2025年の年の瀬を迎え、介護の現場に関わる多くの方が、この一年をどのように振り返っているでしょうか。
本シリーズは、これまで「介護保険制度と事業経営」を軸に情報発信してきましたが、今回から視野を広げ、高齢者介護に加えて障害者福祉も含む、介護・福祉業界全体を俯瞰しながら未来を読む羅針盤としてお届けします。制度や経営に限らず、現場で積み重ねられてきた実践や、その背後にある変化の兆しを丁寧に見つめ直す連載です。
2025年は、制度改定や報酬、DX、生産性向上といった言葉が例年通り語られましたが、現場の実感としては、何かが劇的に変わった一年というよりも、小さな変化が静かに積み重なった一年だったように感じます。本稿では、高齢者介護の現場と経営の双方の視点から、この一年を振り返り、「何が変わり、何が限界に近づいているのか」を整理していきます。
人材不足は「人数の問題」から「構造の問題」へと移った
2025年も、人材不足は高齢者介護の最大の課題であり続けました。ただし、その意味合いは以前とは異なります。単に「人が足りない」という状況よりも、人が定着しない構造そのものが、より鮮明になった一年でした。
採用を続けても数年で離職してしまう。経験を積んだ中堅職員に業務と責任が集中し、現場を支える人ほど疲弊していく。こうした循環は、もはや一部の事業所だけの問題ではありません。
2025年は、多くの経営層や施設長が、「個人の努力や気合では、この構造は支えきれない」という現実に静かに向き合い始めた年だったと言えるでしょう。人材の問題は、採用や処遇改善だけでは解決せず、業務の組み立て方や役割分担、判断を一人に背負わせない体制など、組織の設計そのものと深く結びついていることが、現場感覚として共有され始めました。
業務改善は「効率化」から「持続可能性」を問われる段階へ
生産性向上や業務改善は、2025年も引き続き重要なテーマでした。しかし、その捉え方には変化が見られます。単なる時間短縮や作業削減といった効率化だけでは、現場が本当の意味で楽にならないことが、多くの事業所で実感されたからです。
記録の簡略化やICTの導入、会議の削減といった施策は一定の効果を上げましたが、一方で、「なぜこの業務をしているのか分からない」「新しい仕組みが増えただけで、かえって混乱した」といった声も聞かれました。
2025年は、業務改善において 目的と意味を現場と共有できたかどうか が、取り組みの成否を分けた一年でした。改善の背景や狙いが丁寧に説明され、現場が納得したうえで進められた事業所では、取り組みが定着しました。逆に、上からの指示だけで進められた改善は、形だけが残り、負担感を強めてしまったケースも見受けられます。
ケアの質は「頑張り」だけでは守れないという認識の広がり
高齢者介護の現場では長く、「ケアの質は職員の努力で支えるもの」という前提がありました。2025年は、その前提に疑問が投げかけられた一年でもあります。
質の高いケアを提供し続けるために職員が無理を重ね、その結果として疲弊や離職が進み、かえってケアの質が不安定になる。この悪循環を、多くの現場が身をもって経験してきました。
2025年には、判断基準をチームで共有する、ケアの振り返りを個人の責任にしない、困りごとを言葉にできる場を設けるといった取り組みが、少しずつ広がり始めています。ケアの質を「個人の善意」に委ねるのではなく、仕組みとして支えるという考え方が、管理職やリーダー層を中心に浸透し始めたことは、今後を考えるうえで重要な変化です。
制度対応と現場感覚のズレが、より鮮明になった一年
2025年は、制度や加算への対応が現場にどのような影響を与えているのかが、これまで以上に見えやすくなった年でもあります。制度上は評価されていても現場の負担感が強い取り組みや、逆に現場で意味のある実践が制度上十分に評価されていない場面もありました。
こうしたズレに対して、「制度だから仕方がない」と受け流すのではなく、「どう現場に落とし込むか」を考え始めた事業所が増えてきたことも、2025年の特徴です。制度と現場の間に立ち、両者を翻訳する役割の重要性が、改めて浮き彫りになった一年でした。
2025年の高齢者介護が残した問い
振り返ると、2025年は派手な改革の年ではありませんでした。しかし、「これまでのやり方をこのまま続けられるのか」という問いが、現場のあちこちで静かに共有された一年だったと言えます。
人材、業務、ケアの質は、それぞれ独立した課題ではなく、互いに影響し合っています。2025年は、そのつながりを無視できなくなった年であり、高齢者介護が次の段階へ進むための土台が、少しずつ整い始めた一年でもありました。
小まとめ
2025年の高齢者介護は、大きな音を立てることなく、確実に転換点へ近づいた一年でした。人の問題を人だけの問題として扱わず、業務や仕組み、判断のあり方と結びつけて考える視点が、現場と経営の双方に求められています。
この一年で積み重なった気づきは、決して悲観的なものではありません。むしろ、持続可能な高齢者介護へ向かうための重要な土台です。明日の第2回では、同じ2025年を障害者福祉の視点から振り返り、高齢者介護と共通する課題と異なる文脈を整理していきます。
筆者より(来年に向けて)
2026年に向けて、高齢者介護の現場が「頑張り続けること」を前提とするのではなく、無理なく続けられる仕組みへと一歩ずつ移行していくことが、これまで以上に大切になると感じています。現場の実感を大切にしながら、来年も実践につながる視点を発信していきたいと思います。

