1.はじめに:いま「仕事と介護の両立」が女性にとって重大テーマになっている理由
「突然、親の介護が始まりました」
「急に実家へ帰る回数が増えました」
働く女性の相談で、このような声を聞く機会が増えています。
総務省「令和4年就業構造基本調査」によれば、
直近1年間で「介護・看護」を理由に前職を離職した人は10万6千人を超えており、介護離職者の多くが女性であることが明らかになっています。
(出典:総務省 統計局「令和4年就業構造基本調査」)
この数字は、「仕事と介護の両立」は女性のキャリア課題のど真ん中にあるという事実を示しています。
2.なぜ女性に介護負担が集中するのか?──背景にあるケア・ギャップ
「娘だから」
「長男の嫁だから」
このような“無意識の期待”や、“性別役割に基づく家族内の慣習”がいまも強く残っています。
内閣府男女共同参画局も、ケア責任(家族介護・家事労働)が女性に偏る構造的問題=ケア・ギャップを重要な社会課題として指摘しています。
女性に介護負担が集中する主な背景は、以下のとおりです。
(1)家庭内役割の固定化
親の通院・見守り・生活支援といった日常的介護は、“家族の中で一番時間が柔軟に見える人”に集まりやすく、結果として女性に偏りやすくなります。
(2)女性特有のキャリアライン
40~50代は、女性が管理職候補として活躍する時期と、親の介護が本格化する時期が重なりやすいという特徴があります。
(内閣府「男女共同参画白書」等でも同様の指摘)
(3)非正規雇用比率の高さ
女性は非正規雇用率が高く、「自分の仕事は休みやすいから」と介護を引き受けざるを得ない状況も多く見られます。
(4)介護制度・支援策へのアクセス不足
必要な情報(介護保険、地域資源、企業の支援制度など)が届きにくく、結果的に“見えない負担”が女性に蓄積していきます。
これらはすべて、個人の努力だけでは解決できない“構造的課題”です。
3.働く女性が「介護の始まり」で直面しやすい3つのパターン
総務省・厚労省の調査を踏まえると、働く人が介護に直面する場面には一定の傾向があります。
① 親の転倒・骨折からの突然の介護
「今日から同居が必要かもしれない」
そんな急展開が起こりやすいのが高齢期のけがや入院です。
② 認知症の初期症状
物忘れ・生活不安・金銭管理の不安など、“なんとなく変だ”と思っている間に、介護負担が急速に重くなることがあります。
③ きょうだい間の役割の偏り
「仕事が柔軟だから」
「近くに住んでいるから」
といった理由で、1人に負担が集中しやすい傾向があります。
いずれのパターンも、社員本人が“急に休みを取る”など職場へ影響が出るのが共通点です。
4.企業が気づくべき「初期サイン」
人事・労務担当者は、社員の次のような変化に注目してください。
- 遅刻・早退・休みの急増
- 実家へ帰る回数が目立って増える
- 「親の具合が悪くて…」と断片的に話す
- 表情・集中力の低下
- 業務のミスや抜けが増える
これらは、“介護の入口”に立っているサインです。
厚労省の「仕事と介護の両立支援対応モデル」でも、企業が最も重視すべきは「介護に直面する前からの支援」とされており、早めの声かけ・相談機会の提供が離職防止につながると明記されています。
(出典:厚生労働省「仕事と介護の両立支援」関連資料)
5.まとめ:女性の介護離職は“防げる社会課題”である
介護離職の75%が女性であるというデータは、日本の“構造的課題”の現実を映し出しています。
- 家族内の役割期待
- 女性のキャリアラインとの衝突
- 情報アクセスの不足
- ケア・ギャップの存在
- 職場環境の整備不足
これらは企業の取り組み次第で大きく改善可能であり、介護離職は防ぐことができます。
働く女性が「ひとりで抱え込まずに済む職場」をつくることが、これからの企業の競争力そのものにつながります。
参考リンク(公的機関の公式資料)
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