【身体拘束適正化】第4回:代替ケアと工夫 ― 拘束をしないケアの実践例
監修・執筆:梅沢佳裕(社会福祉士・介護支援専門員・研修講師)
身体拘束は、介護・障がい福祉の現場において、利用者の自由と尊厳を大きく制限する行為です。介護保険制度の運営基準では身体拘束は原則として行わないことが基本とされ、やむを得ない場合の判断は慎重に行う必要があります。
とはいえ現場では、転倒や自己抜去、不穏や徘徊など「このままでは危ない」と感じる場面が起こります。そこで職員が迷いやすいのが、「拘束をしないと安全が守れないのではないか」という不安です。
この不安を、専門職として“現実的に”解消していく鍵が、代替ケアです。
代替ケアとは、身体拘束の代わりに、環境・関わり・見守り・チーム体制を工夫して、安全と尊厳を両立させる取り組みのことです。特別な道具や魔法の方法があるわけではありません。むしろ、小さな工夫を積み重ね、チームで再現できる形に整えることで、現場の支援は確実に変わっていきます。
本記事では、現場でそのまま使える代替ケアの考え方と実践例を、場面別にわかりやすく整理します。
身体拘束をしないケアが求められる理由とは?
身体拘束は「転倒防止」「事故防止」のために選択されがちですが、実際には、利用者の心身に負担を与えたり、動ける力を低下させたりして、結果として別のリスクを増やすことがあります。さらに、拘束に頼るほど、現場の観察や工夫の力が育ちにくくなるという側面もあります。
身体拘束をしないケアが求められる理由は、次の3点に集約できます。
- 利用者の尊厳と安心を守るため
- “安全の質”を上げるため(別の事故リスクを増やさない)
- 職員の専門性とチーム力を高めるため
代替ケアは、理想論ではなく、事故を減らし、現場を安定させる実務の技術です。
代替ケアとは何か?基本の考え方
代替ケアは「拘束しないこと」自体が目的ではありません。目的は、拘束に頼らずに安全を確保できる状態をつくることです。
そのために大切なのは、行動を止める前に「なぜその行動が起きているのか」を丁寧に見る視点です。
現場で役に立つ“代替ケアの基本姿勢”は次のとおりです。
- 行動の背景を探る(痛み、排泄、不安、環境の不快、見通しのなさ)
- 危険の原因を減らす(環境調整、動線、照明、物品配置)
- 安心を増やす(説明、声かけ、関係性、予定の見える化)
- 一時的に見守りを厚くする(チームで短時間集中)
- うまくいった工夫を“再現できる形”にする(記録・共有)
「非代替性(ほかの手段がない)」を検討する前に、代替ケアをどこまで深められるかが、専門職の腕の見せどころになります。
現場ですぐ使える代替ケアの実践例【場面別】
ここからは、よくある場面ごとに「現場で使える工夫」を具体的に紹介します。
大切なのは、1つだけで解決しようとしないことです。複数の工夫を組み合わせると、拘束の必要性は大きく下がります。
1)転倒リスクが高い利用者への代替ケア
転倒リスクへの対応は「立たせない」ではなく、安全に動ける条件を整えることが基本です。
よく使える工夫(例)
- ベッドの高さを調整し、足が床につきやすい環境にする
- 夜間照明を整え、暗さや眩しさで不安を強めない
- ベッド周囲の導線を片付け、つまずき要因を減らす
- 靴・履物の見直し(滑りやすさ、サイズ不適合)
- 定時巡視・声かけで「ひとりで動かなくていい」安心を増やす
観察ポイント(短く)
「いつ」「どこで」「何を目的に」動こうとしているかを押さえると、対策がピンポイントになります。トイレ、痛み、眠れない不安など、理由が見えるとケアが変わります。
2)点滴・チューブの自己抜去が心配な利用者への代替ケア
自己抜去は、混乱や不安、違和感が引き金になることが多く、抑え込むよりも“原因を減らす”方が効果的です。
よく使える工夫(例)
- 固定方法を見直す(皮膚トラブルや痛みがないか確認)
- 目に入る刺激を減らす(衣類やカバーで視界から外す)
- 「何のための管か」を短い言葉で繰り返し説明する
- 不安が強い時間帯だけ見守りを厚くする(短時間集中)
- 体位や姿勢を整え、違和感を軽減する
大事な視点
「抜く行為」を悪い行動として止める前に、本人の違和感・不安・痛みに寄り添うことが、結果的に安全につながります。
3)不穏・徘徊がある利用者への代替ケア
徘徊という言葉でまとめると「止める」方向に流れやすいのですが、実際には、本人の中に“目的”や“困りごと”があることが少なくありません。
よく使える工夫(例)
- 痛み、便秘、尿意、眠れなさ、寒さなど身体要因を確認する
- 予定や見通しを示し、不安を減らす(短い説明で十分)
