監修・執筆:梅沢佳裕(社会福祉士・研修講師)
介護の現場では、「怒り」というより、焦り・葛藤・迷い・不安・イライラ感情が積み重なっていきます。
そして厄介なのは、感情そのものよりも、頭の中で出来事が何度も再生され、次の支援や人間関係に影響しやすいことです。
そこで今回は、イライラ感情を“押し込める”のではなく、言語化(文字にする)ことで整理し、支援の判断を安定させる方法をまとめます。
ここで扱うのは、仕事の「公式の介護記録」ではありません。自分のための短いメモです。長文は不要、1回3分程度で終わる方法にします。
この記事で得られること
・5W1H+感情温度で、イライラ感情を短時間で言語化できる
・書くことで、反応が起きやすいパターンが見える
・個人で抱えず、チームに活かせる匿名共有のやり方が分かる
イライラ感情が残りやすい“仕組み”を先に知る
イライラ感情が長引くとき、よくあるのは次の状態です。
・頭の中で出来事が再生され続ける(反芻)
・「相手が悪い/自分が悪い」の評価が先に立つ
・次の対応が決まらず、未処理のまま残る
この状態を抜けるコツは、いきなり反省や正解探しに行かず、まず 事実と言葉 に落とすこと。
感情は消せなくても、言語化すると輪郭が出て、扱いやすくなります。
H3:大切な前提(自分を責めない)
・これは「自分を責める」ためではなく、自分を守るための方法です
・評価より先に、観察を置きます(“正しい/間違い”は後でOK)
基本の型:5W1H+感情温度(最短3分)
この型だけで十分です。
ポイントは「短く」「同じ順番で」「最後に次にやること(1つ)を決める」こと。
【型】5W1H+感情温度(最小版)
・When(いつ):
・Where(どこで):
・Who(誰と/誰が):
・What(何が起きた:言葉・動作・状況):
・How(自分はどう対応した:言葉・動作):
・Why(背景:推測は控えめに“状況”として):
・感情温度(0〜10):
・次にやること(1つ):
※Whyは推測になりやすいので、慣れるまでは「状況(人手不足、時間圧、説明不足など)」程度でOKです。
感情温度(0〜10)の目安
0:気にならない
3:少し引っかかるが対応できる
5:口調が硬くなりやすい
7:判断が雑になりやすい/言い返しそう
9:爆発寸前(交代・中断・支援要請の検討レベル)
温度を付ける意味は、感情を否定することではありません。
「どの温度帯で、何が起きやすいか」を把握して、早めに工夫するためです。
そのまま使える「言語化テンプレ」3種類
場面に合わせて使い分けると、整理が早くなります。
(どれも最後は 次にやることは1つだけ)
テンプレ①:3分で終える最小テンプレ
・事実(何が起きた):
・自分の反応(言葉/動作):
・感情温度(0〜10):
・次にやること(1つ):
テンプレ②:パターンが見えるテンプレ(引き金→反応→結果)
・引き金(トリガー):
・反応(自分の言葉/動作/頭に浮かんだこと):
・結果(相手・場・支援に起きたこと):
・感情温度(0〜10):
・次にやること(1つ):
テンプレ③:言い換えを作るテンプレ(次の一言を準備)
・言ってしまった(言いそうになった)一言:
・本当は伝えたかったこと:
・言い換え案(短く1文で):
・感情温度(0〜10):
・次にやること(1つ):
書くことで見える「イライラ感情のパターン」3つ
続けると、“相手のせい”で片付けにくい共通点が見えてきます。
現場で特に多いのはこの3つです。
パターン1:時間圧(人手不足・遅れ・予定崩れ)
・次の対応が詰まっている
・安全確認や説明が短くなる
・「急がせる/急かされる」が摩擦になる
→ 我慢より、先に枠を伝える(例:残り時間、選択肢、区切り)
パターン2:こだわり・不安の強さ(説明不足・誤解・選択肢不足)
・本人の不安が高い/こだわりが強い
・こちらの説明が不足している
・選択肢がないと“押しつけ”に感じられやすい
→ 短い説明+選択肢(A/B)+次の見通し
H3:パターン3:期待のズレ(理想と現実/方針の揺れ)
・「こうすべき」が強いほど反応が出やすい
・疲労が溜まると温度が上がりやすい
・チームの方針が揺れると迷いが増える
→ 判断基準の共有と、「やることを1つ」に絞る
「次にやること」を決めるコツ(増やさず1つだけ)
言語化の最後は必ず 次にやること(1つ) にします。
理由は簡単で、対策を増やすほど実行できず、自己否定が増えるからです。
次にやること(例)
