【フォロワーシップ】第8回:〈完全解説〉施設長不在時のフォロワーシップ|代行業務・緊急時に現場を動かす要の役割

7.介護リーダーのスキルアップ

執筆:ベラガイア17人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕(社会福祉士・ケアマネ・研修講師)

施設長や管理者が不在のとき、現場で起こりやすいのは「仕事量が増えること」よりも、判断が遅れること指示がバラつくこと職員の不安が広がることです。
高齢者介護施設・障害者福祉施設では、転倒・急変・誤薬・感染対応など、その場での判断が必要な出来事が日常的に起こります。

このとき「誰が何を決めるのか」が曖昧だと、対応が後手に回り、利用者の安全や職員の安心に影響が出てしまいます。そこで重要になるのが、施設長(リーダー)不在時に発揮するフォロワーシップです。
ここでいうフォロワーシップは、強く指示を出して仕切ることではありません。安全を優先し、状況を整理し、必要な連絡と連携をつなぐ力。それが、中堅・リーダー層に求められる「要の役割」です。


施設長不在時に現場が混乱しやすい理由とは?

施設長不在が問題になるのは、「不在そのもの」ではなく、現場の意思決定や連携の仕組みが個人依存になっているときです。ふだんは施設長が“ハブ”になって回っている現場ほど、不在時に揺れが出やすい傾向があります。

判断が止まると、対応が遅れる

緊急時に必要なのは、完璧な判断よりも「まず安全を確保し、次に確認を進める」段取りです。しかし不在時は、

  • 「施設長に聞かないと決められない」
  • 「責任を取りたくない」
    という心理が働き、判断が先送りされがちです。
    結果として、対応が遅れ、利用者の状態悪化や事故拡大につながるリスクが高まります。“判断を止めない仕組み”が現場にあるかどうかが、分かれ目になります。

「誰が決めるか」が曖昧になる

もう一つは、指揮命令系統(ライン)が曖昧になることです。
施設長不在時に、主任・リーダー・当直責任者・看護リーダーなどがそれぞれ善意で動くほど、現場が多重指示になりやすくなります。
ここで必要なのは、役職の強さではなく、役割の明確化です。
「この場面は誰が初動を決める/誰が家族連絡をする/誰が記録をまとめる」――この分担が曖昧だと、現場は迷います。


施設長不在時のフォロワーシップとは?

施設長不在時のフォロワーシップは、「代わりに偉くなること」ではありません。むしろ、現場が迷わないように、判断と連携の筋道を整える役割です。

代行とは「権限を持つこと」ではない

代行という言葉は誤解されやすいのですが、現場で求められるのは「何でも決める権限」ではありません。
大切なのは、決めるべきこと/確認すべきこと/上位決裁が必要なことを分けることです。
たとえば、転倒後に「受診が必要かどうか」の判断は、看護職のアセスメント(観察と判断)が中心になります。一方、「受診時の付き添い体制」「家族への説明の段取り」「事故報告の整理」は、リーダーが整えるべき領域です。
つまり代行とは、権限を振るうのではなく、現場の判断が通る環境をつくることです。

現場を止めないための支援的役割

中堅・リーダー層が果たすべき役割は、次の三つに整理できます。いずれも箇条書きにせず、意味が伝わるように説明します。

  • 安全を優先する:まず利用者の安全を確保し、事故や急変が広がらないように行動を決めます。
  • 状況を整理する:事実を時系列でまとめ、職員間で共通理解をつくります。感情や推測を混ぜず「何が起きたか」に立ち返ることがポイントです。
  • 連絡と連携をつなぐ:誰に、何を、いつ伝えるかを決め、家族・関係機関・上位者への連絡を滞りなく進めます。

この三つを押さえるだけで、不在時でも現場は落ち着きやすくなります。


代行業務でまず押さえる優先順位

不在時は、やることが多く見えて焦りが出ます。だからこそ、優先順位を「安全→継続→記録・報告」の順に固定しておくと迷いません。

第一優先は安全確保

安全確保とは、単に「見守りを増やす」ことではありません。

  • 事故が起きた場所や状況を確認し、同様の危険が続かないように環境を整える
  • 利用者の状態(意識、呼吸、疼痛、出血、麻痺の有無など)を観察し、必要なら医療につなぐ
  • 同時に、周囲の利用者にも影響が出ていないか確認する
    こうした一連の流れです。特に高齢者施設では、転倒後に遅れて症状が出ることもあります。障害者支援では、痛みの訴えが表出しにくい利用者もいます。「いつも通り」に見えても観察を省かないことが重要です。

次にサービスの継続

安全確保の次は、ケアや支援の提供を止めない段取りです。
たとえば、受診の付き添いが出ると、フロアの人員が薄くなります。ここで、

  • 入浴の順番変更や中止
  • レクリエーションの縮小
  • 見守り重点者の配置見直し
    など、「サービスを守るための現実的な調整」が必要です。これは質を下げるのではなく、事故を増やさないための調整です。中堅職の判断が現場を支えます。

最後に記録と報告の整理

記録・報告は後回しにされがちですが、ここが曖昧だと、事故後の対応や家族説明がぶれます。
大切なのは、評価より事実です。
「誰が悪い」ではなく、

  • いつ、どこで、誰が、何をしていたときに
  • 利用者がどうなり
  • 直後に何をしたか
    を時系列で整える。これが、事故報告(インシデント・アクシデント報告)や再発防止の土台になります。

