(筆者:ベラガイア17人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕:社会福祉士・ケアマネジャー)
前編では、虐待と不適切ケア・不適切支援の違いとつながりを確認し、自分の支援を振り返ることの大切さを見てきました。後編では、その気づきを個人の反省で終わらせず、どうすれば不適切支援を生みにくい職場にしていけるのかという点について確認し合っていきましょう。研修全体でも、後半は講義②「不適切支援を生まないために」と、ワーク②「事例で考える『チームで防ぐ不適切支援』」で構成されており、個人の工夫とチームの取り組みを結びつけて考える流れになっています。
講義②:不適切支援を生まないために
個人の取り組みと、チームの働きかけを重ねていく
講義②でまず大切にされているのは、不適切ケア・不適切支援を減らすためには、個人の意識だけでも、職場の仕組みだけでも足りません。本研修では、講義②・ワーク②の共通テーマを「個人の取り組み × チーム啓発でできること」に据えて、一人ひとりの気づきと、チームの基準づくりの両方が必要であることをお示ししていきたいと思います。
まず個人でできることとして挙げられているのが、感情や状態のセルフチェックです。「今日(いま)は焦った心理状態になっていないかなぁ?」「イライラしていないかなぁ?」と、ほんの1分でも業務の動きを止め、自分の内側と向き合ってみると、不適切ケア・不適切支援の予兆に気づくきっかけになります。現場では、利用者への関わり方だけが問題になるように見えますが、実際には、支援者自身の疲れや余裕のなさが、強い口調での声かけ(いわゆるスピーチロック)やそっけない対応(場合によってはネグレクトとなる)につながることが少なくありません。だからこそ、自分の心理状態に気づくことは、利用者理解と同じくらい大切です。
次に大切なのが、一呼吸おく習慣です。強い口調になりそうなとき、すぐに言葉を返すのではなく、いったん立ち止まる。深呼吸をして、少し間をとる。それだけでも、感情の勢いに任せた対応(これを反射といいます)を防ぎやすくなります。現場では、この「少し止まる」が難しいのですが、難しいからこそ、日頃から意識しておく意味があります。勢いのままに言ってしまった一言は、あとから消すことができません。だからこそ、落ち着きを取り戻すための小さな習慣が、支援の質を守ることにつながります。
さらに本講義では、高齢者・障がい者ともに利用者の背景を考えることを習慣にすることも重視しています。高齢者ケア:認知症による行動障害が著しくなるなかであっても、これまでの生活のなかに紐づいた手続き記憶が行動に現れることがあるということを意識してみると、目の前の行動の意味が見てくることもあります。障がい者支援:表面的な行動だけを見ると、「こだわりが強い」「なかなか動いてくれない」と感じる場面でも、障害特性や生活歴、これまでの経験を踏まえて見ると、行動の意味が違って見えてくることがあります。この視点があると、支援者は目の前の言動に振り回されにくくなり、強い指示や急かしが起こりにくくなります。また、うまくいかなかった支援だけでなく、うまくできた支援や関わりも振り返ることが示されている点も大切です。改善は失敗だけから学ぶのではなく、うまくいった実践を確かめることでも深まるからです。
ただし、個人の努力だけでは限界があります。そこで講義②の後半では、チームでできる取り組みを具体的にご紹介します。一つ目は、支援基準の見える化です。これは、声かけ、作業支援、休憩調整などについて、「どう関わるのがよい支援なのか」を行動レベルで共有し、新任職員でも迷いにくい形にしていく。支援の“当たり前”が職員ごとに違っていると、不適切支援は見えにくくなります。だからこそ、基準を言葉にして共有することが欠かせません。
次に2つ目、それはGood支援の共有(これ、おすすめ!)。申し送りの中で「今日のGood支援」を一つ紹介し、なぜよかったのかまで言葉にするという取り組みです。こうした積み重ねが、単なる個人の工夫を、チームの知恵に変えていきます。加えて、OJTや研修の中で、拒否やこだわりの背景、感情の変化などに気づける支援者を育てること、迷ったときに必ず相談できる体制をつくること、インシデントを責めるためではなく学ぶために扱うことも、大切な取り組みの工夫です。
