【働く女性×仕事と介護の両立支援】第6回:「家族だから当たり前?」の影で起きていること──家族・職場・社会の“見えない圧力”をほどく

10.仕事と介護の両立・介護離職防止

働く女性が仕事と介護の両立に直面したとき、負担を重くするのは、単に「費やす時間の長さ」だけではありません。先の見えない状況への不安や、常に気を張り続けなければならない状態そのものが、心身の負担を大きくしています。

見落とされがちなのは、口には出されにくくても、確かに存在している周囲からの役割期待という空気です。
「家族なんだから、あなたが見るのが自然だよね」
「会社に迷惑はかけられない」
「頑張れる人が頑張ればいい」

こうした言葉や空気は、露骨な命令ではないぶん、拒みにくく、本人の内側に入り込みます。結果として、介護離職や心身の不調につながりやすくなります。第6回は、働く女性を追い詰めやすい“見えない圧力”の正体を、誰でも理解できる平易な言葉で整理します。


家族の中にある「暗黙の役割分担」──“お願い”の形をした固定化

親や配偶者などの介護が始まると、家族は混乱します。だからこそ切羽詰まった状況のなかで「とりあえず対応できそうな人が動く」状態になっているはずです。ここで起きやすいのが、暗黙の役割分担の固定化(固定観念)です。

たとえば最初は、
「今日は病院の付き添いをお願いできる?」
という“単発のお願い”だったはずが、いつの間にか「毎回お願い」が常態化します。しかも、お願いされる側が女性であることが多い。これは能力差ではなく、これまでの家庭内の分担(家事・連絡・調整役)が影響しやすいからです。

特に負担になりやすいのは、介護そのものだけでなく、“周辺の調整”です。

  • 親の通院予約、受診の付き添い、薬の管理
  • 親族への連絡、説明、同意の取りまとめ
  • 介護サービスの情報収集、事業所との連絡
  • 急変時の対応、緊急連絡先の実質的な担当

これらは「見える作業」ではないため、周囲に伝わりにくく、「それくらいできるでしょ」と軽く扱われがちです。ですが、積み上がると確実に心身への負担が増加します。
働く女性が「仕事の合間や後にもう一つの役割(ケアの調整)」を抱える形になり、息がつけなくなります。


職場で起きる「自己抑制」──“迷惑をかけたくない”が支援を遠ざける

職場では、介護はまだ「見えにくい事情」があります。育児に比べて、共有される機会が少なく、話しづらい雰囲気が残っているからです。そのため、働く女性が最初に選びやすいのは、制度利用ではなく「自己調整」です。

たとえば、

  • 休みを取らずに早朝や夜に親の対応を詰め込む
  • 自分の仕事量を減らしてでも周囲に言わない
  • 通院の付き添いを有給で処理し、理由をぼかす
  • 介護休暇や介護休業の言葉を出す前に「辞める」を考える

こうした「自己調整」の背景には、「迷惑をかけたら評価が下がるかもしれない」「申し出たら扱いが変わるかもしれない」という不安があります。
そして一度“黙って調整できる人”として見なされると、周囲は問題に気づきにくくなります。結果として、限界が来た時にいきなり休職・退職になり、本人も職場も大きな損失を抱えます。

ここで大切なのは、「仕事と介護の両立支援」を受けることは自己都合の“わがまま”ではなく、介護離職防止のための一部だという認識です。支援が遅れるほど、本人の負担は増え、職場の調整リスクも増加します。


社会に残る「こうあるべき」像──“良い娘・良い妻”の期待が重なる

もう一つ、見えない圧力の土台にあるのが、社会に残る「こうあるべき」という期待です。
ここでいう期待とは、誰かが悪意を持って押しつけているというより、長い時間をかけて染み込んだ価値観が、無意識に顔を出すものです。

たとえば、
「娘なんだから、あなたが一番わかるでしょう」
「お嫁さんなんだから、気を回してあげて」
「仕事は代わりがいるけど、親は代わりがいない」

こうした言葉は、優しさや心配の形をしていても、受け取る側には「断りにくさ」として残ります。さらに、働く女性は職場でも家庭でも“ちゃんとしている人”と見られやすく、期待が積み重なります。
その結果、「頼まれたら断れない」「断ると罪悪感が強い」状態に陥り、仕事と介護の両立が“根性で耐えるもの”に変わってしまいます。

ここははっきり言えるのですが、両立は根性論で続けるものではありません続けるために必要なのは、本人の努力よりも、周囲の理解と仕組みです


見えない圧力に飲まれないための「実務的な守り方」

ここまでの話は、働く女性に「もっと上手に断ろう」と求めたいわけではありません。自己責任論にしてしまうと、構造は温存されます。
それでも現実には、これらの社会的圧力の中で仕事と介護を回さなければならない。そこで、実務的に“自分を守る”ための視点を整理します。

  • 介護の課題を「感情」ではなく「事実」で整理する(何が起きているか、頻度、必要な対応)
  • 家族の役割を“固定”ではなく“分担”として言語化する(誰が何を、いつまで、どこまで)
  • 職場には「困ってから」ではなく「兆しの段階」で共有する(突然の長期離脱を防ぐため)
  • 利用できる制度・支援先を、早い段階で確認する(地域包括支援センター、介護サービス、会社制度など)
  • 「休む/辞める」以外の選択肢を増やす(時差勤務、在宅勤務、短時間勤務、休暇の組み合わせ)

ポイントは、一人で頑張り続けることではなく、選択肢を増やすことです。選択肢が増えるほど、圧力は弱まります。


小まとめ──“当たり前”に見える負担を、当たり前にしない

働く女性が抱える負担は、介護そのものに加えて、家族内の暗黙の役割分担、職場での自己抑制、社会の期待という“見えない圧力”で増幅されます。
この圧力は、誰か一人の悪意ではなく、構造として生まれます。だからこそ、個人の頑張りだけでは解決しません。

働く女性が「家族か仕事か」ではなく、「どちらも大切にできる」選択を当たり前にできる社会へ。
そのために必要なのは、声を上げやすい職場、分担を話し合える家族、そして支援が届く仕組みです。今後もその視点を、丁寧に整理していきましょう。

(筆:ベラガイア17人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕

【働く女性×仕事と介護の両立支援】
第1回:介護離職の約8割は女性──働く女性を直撃する「親の介護リスク」とは?
第2回:介護離職を防ぐ3つの対策──働く女性のキャリアを守る「企業の必須アクション」
第3回:働く女性を取り巻く“ケア負担の偏り”とキャリアへの影響─社会構造から読み解く真の課題
第4回:就業・家事・ケアの「トリプル負担」が生まれる背景と“見えにくい現実”
第5回:非正規雇用・ひとり親・単身女性──立場によって変わる介護リスク


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