■はじめに
地域包括支援センターや居宅介護支援事業所では、「一人で利用者宅へ向かう」場面が日常的にあります。
しかし、単独訪問は 支援の自由度が高い反面、安全リスクが大きい働き方 でもあります。
近年は、高圧的な態度・暴言・過剰要求・時間外連絡の連続など、
カスタマーハラスメント(カスハラ) に悩む包括職員やケアマネジャーが増えています。
本記事では、
“一人で訪問する専門職だからこそ必要な、現場で使える実践スキル”
に絞って詳しく解説します。
1.「何が危険か」を可視化する ― 単独訪問のリスク整理
単独訪問中のカスハラは、相手の感情変化や環境要因がそのまま“身の危険”に直結します。
まずは、リスクを 言語化 して整理できるようになりましょう。
●単独訪問に潜むリスク
- 相手との距離が近く、逃げ場がない
- 相手の情緒不安定さ(独居・複雑な疾患・精神症状)が強く影響
- 家族の介護疲れが怒りとしてぶつかる
- 1対1なので、職員の受け止め方にすべて影響が集中
- その場で助けが呼べない
特に、認知症・高次脳機能障害・精神疾患・服薬不安定 などの要因がある場合、
怒りの爆発や誤解・妄想による訴えが急に起きることがあります。
―上記の状態にある利用者に対しては、カスハラ対処ではなく、認知症ケアなど介護的側面からの対応が求められています。―
〈例〉「書類を盗んだだろう」「勝手に家に入った」「説明を聞いていない」
こうした誤解や被害的訴えは、疾患特性に伴うものであり、悪意とは限りません。
状況を正しく理解することが、初動対応を誤らない第一歩です。
2.初動対応の原則 ― 「火を大きくしない」ための会話と距離感
単独訪問では、感情のエスカレートを早期に防ぐことが最優先です。
●① 距離をつくる・座らない
部屋に入った瞬間、感情が荒れていると感じたら、
すぐに腰を下ろさず、出口に近い場所で対応します。
- 逃げ道を確保する
- 相手の動きが見える位置に立つ
- 反応を見て距離を調整する
●② 反論しない・否定しない
誤解に基づく言いがかりでも、
すぐに否定はNG。火に油を注ぎます。
- 「そう感じさせてしまったのですね」
- 「心配になりますよね」
- 「ご不安だったのだと思います」
まずは気持ちの受け止めを優先。
事実確認は必ず「落ち着いた後」に行います。
●③ 危険を感じたら、その場にとどまらない
評価ポイントは3つ。
- 距離が詰まってきた
- 物が手に届く位置にある
- 声のトーンが急に変わった
どれか1つでも当てはまれば、
「今日は体調が優れないようですので、改めて伺いますね」と撤退を最優先に。
室内にとどまる必要はありません。
あなたの安全が最優先です。
3.④ 記録を残す・必ず共有する
単独訪問だからこそ、記録はあなたの安全を守る最大の盾になります。
ここで重要なのは、
「公的記録」と「感情記録(手記)」の2種類を分けて残すことです。
◆1)公的記録:客観的事実を残す
支援記録・経過記録などの公的記録には、
必ず **「第三者が読んでも同じ状況を思い浮かべられる事実」**を残します。
- 発言(可能な限り原文)
- 時間・場所・状況
- 行動・表情
- 職員が行った対応とその結果
ここには主観を書きません。
説明責任・トラブル防止・行政連携に役立ちます。
◆2)感情記録(手記):あなたの“主観”を残すもの
こちらは目的が異なり、
あなたが主観で感じ取った危険・違和感・恐怖・身体反応を書く記録です。
例:
- 心臓が早くなり、手が震えた
- 声のトーンが急に低くなって怖さを感じた
- 「何か起こるかもしれない」と直感した
- 訪問後に強い疲労感が残った
- 明確に言葉にできない“妙な違和感”
これは“公的記録には残しづらい内容”を補うものとして非常に重要です。
スマホのメモ、ノート、手帳など、形式は自由。
あなたの体験を守る“内省用の手記”としてぜひ活用してください。
◆3)記録は必ずチームに共有する
記録(公的+感情)は、
一人で抱えずチームと共有することが絶対条件です。
- 担当替えや複数訪問が判断できる
- 管理者がリスクを早期に把握できる
- 包括・行政・医療との連携判断が早まる
- あなたの心理負担が軽減される
黙って抱える“ブラックボックス化”こそ最大の危険。
小さな違和感でも、共有することで守られるケースは本当に多くあります。
◆小まとめ
単独訪問のカスハラは、予測できない危険を秘めています。
その中で働く包括職員やケアマネジャーに必要なのは
- 危険を正しく見立てる
- 逃げる判断を迷わない
- 記録と共有で「一人対応」を絶対にやめる
という 3つの原則 です。
あなたの安全が守られてこそ、利用者の支援が続けられます。
一人で悩まず、チームで必ず分かち合ってください。
(筆:ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕)

