【介護保険最新情報Vol.1436】「介護保険施設等における事故予防および事故発生時の対応ガイドライン」解説

13.介護保険最新情報・ニュースまとめ

――すべての介護現場が実践できる“安全文化”のつくり方


事故を「防ぐ」から「減らす」へ

厚生労働省老健局は令和7年11月7日、「介護保険施設等における事故予防および事故発生時の対応ガイドライン」を公表しました。

これは、2012年に公表された旧「特養向けガイドライン」を全面的に改訂したもので、特別養護老人ホームなどの施設系だけでなく、通所・訪問・住宅系(有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など)も対象とする内容です。

ガイドラインの目的は、単に「事故をゼロにする」ことではなく、“防げる事故を組織的に減らす”ための実践手引きを示すことにあります。


1.リスクマネジメントは「介護の質」を支える仕組み

事故防止は業務の付属ではなく、介護の質そのものを支える要素です。
ガイドラインは「安全対策は経営課題」と明記し、法人・管理者・職員が一体で取り組む体制を求めています。

  • 管理者の役割:安全方針を策定し、責任者や委員会に権限・人員・予算を明確に与える。
  • 現場職員の役割:ヒヤリ・ハットを共有し、再発防止策を提案できる仕組みをつくる。

つまり、トップダウンとボトムアップを両立させたリスクマネジメント体制こそが、介護現場の安全文化を形成します。

キーワード: リスクマネジメント/PDCA/ヒヤリ・ハット/安全文化


2.「対策できる事故」に資源を集中

ガイドラインでは、発生頻度が高く再発防止策を講じやすい事故を「対策可能な事故」と定義しています。
主な対象は、転倒・転落、誤嚥・窒息、異食、誤薬、送迎・外出中の事故です。

それぞれに共通するのは、仕組みと教育によって発生率を減らせるという点です。

  • 定期的なリスクアセスメント
  • 標準手順書と定期点検
  • 全職員への教育と共有体制

一方で、「防ぎにくい転倒」などは存在するため、家族・本人への事前説明と合意形成も明示されています。

キーワード: 転倒・転落/誤薬防止/標準手順/家族説明


3.“利用開始直後”は最も事故が多い期間

ガイドラインでは、「入居・通所開始直後(おおむね1週間)」を特に注意すべき期間としています。
環境変化・生活動線の不一致・情報共有の不足が重なるため、事故リスクが高まるのです。

  • 情報共有の徹底:主治医・家族・ケアマネとの連携を強化。
  • 多職種による初期アセスメント:介護・看護・栄養・口腔・リハビリの観点から総合評価。
  • 居室・設備の調整:ベッドの高さ、段差、照明位置などを本人特性に合わせる。
  • 1週間観察体制:変化を逐次共有し、リスクの早期発見につなげる。

4.委員会・手順書・研修を「回る仕組み」にする

ガイドラインでは、単なる設置義務ではなく「機能する委員会」を重視しています。

  • 安全対策委員会:事故・ヒヤリ報告を収集し、傾向・原因・対策を分析。
  • 標準手順書:現場ですぐ使える形式に改訂し、常時閲覧できるようにする。
  • 研修計画:全職員参加を前提に、短時間・テーマ別で継続実施する。

これらをPDCAサイクルで繰り返し回すことが、安全文化の定着につながります。


5.認知症・重度要介護者への理解が安全の基盤

ガイドラインでは、認知症の行動・心理症状(BPSD)に起因する事故への理解を重視しています。

「徘徊」「離設」「異食」「拒否」などは、本人の意図や不安の表れであることが多く、
“問題行動”としてではなく、“心身のサイン”として理解することが出発点です。

  • 本人要因×環境要因の分析
  • 拘束に頼らない代替策の検討(身体拘束は原則禁止)
  • 家族との合意形成と説明責任

キーワード: 認知症ケア/BPSD/非薬物的介入/身体拘束禁止


6.介護テクノロジー活用の要は「目的の明確化」

ガイドラインでは、見守り機器や介護ロボット、ICT活用を推奨していますが、
「導入ありき」ではなく、目的・効果・運用責任を明確にした上での活用を求めています。

  • 見守りセンサー:離床・転倒予兆を検知し、夜間巡回の効率化。
  • 移乗支援機器:身体負担軽減と事故防止の両立。
  • 記録システム:ヒヤリ・ハット情報のリアルタイム共有。

テクノロジーはあくまで補助であり、職員の判断を支えるツールとして使うことが前提です。

キーワード: 介護DX/見守り機器/ICT共有/運用設計


7.事故発生時の「初動対応」と「再発防止」

事故が起きた際に重要なのは、迅速・的確な初動と透明な説明です。

  1. 安全確保と医療連携(救急要否の判断)
  2. 家族への連絡と状況報告
  3. 事実と推測を区別した記録
  4. 多職種による原因分析(本人・職員・環境の3視点)
  5. 再発防止策の策定と共有

さらに、法人としての説明責任損害賠償リスクの整理も欠かせません。
誠実な説明と情報開示が、信頼の維持につながります。


8.住宅系・通所系にも活用できる実践指針

本ガイドラインは、特養・老健などの施設だけでなく、
通所介護、訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホームなどにも適用可能です。

  • ショートステイ:短期間利用者への環境説明・習慣把握を徹底。
  • 住宅系:契約時にリスク説明と責任範囲を明確化。

多様な事業形態に合わせて柔軟に使える「安全管理の標準指針」として整備されています。


まとめ

今回の改訂版ガイドラインは、「事故を減らすための組織運営モデル」です。

  • 理念と方針を明示し、委員会・手順書・教育を連動させる。
  • 防げる事故に集中し、未然防止と再発防止の両立を図る。
  • 認知症や重度要介護者の特性を理解し、尊厳を守る支援を行う。
  • テクノロジーは目的と運用を明確にして導入する。

すべての介護事業者にとって、安全な組織体制を構築するための“共通言語”となるガイドラインです。

外部リンク
厚生労働省 老健局 高齢者支援課(令和7年11月7日発出)
「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」
(介護保険最新情報Vol.1436)
→ 全国の介護保険施設・通所系・居宅系サービス事業者を対象に、事故防止体制の標準化と再発防止の取組強化を目的として改訂された正式通知文書 。

「介護保険最新情報」掲載ページ(公式Web)
→ 最新情報Vol.1436を含む一連の行政通知を公開する公式プラットフォーム。各ガイドラインの改訂履歴、発出日、担当部署情報が掲載 。

(筆:ベラガイア17人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕

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