【働く女性×仕事と介護の両立支援】第2回:介護離職を防ぐ3つの対策──働く女性のキャリアを守る「企業の必須アクション」

10.仕事と介護の両立・介護離職防止

働く女性が直面する「親の介護リスク」は、いま企業にとっても避けて通れない重要テーマとなっています。
親の介護は40〜50代の女性に最も多く発生し、ちょうどキャリアの中核を担い始める時期と重なりやすいため、これまでに積み上げてきたキャリアが“急停止”してしまうケースも少なくありません。

総務省「令和4年就業構造基本調査」でも、介護・看護を理由に毎年多くの女性が離職している姿が確認されており、厚生労働省の調査でも長期的に「介護離職者の約8割が女性」という傾向が続いています。
さらに、令和8年改正の女性活躍推進法では、女性管理職比率の公表義務が拡大し、企業の責任が一段と強化される見通しです。

つまり企業は、
「女性を含む多様な人材を失わないための介護離職防止」=「女性活躍推進の基盤整備」
として両立支援を戦略的に行う必要があります。

本記事では、働く女性が介護に直面する前に企業が取り組むべき 3つの必須対策 を、実務者にもわかる形で徹底解説します。


■対策1:介護の“早期情報提供”──知らないまま直面すると、離職リスクは急上昇する

多くの人は、親の介護が始まるまで必要な知識を持つ機会がなく、特に介護の中心になりやすい女性は、その負担を一人で抱え込みやすいのが現状です。
いざ介護が始まると、

  • どこに相談すればいい?
  • 介護保険はどう使う?
  • 仕事はどう調整すればいい?

すべてが“初めての出来事”として押し寄せます。

この「知識の欠如(介護リテラシー不足)」こそ、介護離職リスクを上げる最大要因です。

企業側が事前にできる最強の対策は、
“情報の早期提供”=知識のプレゼント です。

▶企業が実施すべき「早期情報提供」例

  • 介護保険の基礎(申請方法、認定の流れ、利用できるサービス)
  • 地域包括支援センターなどの公的支援窓口の紹介
  • 社内の両立支援制度を分かりやすくまとめた「資料」の整備
  • e-learningや社内研修での年1回の啓発
  • 親の状況を「事前に話しやすい」社内風土の醸成

女性が「知っている」と「知らない」では、介護発生時の行動は別世界です。
企業が早い段階で介護リテラシーを高めることで、離職防止の効果は格段に高まります。


■対策2:相談窓口の“見える化”──働く女性が声を上げやすい環境を作る

介護と仕事が重なったとき、女性社員の多くは「職場に迷惑をかけたくない」と感じ、
ギリギリまで相談せず、結果として退職につながる ことがよくあります。

この“沈黙の期間”をなくすために企業がすべきことが、
相談窓口の“見える化”と制度の安心保証 です。

▶相談窓口の整備で必ず行うべきこと

  • 人事/上司/総務など窓口担当を明確にする
  • 社員に向け「相談しても不利益にならない」ことを明文化
  • 月1回の「両立支援相談日」を設定
  • 育児とのダブルケアに悩む女性からの相談ルートを分ける
  • 上司向け「支援的コミュニケーション研修」の実施

企業側が“相談しやすい雰囲気”を作るだけで、
女性社員は「辞める前に相談する」という行動に変わります。
相談行動の早期化は、そのまま離職防止の最も強力な要素です。


■対策3:制度の“使われる運用”──存在するだけでは意味がない

多くの企業が「両立支援制度」を整備していますが、実際に活用されているかが最重要ポイントです。
制度が“存在だけしている状態”は、現場では「使い方がわからない」「使いにくい」と感じられ、結局は形骸化してしまいます。

特に働く女性に必要なのは、日常の柔軟性を確保できる制度の運用です。

▶使われやすい制度運用のポイント

  • 在宅勤務の柔軟な利用
  • 時差出勤・短時間勤務との組み合わせ
  • 介護休暇・介護休業のスムーズな手続き
  • 急な呼び出し時の業務調整ルール
  • 事情を理解した上司によるマネジメント
  • 制度利用者への“不利益取り扱いの禁止”の明文化

制度の要は“運用”です。
制度が使いやすくなると、女性社員は必要な時期だけ柔軟に働き、長期的にはキャリアを継続できます。
企業にとっては、経験とスキルを積んできた女性のキャリアを守る重要な施策となり、優秀人材の流出防止にもつながります。


■まとめ:女性が辞めない企業は強い企業

女性の介護離職は、本人にとっては生活やキャリアの継続に深刻な影響を与えるだけでなく、企業にとっても大きな損失となります。
しかし企業が「備え → 相談 → 運用」という3つのステップを体系立てて整備すれば、
介護離職は確実に減らせます。

女性が安心して働き続けられる企業は、

  • 人材採用力が高まり
  • エンゲージメントが向上し
  • 管理職比率の改善にもつながり
  • 女性活躍推進法への対応も強化される

つまり、企業力そのものが高まるのです。


■企業が取り組むべき3つの対策(総まとめ・箇条書き)

【対策1:早期情報提供】

  • 介護保険・行政支援の基礎情報を定期的に提供
  • 社内制度の“資料化”
  • 介護リテラシー向上研修の実施
  • 親の状況を事前に相談しやすい風土づくり

【対策2:相談窓口の見える化】

  • 相談窓口(上司・人事)の明確化
  • 不利益取り扱い禁止の明文化
  • 両立支援相談日の設置
  • ダブルケア相談ルートの整備
  • 上司向け両立支援研修

【対策3:制度の使われる運用】

  • 在宅勤務・時差出勤の柔軟運用
  • 介護休業・介護休暇のスムーズな活用
  • 急な呼び出し対応ルールの明確化
  • 上司への“制度運用研修”
  • 利用者の不利益扱いを禁止

(筆:ベラガイア17人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕

【働く女性×仕事と介護の両立支援】
第1回:介護離職の約8割は女性──働く女性を直撃する「親の介護リスク」とは?
第3回:働く女性を取り巻く“ケア負担の偏り”とキャリアへの影響──社会構造から読み解く真の課題

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