- 日中の活動量と休息を整え、夜間の覚醒を減らす
- 「止める」より「付き添い・見守り」で安全を確保する
- 落ち着く場所、安心できる関わり方をチームで共有する
ポイント
行動を抑えるほど興奮が強まり、危険が増えることもあります。安全を守るために、まずは“背景の困りごと”を見つけにいく姿勢が大切です。
4)車椅子・ベッド上で姿勢が崩れる利用者への代替ケア
姿勢保持を目的にベルトや抑制具に頼る前に、身体に合った姿勢を作る工夫を優先します。
よく使える工夫(例)
- クッションやタオルで骨盤・体幹が安定する位置を作る
- 座面・背もたれの調整(座位のずれを減らす)
- 長時間同一姿勢を避け、短い間隔で体位調整をする
- 疲労や痛みを観察し、休息の取り方を見直す
注意点
「支えるための用具」でも、使用方法や目的が不適切だと身体拘束と見なされる可能性があります。目的と方法をチームで確認し、記録しておくことが安全です。
5)夜間・少人数体制での代替ケア
夜間帯は不安・覚醒・排泄で動きが増えやすく、拘束に頼りたくなる時間帯です。ここは“事前の仕込み”が効きます。
よく使える工夫(例)
- 夕方までに排泄・水分・疼痛コントロールを整える
- 寝る前の安心支援(短い声かけ、室温、照明)
- 危険が高い人を事前に共有し、巡視の優先順位を揃える
- 一時的な応援要請のルールを作る(迷わない仕組み)
ポイント
「夜勤が少ないから」という事情は、代替策を考える理由にはなっても、拘束の根拠にはなりません。少人数でもできる工夫を“型”にしていくことが大切です。
代替ケアを定着させるコツ(専門性は“チーム化”で育つ)
代替ケアが続かない現場では、工夫が個人の頑張りで止まっていることが多いです。
代替ケアは、次の3点でチーム化すると安定します。
- うまくいった工夫を短く記録し、申し送りで共有する
- 「この場面ではこれを試す」という共通手順を作る
- 検討と振り返りの時間を短くても定期的に持つ
“誰がやっても同じ水準でできる”状態に近づくほど、拘束に頼らない現場へ変わっていきます。
そのまま使える【代替ケア検討チェックリスト】
身体拘束を検討する前に、次の項目を確認してください(チームで使うのがおすすめです)。
- 危険の内容は具体的に説明できるか(いつ・どこで・何が起きそうか)
- 痛み、排泄、眠れなさ、不安など身体要因を確認したか
- 環境調整(照明、動線、配置、ベッド高さ)を行ったか
- 声かけや説明で安心を増やす工夫をしたか
- 見守りを一時的に厚くする案を検討したか
- 姿勢調整・ポジショニングで負担を減らしたか
- チームで検討し、対応を共有したか
- 実施した工夫と反応を記録できているか
チェックが増えるほど、現場の判断が揃い、運営指導の場面でも説明しやすくなります。
現場でよくある質問(Q&A)
Q1:代替ケアをしても事故が起きたら、責任は問われますか?
A:代替ケアは「事故ゼロ」を保証するものではありません。重要なのは、危険を評価し、代替策を検討・実施し、記録し、チームで改善していることです。取り組みのプロセスが整っている現場は、支援の質が高まり、結果として事故も減りやすくなります。
Q2:夜勤が1人でも、代替ケアは必要ですか?
A:必要です。少人数体制でもできる工夫を事前に準備し、優先順位を揃え、応援ルールを作るなど、仕組みで支えます。個人の根性論にせず、チームで整える視点が重要です。
Q3:家族から「縛ってでも安全に」と求められたら?
A:安全を願う気持ちは受け止めつつ、身体拘束の影響と、代替ケアで安全を確保する方針を丁寧に説明します。家族の不安を軽減する関わりも、代替ケアの一部です。
小まとめ:代替ケアは“介護職の専門性”そのもの
代替ケアは手間が増えるように見えて、実は、
観察が深まり、事故が減り、現場が落ち着く方向へつながります。
そして何より、利用者の尊厳を守りながら安全を確保することは、介護・福祉専門職の核となる実践です。
今日からできる一歩として、まずは「背景の困りごとを探す」「環境を整える」「短時間の見守りを厚くする」など、どれか1つをチームで試してみてください。小さな成功が積み重なるほど、身体拘束に頼らない現場は現実になります。
▼身体拘束適正化シリーズ(あわせて読みたい)
・第1回:身体拘束とは何か ― 定義と法的根拠を理解する
・第2回:身体拘束のリスク ― 利用者と職員に及ぶ影響
・第3回:3要件の理解と適用 ― やむを得ない場合の基準
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