・時間が押しているときは、最初に「残り時間」と「選択肢」を伝える
・温度が7以上になったら、交代依頼や応援要請を検討する
・説明が必要な場面は「結論→理由→次」を短く言う
・希望が強いときは「今日はここまで/次はこうする」を先に確認する
チームに活かす「匿名共有」のやり方(守秘義務に配慮)
イライラ感情は、個人の気質だけで起きるものではありません。
現場の条件(人員、導線、手順、説明、連携)で起きやすくなることも多いので、チームの学びに変えられます。
ただし大前提は、個人攻撃を起こさないこと。目的は 犯人探しではなく再発予防 です。
匿名化のルール(必ず外す)
・氏名(利用者・家族・職員)
・施設名、ユニット名、特徴が強い固有情報
・日時が特定できる情報
・病名など、個人が推測される情報(必要なら“症状”として一般化)
共有フォーマット(短いほど安全)
・状況(事実):
・困り(何が難しかった):
・次にやること(案でも可):
・感情温度(0〜10):
※「誰が悪い」ではなく、「何が起きやすい条件か」「次に何を変えるか」に焦点を当てます。
文例:現場でよくある3場面(5W1H+感情温度)
※個人情報は架空です。共有する場合は必ず匿名化してください。
文例1:入浴場面(時間圧)
・When:午前の入浴介助の終盤
・Where:浴室
・Who:利用者/職員
・What:本人が「まだ温まっていない」と強い口調
・How:こちらが「時間がない」と語気が強くなった
・Why:次の対応が詰まっていた(時間圧)
・感情温度:8
・次にやること:最初に「残り時間」と「選択肢(あと2分/今日はここまで)」を伝える
文例2:排せつ・更衣(拒否が続く)
・When:夕方帯
・Where:居室
・What:拒否が続き、声かけが増えた
・How:説得しようとして説明が長くなった
・Why:焦り(時間圧)+方針が曖昧だった
・感情温度:7
・次にやること:「今はA/Bどちらが良いですか?」と短い選択肢を提示する
文例3:家族対応(不安が強い)
・When:夕方の電話
・Where:事務所
・What:「説明が短く不安」と語気が強い
・How:別対応中で早口になり、受け止めが薄くなった
・Why:同時対応で余裕がなかった
・感情温度:6
・次にやること:「いま分かっていること/確認中/折り返し時間」を3点で短く伝える
そのまま使えるチェックリスト(1分)
言語化する前
□ これは公式の介護記録ではなく、自分用メモとして書く
□ まず事実(言葉・動作・状況)から書く
言語化した後
□ 感情温度(0〜10)を付けた
□ 次にやること(1つ)を書いた
□ 自分を責める文になっていない(観察になっている)
共有するなら
□ 匿名化できている
□ 目的が“再発予防”になっている
□ 共有範囲(誰まで)が決まっている
よくある質問(Q&A)
Q1:書くと逆にイライラ感情が増幅しませんか?
A:イライラ感情がかえって増幅するときは「長く書きすぎ」「評価・正しさ探しに寄りすぎ」が多いです。3分で止め、5W1H+感情温度+次にやること1つで終えると整理しやすくなります。
Q2:忙しくて毎回できません。
A:毎回でなくて大丈夫です。まずは温度が高かった日(目安7以上)だけ、最小テンプレで十分です。
Q3:チーム共有が怖い(責められそう)。
A:共有の前に「目的=再発予防」「個人攻撃しない」「短いフォーマット」の3点をルール化してください。まずは“案出し”から始めるのが安全です。
Q4:言語化メモはどこに残すのが良いですか?
A:個人情報を入れないことが最優先です。スマホメモを使うなら端末ロック等の管理を徹底し、施設のルールに従ってください。心配なら紙に短く書いて処分する方法もあります。
まとめ
介護の現場で起きるイライラ感情は、我慢だけでは減りません。
言語化して整理すると、頭の中の未処理が減り、支援の判断が安定しやすくなります。
今日からの最初の一歩はこれだけ。
1回3分、5W1H+感情温度で短く言語化し、最後に次にやることを1つ書いて終える。
さらに可能なら、匿名化した形で共有し、チームの再発予防につなげる。
“自分を責めるため”ではなく、“自分と支援を守るため”に使っていきましょう。
(筆:ベラガイア17人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕―社会福祉士・ケアマネ・介護講師)
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