緊急時に現場を動かす具体的な動き方

ここでは「中堅・リーダー層が何をするか」を、実際の場面を想定しながら整理します。

まず安全を確認する

緊急時の第一声は、指示よりも安全確認です。
「今、危険が続いていないか」
「利用者の状態はどうか」
「誰が観察を続けるか」
この3点を押さえると、現場は落ち着きます。
介護職・支援員が観察を開始し、看護職が評価し、必要時に救急要請や受診判断につなぐ。リーダーは、その動きが途切れないように配置と役割を決めます。

事実を簡潔に共有する

共有のポイントは、長く話さないことです。
「状況(いつ・どこで)→行動(何が起きた)→影響(利用者の状態とリスク)」の順で、短く伝えると誤解が減ります。
例:
「17時、食堂前で転倒。立ち上がり時にふらつき。右膝を打撲、意識清明。歩行は介助で可。疼痛の訴えあり、看護が観察中」
このように、感情を入れず事実を並べることで、職員間の判断がそろいます。

必要な連絡を順番に行う

連絡は「早いほど良い」だけではなく、順番が重要です。
基本は、

  1. 状態確認と対応方針の整理(看護評価・受診要否など)
  2. 上位者(管理者・施設長・当直責任者)への報告
  3. 家族連絡(事実→現状→今後の見通し)
  4. 関係機関(主治医、訪問看護、相談支援、ケアマネ等)
    です。
    家族連絡では、まず「心配をかけたことへの配慮」を伝え、そのうえで事実を説明し、次の連絡時間を約束すると不安が落ち着きます。

よくある場面別|そのまま使える対応文例

ここは現場でそのまま使える形を意識しつつ、文例の意図も添えます。

転倒・急変時の報告文例(上位者)

「○時○分、○○で転倒。意識は清明、出血なし。右膝の痛み訴えあり。看護が観察し、受診要否を判断中。フロアは見守りを増やして対応しています。次の更新は○時に報告します」
※ポイント:現状・対応・次の報告時刻を入れると、上位者は判断しやすくなります。

苦情・クレーム時の第一声(家族)

「ご不安なお気持ちにさせてしまい申し訳ありません。まず、いま分かっている事実を整理してお伝えします。そのうえで確認が必要な点は、本日○時までに必ず折り返します」
※ポイント:受容→事実→期限の順で、感情のもつれを減らします。

職員間で判断が割れたときの切り返し

「目的は安全に支援を続けることですよね。いま論点は“受診が必要か”と“体制が組めるか”の2点に見えます。まず看護評価を確認し、体制は私が調整します」
※ポイント:対立を“論点整理”に変えると、チームが動きます。


そのまま使えるチェックリスト(※重要)

不在時に迷いやすい点を、確認項目として整理します。各項目に説明も付けます。

不在時の安全確認チェック

  • 利用者の状態は観察されているか(意識・呼吸・疼痛・外傷など)
    → まず身体状況の把握が最優先です。
  • 同様の危険が続く環境になっていないか(床、動線、福祉用具)
    → 再転倒・再事故を防ぐ視点です。
  • 見守りの担当者が決まっているか
    → “誰かが見ているはず”をなくします。

連携・報告チェック

  • 上位者に「現状・対応・次の報告時刻」を伝えたか
    → 上位者の判断が遅れません。
  • 家族への説明は「事実→現状→見通し」になっているか
    → 不安が増幅しにくくなります。
  • 関係職種(看護・相談・ケアマネ等)に共有できたか
    → 支援の方向性がそろいます。

引き継ぎチェック

  • 未対応事項(確認中のこと)は何か
    → “抜け”を防ぐ要点です。
  • 判断待ち事項(上位判断が必要なこと)は何か
    → 代行範囲を超えないための線引きです。
  • 記録に残すべき事実が整理できているか
    → 事故報告・再発防止の基盤になります。

現場でよくある質問(Q&A)

どこまで判断してよいのか?

原則は「安全確保と、事実整理と、連携の段取り」は現場で進めます。一方、受診の最終判断や、重要な対外説明の方針などは、上位者や看護判断とセットで行うのが安全です。迷ったら、“判断を止める”のではなく、“確認しながら進める”ことが大切です。

施設長に連絡が取れない場合は?

まずは施設内のルール(当直責任者、緊急連絡網)に沿って、代替の上位者へ報告します。同時に、現場は安全確保と見守り体制を強化し、状況を時系列で整理します。連絡が取れないこと自体が不安を増やすため、報告先を切り替えて現場が止まらないようにするのが基本です。

判断が分かれたときの対応は?

意見が割れるときは、職種によって「大事にしている視点」が違うことが多いです。対立のまま進めず、
「目的は何か(安全・継続・尊厳)」
「論点は何か(受診要否/体制/説明)」
を整理して共有します。そのうえで、看護評価や主治医意見など、判断材料を集めて合意形成すると、現場は落ち着きます。


施設長が不在でも、現場は止めない。
そのために必要なのは、誰かが強く仕切ることではなく、安全を優先し、状況を整理し、連携をつなぐフォロワーシップです。中堅・リーダー層のこの役割は、日常の支援を守る「要」になります。


(執筆:ベラガイア17人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕:社会福祉士・研修講師

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