第5回 制度のすき間を埋める ― 支援の“抜け”を防ぐ地域づくり

11.地域福祉の実践ヒント

(シリーズ:現場で使える!地域コーディネーター実践ガイド)

地域で活動している社協職員・ケアマネジャー・地域支援コーディネーター・ボランティアの皆さん
日々の相談の中で、「この人はどの制度にも当てはまらない」「どこに相談すればいいのかわからない」と感じたことはありませんか?

今回は、そうした制度の“はざま”にいる人を支援するための考え方と実践のコツを、わかりやすく整理します。


1. 制度の“はざま”にいる人とは?

たとえば、介護保険の対象にならない高齢者、障害福祉サービスを受けるには軽すぎる方、生活困窮まではいかないけれど家計が不安定な世帯――。
そうした方々は、どの制度にも完全には当てはまらず、「支援が届きにくい人」になりがちです。

こうしたときに大切なのが、「断らない相談」の姿勢です。
最初から「それはうちの担当ではありません」と線を引かず、まず話を聴き、生活の全体像を一緒に整理していくこと。

たとえば、

  • 日中ひとりで過ごす時間が長く、不安を抱える高齢者には「通いの場」や「見守り活動」を紹介する。
  • 家計が厳しい家庭には、フードバンクや地域食堂など地域資源をつなぐ。
  • 家族関係に悩む方には、民生委員や地域包括支援センターに橋渡しする。

“小さな支援の糸口を切らさない”ことが、制度のすき間を埋める第一歩です。


2. 複合課題のあるケースでは「支援ルートの設計」を

高齢・障害・生活困窮・子育て――こうした複数の課題が重なるケースは、ひとつの制度だけでは支えきれません。
支援がバラバラにならないように、地域では「支援ルート(支援の道筋)」を設計していくことが大切です。

たとえば、

  • 健康や介護の問題 → 地域包括支援センター
  • 就労や家計の問題 → 生活困窮者自立支援制度
  • 住まいの不安 → 住宅確保要配慮者支援制度
  • 医療・通院 → 訪問看護・訪問診療

こうした制度を“線でつなぐ”役割を担うのが、社協やコーディネーターの皆さんです。
関係機関を集めてケース会議を開き、「誰が主担当か」「どこまで支援するか」「どんな期限で進めるか」を明確にしていくと、支援の重なりや抜けが減ります。

また、本人の気持ちを大切にしながら、“一緒に考える支援”を心がけましょう。支援のゴールを「制度を使うこと」ではなく、「地域で安心して暮らせること」と捉える視点が大切です。


3. 守秘義務と情報共有のポイント

支援が複数機関にまたがるとき、避けて通れないのが「情報共有」の課題です。
守秘義務を守りながら必要な情報を共有するためには、次の3つを意識しましょう。

  1. 目的を明確にして、本人に伝える
     「どんな目的で、誰に、何を伝えるのか」を説明し、本人や家族の同意を得ることが基本です。
  2. 共有は“最小限”に
     必要な情報だけを共有します。医療情報や住所など個人が特定される内容は、匿名化する工夫も有効です。
  3. 記録を残す・見直す
     いつ・誰と・どんな情報を共有したかを記録し、定期的に見直します。
     もし支援内容が変わったら、古い情報を更新し、関係機関に再確認を。

近年では、オンラインツールを使った共有も進んでいますが、アクセス権限の管理やログの記録など、セキュリティ対策も忘れずに行いましょう。


小まとめ

制度と制度の“すき間”を埋めるのは、最前線で住民と向き合う皆さんの「気づき」と「つなぐ力」です。
「この人をどう支えるか」を一人で抱え込まず、地域包括支援センターや社協、行政、NPOなどと協働して“チームで支える”体制を築くことが、支援の漏れを防ぐ最善の方法です。


外部リンク

包括的な支援体制ガイドブック(重層的支援を含む実践ガイド・2024年版)
 「断らない相談」「包括支援」の設計に役立つ最新の解説と実践事例が紹介されています。
 👉 https://www.mhlw.go.jp/content/houkatsuteki_guidebook.pdf

(筆:ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表 梅沢佳裕

💡この第5回の記事は、シリーズ全10回の折り返し地点。
次回(第6回)では、「これからの地域コーディネーターに必要なスキルセット」について、現場で使える具体例を交えてご紹介します。

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