⅳと経過措置Ⅴの基本構造

新しい処遇改善加算はⅠ〜Ⅳの4区分で構成され、さらに経過措置Ⅴが2024年度に限って設けられていました。

  • 新加算Ⅰ
    • キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅳをすべて満たし、職場環境等要件でも充実した取組を行うトップ区分。
    • 配分率が最も高く、経営効果と職員の満足度に直結する。
  • 新加算Ⅱ・Ⅲ
    • 要件の充足範囲を段階的に拡張できる中位区分。
    • 準備状況に応じて移行しやすく、段階的整備を進める施設に適している。
  • 新加算Ⅳ
    • 最低限の要件を満たせば算定可能。
    • 初めて取り組む事業所や小規模事業所にとっての入口的区分。
  • 新加算Ⅴ(経過措置)
    • 2024年度のみ利用可能。
    • 旧加算からの移行を円滑に進めるための暫定措置で、2025年度からはⅠ〜Ⅳのいずれかに移行しなければならない。

図表:新体系と経過措置のイメージ

区分要件の水準主な特徴
最上位キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅳ+職場環境等要件を高水準で整備
中上位要件を段階的に整備、移行しやすい
中位整備途上の施設でも算定可能
基礎最低限の要件で算定、入口区分
経過措置2024年度限定、2025年度以降はⅠ〜Ⅳへ移行必須

3.月額賃金改善要件とキャリアパス要件のポイント

● 月額賃金改善要件

  • 要件Ⅰ:新加算Ⅳ相当額の二分の一以上を基本給または毎月の手当に充当。
  • 要件Ⅱ:前年度にベースアップ等支援加算を算定していなかった事業所は、その相当額の三分の二以上を基本給または毎月の手当に充当。

注意点:一時金中心の支給を行っていた場合は、給与体系を見直して月例給与に組み替える作業が必要です。


● キャリアパス要件

  1. :職位・職責・職務内容に応じた任用・賃金体系の整備
  2. :資質向上のための研修機会の確保
  3. :経験や資格に応じた昇給制度の整備
  4. :経験や技能のある職員の年額賃金を440万円以上に設定
  5. :一定割合の介護福祉士等を配置(小規模事業所などは免除可)

これらの要件は、就業規則・評価制度・研修計画などの整備と運用実績によって裏付ける必要があります。


● 職場環境等要件

  • ハラスメント防止策
  • 健康管理やメンタルヘルス対策
  • 子育て・介護との両立支援
  • ICT活用による業務効率化

2025年度以降は、情報公表システムで28項目を区分ごとに公開することが義務化されます。施設の姿勢を外部に示すことは、採用活動や信頼構築にも直結します。


まとめ(約300字)

介護職員等処遇改善加算は、旧来の三つの加算を統合し、毎月の給与改善を軸に据えた新しい仕組みです。Ⅰ〜Ⅳの区分と経過措置Ⅴを理解することは、2025年度以降の確実な算定に不可欠です。要点は、月額賃金改善要件を満たす給与設計と、キャリアパス要件・職場環境等要件を実際に整備することです。要件Ⅱの適用条件やキャリアパス要件Ⅴの免除規定、令和7年度における誓約による弾力運用など、細部まで理解しておくことで、監査対応や職員への説明がスムーズになります。加算は単なる収益手段ではなく、職員の処遇改善と人材定着を支える制度です。早めの準備と丁寧な運用が、経営の安定と現場の働きやすさを同時に実現します。

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