「昨日は帰宅しても疲れが取れず、布団に入っても眠れなかった」
「利用者さんに感謝されると嬉しいけれど、心ない一言に落ち込んでしまう」
これは、介護職の方からよく聞く声です。体は動いていても、心がすり減っていく──。気づかないうちにストレスが積み重なり、ある日突然、働く意欲が途切れてしまうこともあります。
介護の仕事は「感情労働」と呼ばれるほど、心の負担が大きい職種です。利用者や家族に寄り添い続ける一方で、忙しさや人間関係の難しさから、気づかないうちにストレスを抱え込んでしまいます。本記事では、介護職にこそ必要なメンタルケアの基本を、現場のエピソードを交えながらわかりやすく解説します。
1.介護職が抱える「見えにくい疲れ」とは
介護の仕事は、人の生活や尊厳を支える大切な役割を担っています。その一方で、「感情労働」と呼ばれる職種でもあります。利用者やご家族に常に穏やかな態度で接しなければならず、自分の感情を抑えて働く場面が多いからです。
たとえば特養ホームで働くAさんは、日々の介助の中で「ありがとう」と笑顔で感謝される瞬間に大きなやりがいを感じています。しかし同じ日に「遅いよ!」「もっとしっかりして」と厳しい言葉を投げかけられることもあります。Aさんはその場では笑顔で対応しますが、帰宅するとどっと疲れが押し寄せ、気持ちが沈んでしまうことがあると言います。
このように、介護職は「肉体的な疲れ」だけでなく「心の疲れ」をため込みやすい特徴があります。厚生労働省の「介護労働実態調査」(2023年)によれば、約6割の介護職員が「強いストレスを感じている」と回答しています。ストレスが慢性的になると、不眠・頭痛・肩こり・気分の落ち込み・集中力低下などの形で心身に現れ、結果的に離職や休職につながることも少なくありません。
つまり、介護職にとって「自分の心を守ること」は特別なものではなく、仕事を長く続けるための基本スキルなのです。
2.ストレスを早めに察知する「小さなサイン」
メンタルの不調は、ある日突然やってくるわけではありません。実際には、日常生活の中に小さなサインが少しずつ現れています。
例えば、
- 最近寝つきが悪く、夜中に何度も目が覚める
- 仕事中にイライラが増え、ちょっとしたことで声が強くなる
- 食欲が減った、あるいは逆に過食気味になっている
- 同僚との会話が億劫になり、なるべく避けている
こうした変化は「ただの疲れ」ではなく、心身のSOSかもしれません。デイサービスで働くBさんは、以前は明るく冗談を交わしていたのに、ある時期から笑顔が減り「利用者さんと話すのがしんどい」と感じるようになりました。振り返れば、その少し前から頭痛や肩こりが続いていたそうです。幸い、早めに上司に相談できたことで、休暇を取って体調を立て直すことができました。
このように「小さな違和感」に気づけるかどうかが分かれ道です。放置すれば「燃え尽き症候群(バーンアウト)」へ進みやすくなります。逆に、早期に気づいて手を打てば、重症化を防ぐことが可能です。
3.忙しい現場でもできる「シンプルなセルフケア」
介護の現場は時間との戦いです。長い休憩やまとまったリフレッシュの時間を取るのは難しい場合も多いでしょう。だからこそ「短時間でできる」「道具がいらない」「その場でできる」セルフケアが効果的です。
① 深呼吸でリセット
怒りや焦りが込み上げたら、3秒かけて息を吸い、5秒かけて吐く呼吸を3回繰り返してみてください。自律神経が整い、気持ちを落ち着けやすくなります。
② 小さな区切りをつける
食事介助や入浴介助の合間に、1分だけ廊下を歩く、窓を開けて外気を吸うなど「小休憩」を意識します。たった1分でも「気持ちを切り替える区切り」になり、疲労感を和らげます。
③ 感情を書き出す
帰宅後、メモ帳に「今日は疲れた」「あの場面は悔しかった」と一言だけでも書き出すと、頭の中で繰り返し考えてしまう“反芻思考”が減ります。訪問介護員Cさんは「一行日記」を始めてから、翌朝の気持ちが軽くなったと話していました。
④ 仲間と話す
「今日は疲れたね」「大変だったね」と言い合うだけでも、気持ちは軽くなります。孤立しやすい介護現場だからこそ、同僚との声かけはメンタルケアの一部になります。
これらはすべて数分以内でできる方法です。大切なのは「続けやすいことから始める」こと。難しいセルフケアを完璧にやろうとすると挫折してしまいます。
まとめ
介護職は、人の生活を支える誇りある仕事である一方、「感情労働」による心身の負担が非常に大きい仕事でもあります。ストレスを放置すれば、燃え尽き症候群や離職につながりかねません。しかし、深呼吸や小休憩、感情を書き出すなど、簡単な工夫を日常に取り入れるだけで、心の負担を和らげることができます。
大切なのは「気づくこと」と「小さな一歩を続けること」。今日からできる小さなセルフケアが、明日の自分を守り、介護の仕事を長く続ける力になります。
次回は、「ストレスサインを見逃さないチェックリスト|介護職の早期セルフケアのコツ」です。