—新任にも、管理者にも、迷わず動ける共通ルール—
夕方の申し送り直後。
「さっきの言い方、強く聞こえたかもしれない。意図は安全のためなんだ」――介護リーダー。
「私は少し萎縮しました。次は個別に教えてもらえると助かります」――新人。
どちらも“現場を良くしたい”という思いは同じ。だからこそ、何がハラスメントで、どう動けばいいかを、職員も上司も同じ言葉で共有しておく必要があります。
1|まずそろえる“3つの基礎”
介護現場で頻出するハラスメントは、この3種です(意図ではなく影響で判断)。
パワーハラスメント(パワハラ)
職務上の優位性を背景に、業務の適正範囲を超えた言動で就労環境を害するもの。
例)公開の人格否定、見せしめの叱責、過大/過小な業務の固定化、情報を渡さない など。
※「指導」は必要でも、場所・言い方・反復次第でパワハラになります。
セクシャルハラスメント(セクハラ)
性的な言動によって就労・サービス提供環境を害するもの。
例)容姿いじり、私生活の詮索、不要な身体接触、性的な画像共有 など。
※“冗談のつもり”でも、受け手が萎縮するならアウト。
カスタマーハラスメント(カスハラ)
利用者・家族などサービス受け手からの、著しく不当/過剰な要求・暴言・威圧・暴力。
例)「辞めろ」「担当を替えろ」の反復、契約外・時間外の強要、土下座要求、叩く/突く など。
※認知症や障がい特性が背景にあっても、職員の安全確保と組織対応は必須です。
2|事例は“犯人探し”ではなく、“改善の材料”にする
繁忙帯の指導がきつく響いたケース(架空)
入浴介助が重なりインカムが鳴り続ける中、上司は「手順Aに戻そう」と急いで伝達。新人は皆の前で“向いていないと言われた”ように感じて萎縮。
ここで分けたいのは、意図(安全確保)と影響(萎縮・不安)。次に備え、言い方と場を調整します。
- 上司側の言い換え(公開→個別・短文へ)
- ×「何やってる、向いてない!」
- ○「いまは手順Aに戻します。詳しい振り返りは後で1対1で」
公開の場では安全指示だけ短く、詳細は1on1に分ける。
- 職員側の伝え方(事実→影響→提案)
- 「さきほど声が大きく驚きました(事実)。次は個別に教えていただけると助かります(影響+提案)」
感情の前に見た/聞いた事実を置くと、話がかみ合います。
- 「さきほど声が大きく驚きました(事実)。次は個別に教えていただけると助かります(影響+提案)」
セクハラもカスハラも同様で、“意図”より“影響”。影響が害になっていれば修正する――これを共通言語に。
3|その場の温度を下げる“短い言葉”
即答せず、短く・丁寧に・はっきりと。人を増やす/場所を変えるだけでも効果があります。
- 「確認します。少しお時間ください」(即答を避ける)
- 「この件は責任者からご説明します」(個人対応をやめる)
- 「今の表現は業務に関係がありません。業務の話に戻します」(セクハラの一時停止)
- 「安全のため同席者を呼びます。少し間をください」(危険回避)
言い切りの形で短く伝える――それがディエスカレーションの第一歩です。
4|“記録”は攻撃ではなく、再発防止の道具
記録の目的は、後日の誤解を減らし、組織で判断・再発防止につなげること。主観を入れず、短い文で。
書く順番:
事実 → 相手の言動(原文) → 自分の対応 → 結果 → 次の対応 → 同席者。
記録例
- 2025/08/13 14:05–14:20 デイルーム北側。
- 家族B様。「辞めろ」を3回発言。机を手のひらで強く叩く動作3回。
- 私:「確認します」「責任者から説明します」と伝え、距離1m以上確保。責任者Cへ交代。
- 面談8/14 15:00設定。同席:職員D。
- 当面複数人対応。契約外対応の線引きを再説明。記録継続。
コツ:評価語(ひどい、悪質)は書かない。原文・回数・同席者名を入れる。
5|上司・管理者も守るための“先回り”
- 場所の工夫:注意は人目の少ない場所で。繁忙帯は安全指示だけ短く。
- 言い方の順番:事実 → 期待 → 支援(例:「今は手順Aで」「この結果を目指す」「私が確認に入る」)。
- 1on1の習慣化:週5分でも定例のフィードバック枠があると、繁忙帯の“強い言い方”が減ります。
- 窓口の一本化:家族対応は責任者窓口へ集約し、現場職員の個人対応を減らす。
- 初回説明の台本:できる/できない、連絡時間、窓口を同じ文言で周知。
6|セクハラ・カスハラにも同じ“型”で臨む
セクハラ
- 受け手が不快なら成立。
- 一時停止 → 同席追加 → 記録が基本。
- 上司は評価軸を明確化(容姿・私生活を話題にしない)。
カスハラ
- 「確認します/責任者からご説明します」で個人対応を終了。
- 契約外・時間外はルール提示+面談設定。
- 危険の兆候(声量・距離・手の動き)があれば距離・出口・ベルを優先。
7|“誤解”があった時の戻し方(会話例)
- 上司:「さきほど声が大きくなった。意図は安全確保。次は個別に伝える」
- 職員:「わかりました。私は驚きが残りました。1対1で手順を確認したいです」
意図を言語化し、影響を共有し、次のやり方を決める。それだけで、関係は前に進みます。
まとめ(今日のポイント)
定義は共通言語:パワハラ/セクハラ/カスハラは“意図”でなく影響で判断。
その場は短く整える:短い言葉、場の切替、同席追加。
記録して共有:原文・回数・同席者名。個人戦をやめ、組織で対応。