働く女性の多くが、「仕事・家事・家族ケア」の三つを毎日同時に担っています。
本人は“当たり前”のようにこなしていても、その負担の重さは、社会全体からは見えにくいものです。
特に、介護が加わった瞬間に日常は大きく揺らぎます。
「私がやらなきゃ」
「迷惑をかけたくない」
そんな責任感の強さゆえに、ぎりぎりの状態まで頑張り続けてしまう女性は少なくありません。
本稿では、総務省・内閣府・厚生労働省などの公的統計を手がかりに、負担構造をやさしく“見える化”。
数字が示すのは、働く女性が直面する現実は「個人の頑張り」では解決できない、構造的な課題であるという事実です。
1.就業率は上昇しても、負担は減っていない
総務省「労働力調査」によれば、女性の就業率は過去20年で大きく伸びています。
とくに30〜40代ではM字カーブが解消に向かい、多くの女性が働き続けられる社会になりつつあります。
しかし──就業率が上がっても、家庭内の家事・ケア負担が均等化したわけではありません。
内閣府「男女共同参画白書」では、女性の家事・育児時間は男性の約2〜3倍。
家事は毎日のことであり、休む日がありません。
「働き方を変えれば何とかなる」という性質ではなく、
日常生活の“地続き”として積み重なる負担が、女性の体力・気力をじわじわと消耗させていくのです。
2.家事労働と“ケア役割”はセットで生じやすい
家事時間が長い人は、家庭内の「ケア役割」を担う比率も高い傾向があります。
これは偶然ではなく、社会通念や家庭内の役割分担の慣習が影響していると考えられています。
たとえば、
- 子どもの学校・保育園連絡の対応
- 急な通院や体調不良への付き添い
- 親の通院サポート
- 地域の行事・親戚間の調整
など、“見えない負担”が日常の中に常に存在します。
これらはスケジュールに表れにくく、企業側からは把握しづらい領域です。
しかし、女性が仕事を辞めるかどうかの境界線は、こうした“些細な日常”に潜んでいます。
3.介護が加わると負担は一気に跳ね上がる
厚生労働省「国民生活基礎調査」では、要介護者を支える主たる介護者の多くが女性です。
介護は突発的で、予測も難しく、時間の読み通りに進みません。
典型的な例として、
フルタイム就業 + 家事 + 介護通院の付き添い + 夜間の見守り
という状況が発生し、実質的に「休息の時間」が消えます。
さらに厄介なのは、介護は「いつまで続くか」が見えないこと。
これが心理的負担を強め、離職リスクを押し上げる最大要因となっています。
4.“数字で見る”と、偏りの構造がより明確になる
女性のトリプル負担は、単なる個人差や偶然ではなく統計的にも偏りが確認されている現象です。
公的統計が示すポイントは以下の通りです。
- 家事・育児時間は女性に偏る傾向が続く
- 介護が発生すると女性の時間外負担が急増
- 男性の家事・介護参加が増えてはいるが、依然として差は大きい
- 家庭外支援(デイサービス・訪問介護等)を利用しにくい段階で女性が引き受けやすい
つまり、女性が「働きながら家族ケアを担う」現実は、統計的にも裏付けられた社会構造の課題と言えます。
5.企業が支援に動くと、女性のキャリアは確実に守られる
両立支援制度や柔軟な働き方の導入は、企業にとって“コスト”ではありません。
むしろ、熟練女性社員の離職を防ぐ大きな投資であり、組織の安定性を高める施策です。
重要なのは、支援制度を「使いやすい状態」に整えること。
- 相談窓口の明確化
- 介護休業・介護休暇の取得率向上
- 在宅勤務・時差勤務の柔軟運用
- 管理職への両立支援研修
制度があっても、周囲の理解が薄いと利用されにくく、実態として機能しません。
企業文化として「支援は当たり前」という空気をつくることが、女性のキャリアを守る最大の力になります。
小まとめ
女性のトリプル負担は、個人の努力ではなく構造で生じている問題です。
統計からその実態を見つめ直すことで、企業・社会・家庭のどこに支援が必要なのかが見えてきます。
【働く女性×仕事と介護の両立支援】
第1回:介護離職の約8割は女性──働く女性を直撃する「親の介護リスク」とは?
第2回:介護離職を防ぐ3つの対策──働く女性のキャリアを守る「企業の必須アクション」
第3回:働く女性を取り巻く“ケア負担の偏り”とキャリアへの影響─社会構造から読み解く真の課題
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