さらに、3つ目。環境整備やミニケースレビューの考え方も重要です。作業動線、音や光などの刺激、集中しやすい場所の確保といった環境面の見直しは、利用者にとっての安心だけでなく、支援者にとっても落ち着いて関われる条件になります。また、月に一度でも短いケースを使って「なぜ起きたのか」「どう防げるか」を検討すれば、問題を個人責任で終わらせず、構造として捉える視点が育っていきます。ここで大切なのは、スタッフ個人の頑張りだけに頼らないことです。不適切ケア・不適切支援を防ぐには、無理なく続けられる職場の工夫が必要です。
講義②の結論としては、個人の気づきがチームの組織体制づくりとなり、チームの仕組みが個人をサポートするという相互関係が非常に重要だということです。良い実践が共有され、それが職場の当たり前になっていく。そうした積み重ねの中で、安心して支援できる職場づくりが進み、不適切ケア・不適切支援の起きにくい環境が育っていく――後編は、その道筋をとても分かりやすく示しています。 スタッフは気づいたことをそのままにせず、勇気を出して声に出し言語化する。「ここはもっと●●してくれると助かる!」「時々、メンタルヘルスに関するチェックリストで確認してもらいたい」など、自分が組織からどのようなサポートがあると、働きやすくなるのか(イライラして強い口調になるなどを抑止できるか)などを伝える。それに対応して、委員会が動き、チーム力をもっと強化する。相互関係により、スタッフ個人と組織が切磋琢磨し合う関係、それが重要です。
ワーク②:事例で考える「チームで防ぐ不適切支援」
個人の反省で終わらせず、改善策をチームの言葉にする
ワーク②では、現場の“あるある場面”をもとに、チームで不適切支援を防ぐ方法を考えます。ここで大切なのは、「誰が悪いか」を探すことではありません。まず、グループで不適切支援が生まれている、あるいは生まれそうな場面を一つ選びます。強い口調になりやすい場面、声かけが足りなくなる場面、意思確認が浅くなりやすい場面、忙しさから焦りが強まる場面など、日常の中で起こりやすい状況を取り上げる形です。
そのうえで、その場面で起きやすい不適切支援の要因を整理していきます。私が実際の研修場面で配付している資料では、要因を個人要因、環境要因、組織構造要因(ここが重要)に分けて考えるよう示しており、事例を用いてワークを行っています。焦りや疲れだけでなく、人手不足や支援マニュアルの不備、啓発不足、情報共有の不足など、さまざまな条件が重なることで不適切支援が起こりやすくなるからです。この整理をすると、「気をつけよう」だけでは防げないことが見えてきます。
そして最後に、チームでできる予防策を話し合います。Good支援の共有、申し送りの見直し、役割分担の工夫、声かけ基準のルール化、迷ったら相談する流れづくりなど、現場で続けられる方法を考えていくのです。ここでのポイントは、改善策を抽象的な理想論で終わらせず、「自分たちの職場なら何ができるか」という形に落とし込むことです。そうすることで、学びは個人の気づきにとどまらず、職場全体の変化につながりやすくなります。 ★
ワーク②の解説:不適切支援は、個人とチームの相互関係から防止するという考え方が重要です。まずはスタッフ個人が違和感に気づくこと、チームが基準(指針やマニュアル)を共有すること、組織がGood支援を仕組みとすることで良い雰囲気を構築すること。この三つが重なったとき、現場はより安全になり、利用者の安心にもつながっていきます。「(職員)Aさん、調子悪い?大丈夫?何か手伝えることがあったら、言ってね?」、こんなサポーティブな対話のなかで業務が展開される雰囲気が大事ですね。つまり後編のねらいは、個人の注意力を高めることだけではなく、気づき → 共有 → 改善 → 定着という学びの流れを、職場の文化として育てていくことにあるのです。
研修企画担当の皆さまへ(講師依頼について)
不適切ケア・不適切支援を防ぐ研修は、前編で「理解と振り返り」を行い、後編で「個人の取り組み」と「チームの仕組み」をつなげていくことで、現場に残りやすい学びになります。本研修では、支援者の感情や判断の背景に目を向けながら、職場としてどのような基準や相談体制、共有の方法を持てばよいかまで具体的に整理していきます。入所系、通所系、訪問系、障がい分野、高齢分野など、それぞれの現場に合わせて事例や言葉の置き方を調整しやすい内容です。不適切支援を「個人の問題」で終わらせず、チームで防ぐ課題として考えたい職場に、特に導入しやすい研修です。
著者(講師)クレジット
ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表 梅沢 佳裕
社会福祉士・介護支援専門員・アンガーマネジメントファシリテーター
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