【第1回】フォロワーシップと中堅リーダーの役割

7.介護リーダーのスキルアップ

――現場を支える「支える力」と「つなぐ力」

1.「中堅リーダー」という立場の重み

介護・福祉の職場では、役職名が付いていなくても、数年以上の実務経験を持つ職員が自然と「リーダー的役割」を担うことが少なくありません。特養やデイサービスではユニットリーダーやチーフ、障害者支援施設ではグループリーダー、児童養護施設では世話人や担当職員など――呼び名は異なっても、組織において“現場の要”となる人材です。

この中堅層に求められるのは、単に「後輩の面倒を見る」ことにとどまりません。上司(管理職)と現場の職員をつなぎ、さらに利用者・家族との関係を調整しながら、チームを機能させていく大切な役割があります。言い換えるなら、中堅リーダーは “現場を動かすハブ” なのです。

ところが、現実の中堅層はしばしば「板挟み」に悩みます。

  • 上からは「効率化」「記録徹底」「業務改善」といった要求が下りてくる。
  • 下からは「忙しい」「やり方が分からない」といった不満や戸惑いの声が上がる。
  • 利用者や家族からも、要望やクレームが途切れない。

「自分がどの立場を優先すべきか」「誰の声に応えるべきか」と迷う中で、疲弊してしまうリーダーも少なくありません。

このような状況で頼りになる視点が 「フォロワーシップ」 です。


2.フォロワーシップとは何か?

フォロワーシップという言葉を耳にしたとき、多くの人は「従う」「指示に従順である」というイメージを持つかもしれません。しかし、本来の意味は大きく異なります。

フォロワーシップとは、リーダーや組織の意図を理解し、自分の立場で主体的に支え、チームを機能させる力を指します。決して受け身ではなく、むしろ現場を前進させるために欠かせない主体的な行動です。

介護・福祉の現場においては、特に次の4つの要素が重要です。

  1. 理解する力
     上司や組織の方針を正しく理解し、専門用語や抽象的な表現を“現場の言葉”に翻訳して伝える。
  2. 支える力
     上司を補佐し、後輩や新人の不安を和らげ、現場の支援を安定させる。
  3. つなぐ力
     人間関係の潤滑油として、スタッフ同士の摩擦を減らし、利用者や家族の思いをチームに届ける。
  4. 改善する力
     「このままでいいのか」と問題意識を持ち、小さな改善を提案し実行する。

これらは単にリーダーシップの裏返しではありません。実は 「リーダーシップを支える基盤」 こそがフォロワーシップなのです。


3.中堅層にフォロワーシップが必要な理由

新人職員はまだ基礎技術を学ぶ段階、ベテランや管理職は全体の方針や外部対応に力を注ぎます。その間にいる中堅層は、現場と組織の両方に目を向けられる唯一の存在です。

たとえば、特養で「業務の効率化」を進めるとき。管理職が方針を示しても、現場の細かい作業の流れを把握しているのは中堅リーダーです。彼らが「新人でも実行可能なやり方に落とし込む」役を果たさなければ、改善は形だけで終わってしまいます。

また、障害者支援施設で支援方針を変更するときも同じです。ベテランの判断だけでは現場に定着せず、むしろ「やりにくい」という不満が出やすい。ここで中堅層が声を拾い、現実的な工夫を提案することで、方針が“生きた実践”になります。

さらに、児童養護施設では子どもたちの急な行動変化に職員が動揺することも多々あります。中堅リーダーが「まず落ち着いて受け止めよう」と現場を支えれば、若手も安心して行動でき、支援の質を守ることができます。

このように、中堅層が発揮するフォロワーシップは 現場の安定と成長の要 なのです。


4.フォロワーシップを実践する中堅リーダー像

現場に求められる中堅リーダー像は、単に「指示だしをする人」でも「雑務を一人で抱え込む人」でもありません。

  • 上司の考えを現場に分かりやすく伝える「パイプ役」
  • 後輩や新人に寄り添う「伴走役」
  • チーム内の摩擦をやわらげる「調整役」
  • 現場改善のアイデアを出す「提案役」

この4つの姿を意識することで、リーダーとしての存在感が自然と高まり、周囲からの信頼も深まります。


5.フォロワーシップがもたらす効果

中堅層がフォロワーシップを発揮すると、現場には以下の効果が生まれます。

  • 現場が安定する
     誰かが休んでも支援が滞らない仕組みができる。
  • 若手が育つ
     「安心して任せてもらえる」雰囲気が育ち、新人も挑戦しやすくなる。
  • 上司の負担が減る
     中堅層が情報を整理して伝えることで、管理職も現場を把握しやすくなる。
  • 利用者(または子どもたち)や家族によりよい支援が届く
     人間関係のストレスが減り、支援の質に集中できる。

つまり、フォロワーシップは 組織を前進させる“見えない推進力” なのです。


6.まとめと次回予告

今回のテーマは「フォロワーシップと中堅リーダーの役割」でした。

  • フォロワーシップは「支える力」「つなぐ力」「改善する力」を伴う主体的な行動。
  • 中堅リーダーは現場をつなぐハブであり、パイプ役・伴走役・調整役・提案役として力を発揮する。
  • それが現場の安定と人材育成、ひいては利用者への支援の質向上につながる。

次回は 「上司を支えるフォロワーシップ」 をテーマに、管理職を助けながら現場を回す具体的な立ち回りについて掘り下げます。

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