これまでの連載では、自然災害への備えとなる業務継続計画、感染症が発生した際の対応計画、科学的介護推進体制、生産性向上推進体制加算、栄養ケア・口腔衛生管理体制、高齢者虐待防止体制など、特別養護老人ホームや介護老人保健施設を中心に、多くのテーマを扱ってきました。
どのテーマも重要で、「制度ごとに別々に対応しなければならない」と感じる方も多いと思います。しかし、実務の現場でつまずいているポイントをよく見ていくと、実は 共通する“つまずき方” がいくつかあることが分かります。
その代表的なものが、次の三つです。
- 委員会が「開催すること」が目的になり、改善サイクルが回らない
- 記録が「残すための書類」になり、現場の判断に生かされない
- 科学的介護情報システム(LIFE)の提出が「作業」で終わり、分析と改善につながらない
ここが整理されないまま、個々の加算の対応だけを追いかけてしまうと、「忙しいのに成果が見えない」「書類は増えるが、現場が楽にならない」という感覚が強くなります。
まずは、この三つの共通課題を、実務に即して少し丁寧に見ていきましょう。
● 委員会が“話し合いで終わる”問題
多くの施設では、事故防止委員会、感染症対策委員会、栄養と口腔衛生の委員会、科学的介護推進体制に関する委員会などを運営しています。
しかし、
「件数の報告と現状の共有だけで終わってしまう」
「資料説明で時間がなくなり、次に何をするかが決まらない」
という声をよく聞きます。
本来、委員会は
“何が課題かを明らかにし、次に何を変すかを決める場”
であるはずですが、現実には「情報の一方向の流れ」で止まってしまいがちです。
● 記録が“証拠保管庫”になってしまう問題
介護記録、看護記録、栄養記録、口腔衛生記録、事故報告書、ヒヤリハット報告書など、現場には多くの記録があります。
ところが、現場の職員からは
「どの記録が、どの加算と関係しているのか分かりにくい」
「書いた記録が、次の支援や改善にどうつながっているのか見えない」
という感覚も聞かれます。
記録が「監査のための保管庫」のようになってしまうと、書く側の納得感も低くなり、結果として記載の質も下がっていきます。
● 科学的介護情報システム(LIFE)が“提出作業”で止まってしまう問題
科学的介護推進体制加算の算定に向けて、科学的介護情報システム(LIFE)を導入する施設も増えています。
しかし、
「提出は何とかしているが、フィードバック結果を活用しきれていない」
「LIFEの画面を見るのが一部の職員に限られてしまう」
という状態にとどまっている事業所も少なくありません。
本来、LIFEは
「利用者の状態を見える化し、ケアを改善していくための共通ツール」
です。提出して終わりではなく、委員会やカンファレンスで結果を共有し、「次の一歩」を決めるためにこそ存在しています。
2.月次運用の“骨格”を整えると、加算もケアも安定する
ここからは、実際に施設で使えるレベルに落とし込んで、「委員会・記録・LIFEをどうつなげるか」を整理していきます。ポイントは、難しい仕組みよりも、月に一度の“決まった流れ”を作ることです。
● ステップ① 月に一度、「ハブになる会議」を決める
すべての委員会を増やす必要はありません。まずは月に一度、
「情報を束ねる会議(ハブになる会議)」
を一つ決めます。
名称は、例えば次のようなものが考えられます。
- 科学的介護推進体制と業務改善に関する合同会議
- 介護サービスの質向上と加算運用に関する会議
ここに、管理者、介護リーダー、看護職、管理栄養士、機能訓練に関わる職員、生活相談員など、コアメンバーが集まります。時間は30分〜60分で構いません。
この会議で行うことは、シンプルに三つだけです。
- 先月の出来事・データの共有
事故件数、ヒヤリハット、LIFEのフィードバック、栄養や体重の変化など。 - 見えてきた課題と「変えたいこと」の整理
例:夜間の転倒、食事摂取量の低下、記録にかかる時間など。 - 「誰が・何を・いつまでに変えるか」を決める
ここまで決めて、会議録に残します。
これだけでも、「何となく話して終わる委員会」から一歩進んだ形になります。
● ステップ② 記録に「今月の重点ポイント」を反映させる
次に大切なのは、「会議で決めたことが記録に落ちているか」を毎月確認することです。
例えば、
「夜間の転倒が多いので、トイレ誘導のタイミングを変える」
という方針が決まったとします。
その場合、
- 夜間帯の介護記録に、「トイレ誘導の時間」「声掛けの内容」「見守り方法」などを記載する欄を一行追加する
- 夜勤者向けの申し送りシートに、今月の重点ポイントとして明記する
といった工夫をします。
ポイントは、
「会議で決めたことが、どの記録のどの欄に反映されているか」をはっきりさせる
ことです。
これが曖昧なままだと、「方針は決まっているが、誰も書いていない」という状態になり、加算の根拠としても弱くなってしまいます。
● ステップ③ 科学的介護情報システム(LIFE)は“一名・一項目”から始めてよい
LIFEにまだ慣れていない施設では、「すべての利用者分を一気に整えないといけない」と考えると、それだけで負担感が大きくなります。
現実的には、
- まず一人の利用者
- 一つの領域(例えば栄養、口腔安全、歩行能力など)
から始めて構いません。
小さくてもよいので、
- データを入力する
- フィードバックを確認する
- 委員会やカンファレンスで「この利用者の変化」を共有する
という流れを一度体験することが大切です。
たとえば、
「食事摂取量の低下が見られたが、食事形態と介助方法を見直したことで、LIFEのデータ上でも改善傾向が確認できた」
というエピソードが一つでも生まれると、職員の間に
「LIFEは現場のために使えるツールなんだ」
という実感が広がっていきます。
この“小さな成功体験”が、科学的介護推進体制加算や生産性向上推進体制加算を「やらされ感」ではなく「現場に役立つ取り組み」に変えていく力になります。
小まとめ ― 加算は「仕組み」で守り、「小さな一歩」で育てる
介護施設の加算運用は、制度ごとの細かい条件を見るととても複雑に見えますが、実務の視点から整理すると、
- 委員会で“何を変すか”を決める
- 記録に“どう変えたか”を書き残す
- 科学的介護情報システム(LIFE)で“変化を客観的に見る”
という三つの流れに集約されます。
一度に完璧を目指す必要はありません。
まずは、
● 月に一度の“ハブとなる会議”を決める
● 記録のどこに今月の重点ポイントを書くかをはっきりさせる
● LIFEは一名・一項目から始めてみる
というところからで十分です。
この基盤が整っている施設ほど、今後の新しい加算や制度変更にも柔軟に対応できるようになります。
次の連載では、ここで整理した「共通の土台」の上に立ち、個別の加算ごとの実務ポイントを、さらに深く掘り下げていく予定です。

