(筆者:ベラガイア17人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕:社会福祉士・ケアマネジャー)
講義③:介護事業者のカスハラ防止と対処策――“5つのポイント”で考える
講義③では、対策を現場で実際に動ける手順として整理します。ポイントは5つです。
1)まず“線引き”を全員で共有する(定義が曖昧だと、判断が毎回ぶれる)
現場が一番困るのは、「これは苦情?カスハラ?」の判断が人によって変わることです。定義や基準が曖昧だと、対応が場当たりになり、結果として“火に油を注ぐ”になりやすい。
講義では、厚労省の定義や自治体(東京都カスハラ防止条例)の考え方を参照しつつ、「大声の苦情」と「静かな口調でも人格否定の暴言」など、“見た目の激しさ”ではなく“中身(迷惑性・就業環境への影響)”で見極める視点を確認します。
ここで対人援助職の皆さまにまず押さえて頂きたいのは、線引きは主観で決めず、共通の判断基準に当てはめて確認します。たとえば条例等では、次のような要件で整理されています。
- ① 顧客等からの言動であること(利用者本人だけでなく家族等も含む)
- ② 社会通念上許容される範囲を超えていること
- ③ 就業環境を害すること
このような物差しを共有しておくと、迷ったときに「感情で結論を出す」ことが減り、相談・判断がしやすくなります。
2)職員が“一人で抱え込まない”体制を作る(上司は判断役・保管者)
カスハラ対応は、現場の個人技に任せるほど危うくなります。上司・管理者には、「対応の判断役」であり「記録・証拠の保管者」でもあるという役割が求められます。
ここで大事なのは、職員が報告したときの最初の一言です。まず受け止める。「報告してくれてありがとう」と言えるかどうかで、現場の安心感が変わります。
さらに、運用の肝は“お願い(徹底されにくい)”ではなく“ルール(全員が徹底すべきこと)”として周知することです。
「何かあったら報告してね」ではなく、「まず上司(または窓口)へ報告でよい」と明文化する。これが萎縮や孤立を防ぎます。訪問系のように一人対応になりやすい現場ほど、早めに共有できる仕組みが、職員を守る安全網になります。
3)インシデントとして「記録・共有・報告」をルール化する(経験を“組織の知恵”にする)
カスハラ対応に、完全な正解はありません。だからこそ、事例を振り返り、シミュレーションして「次の判断」を育てます。
講義では、対応の失敗も成功も共有し、経験知に変える道筋を示します。
そしてここが実務的なポイントですが、記録は「事実」だけで終わらせません。相手の言動・状況、自分の言動に加えて、職員の主観的な感情も“感情記録”として書き残すという整理を入れています。
なぜ感情まで扱うのか。感情は“判断のブレ”の引き金になりやすいからです。イライラや怖さを言語化できると、「危ない兆候」を自分で早めに察知でき、無理をする前に相談しやすくなります。これは、職員のメンタルを守るためにも重要です。
4)契約時こそ丁寧に――方針・マニュアルを“言葉と書面”で明示する(予防の核)
クレームが起きてから自事業所のカスハラ指針について説明・同意を求めても、最初に伝えていないと「後出し」と受け取られやすい。だから、契約時・更新時に、事業所として“許容しない姿勢”を明文化し、説明・同意までをセットで行う――これが予防策の柱です。
具体的には、サービスの範囲・対応の限界を説明し、「対応できること/できないこと」を明確にする。不当要求に対する方針(暴言・威圧的言動は対応困難等)も、契約書や重要事項説明書等に記載し、必要に応じて掲示物で周知する。こうした準備があるだけで、抑止効果が生まれます。
講義ではこの部分を“きれい事”で終わらせず、現場が運用できる言い回し・示し方に落とし込みます。
そして、もう一つ大切なのが「断り方の表現方法」です。カスハラ対応で火種になりやすいのは、“NO”を出す場面です。
断るときは、いきなり理由を並べません。まず「ご不安なお気持ち、お察しします」など感情を受け止める一言で落ち着きをつくります。そのうえで「安全管理上/制度上」などの理由を短く示し、「代わりに、ここまでなら可能です」と代替案を添える。こうすると相手は“否定された”より“理解されたうえで説明された”と受け止めやすく、対立が深まりにくくなります。
逆に、「無理です」「できません」「決まりですから」と言葉を切ってしまうと、正しい内容でも相手の反発を強めやすい。ここは新任ほど、先に“型”として覚えておくと安心です。
5)外部連携ルートを先に用意する(深刻事案はためらわず相談できる設計に)
深刻な暴言・暴行・脅迫などは、内部だけで抱えない姿勢が必要です。警察・弁護士等への相談も含め、外部との連携ルートをあらかじめ用意しておくことも大事です。
加えて、地域包括支援センターや自治体の相談窓口とつながっておくことは、困難ケースの伴走支援を得やすくし、現場負担の分散にもつながります。
ここまで準備して初めて、カスハラ対処の場面では、利用者や家族と修復的な関係づくりを望むことは前提としてありますが、「職員を守る」対応に意識を切り替えることも必要なのです。
ワーク:カスハラ対応を“自分事”にする(答え探しではなく、判断の軸づくり)
本研修ではワークも取り入れています。現場で起きうる場面を、自分の感情も含めて想像し、線引き・伝え方・持ち帰り方を言語化する機会は、実務者間でのさまざまな視点づくりに非常に効果的です。
目的は、事例を自分の現場に置き換えながら、適切な対応を考えること。経験年数に関係なく、一人ひとりの視点がヒントになる――という前提で進行します。
さらに、進め方も「個人で1分→グループでディスカッション→全体共有」という流れで、いきなり人前で答えさせる形にしない設計です。安心して参加できるように、正解・不正解はないことも明示します。
このワークで得たいのは、模範解答ではありません。
- どこで線を引くか(物差しで確認する)
- その場で何を伝えるか(理由+代替案の型を使う)
- 誰に、どの段階でつなぐか(抱え込まない)
- 何をどう記録として残すか(事実+必要に応じて感情も)
こうしたポイントを、チームの言葉で共有することです。共有できれば、現場の判断が安定し、職員が孤立しにくくなります。
介護・福祉支援におけるカスハラ対処に必要なことは、線引きの物差し、断り方の型、報告・記録・相談の仕組み。これらを職場として用意し、日常運用に落とし込むことが、カスハラを“起こりにくくする”いちばん確かな道になります。
研修企画担当の皆さまへ(講師依頼のご相談について)
カスハラ対策は、「指針を作りましたので見ておいて下さい!」で各人に丸投げしてしまうと、現場がかえって苦しくなります。なぜなら、最初に必要なのは“知識”よりも、実際の現場に紐付けた判断の基準と、組織としての支え方だからです。 (出典:【研修資料】適切な判断と対応が成否を分ける カスハラ対処と防止策)
本研修では、現場職員が明日から安心して動けるように、
- 迷ったときに立ち返れる線引き
- 一人に背負わせない報告ルート
- 記録と振り返りの運用
- 契約時からの予防策
までを、現場実装の目線で具体化していきます。
施設種別(高齢分野/障害分野)や、貴法人の現状(委員会・指針・窓口の有無)に合わせて内容調整も可能です。
ご相談は、ホームページの「お問い合わせ」からお気軽にどうぞ。
著者クレジット
ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表 梅沢 佳裕
社会福祉士・介護支援専門員・アンガーマネジメントファシリテーターなど
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