【介護のカスハラ】第4回:介護職のためのカスハラ防止策|職場全体でできる予防と現場での具体アクション?

ハラスメント防止対策

皆さん、こんにちは

ベラガイア17 人材開発総合研究所の梅沢佳裕です。

1・はじめに|「カスハラは防げる」という視点を持とう

これまでの記事で、カスタマーハラスメント(カスハラ)の実態や初動対応についてご紹介してきました。

ただ、いくら職員が頑張っても、「職場全体」がハラスメントに対して無関心であれば、被害は繰り返され、職員の心はすり減ってしまいます。

重要なのは、“現場個人の努力”に頼らず、組織としてハラスメントを未然に防ぐしくみをつくることです。

本記事では、カスハラを未然に防ぐための「制度」「契約」「チーム連携」の観点から、実践的な予防策をご紹介します。

2.カスハラ事例:就業規則に助けられた介護施設のケース

-登場人物-

●施設長:高田さん(50代、老健勤務歴20年)

●介護職員:中川さん(30代)

●利用者家族:Eさん(娘、40代)

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ある日、中川さんは入所者のEさん(要介護3)の食事介助を行っていた。その翌日、Eさんの娘が面会に来て、いきなり詰め寄ってきた。

Eさん娘:「昨日の夜、父が“ごはんを無理に食べさせられた”って言ってたんですけど!どういうことなんですか!?」

中川さん:「状況を確認してから対応させていただきますね。少しお待ちください」

(記録を確認後)

中川さん:「昨日は、ご本人が“食べる”とおっしゃったため、声かけと見守りをしながら介助しました。無理に食べさせることはしておりません」

それでも娘は感情的になり、大声で他の利用者にも聞こえるような口調で怒鳴り続けた。

その場にいた施設長・高田さんは落ち着いた声でこう告げた。

施設長:「E様。職員への威圧的な言動は、就業規則および利用契約に反する行為です。職員が安心して働ける環境を守るため、ご理解とご協力をお願いいたします」

この毅然とした対応で娘は冷静さを取り戻し、その後は謝罪。

カスハラはそれ以上エスカレートすることなく収まり、中川さんは「守られている」と実感することができた。

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3.カスハラを防ぐための制度的アプローチ

① 利用契約書に「ハラスメント禁止条項」を明記する

介護施設・訪問介護・デイサービス問わず、すべての利用契約において「ハラスメントを許容しない」旨を記載しましょう。

記載例:

・利用者および家族等が、職員に対して暴言・暴力・威圧的言動などのハラスメント行為を行った場合、サービス提供を一部または全部中止する場合があります。

この一文があるだけで、職員は心理的に守られますし、いざというときの交渉材料にもなります。

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② 就業規則やハラスメントポリシーの整備

職員向けの就業規則にも、カスハラから職員を守る姿勢を明記しましょう。

  • カスハラを受けたときは報告すること
  • 報告を受けた管理職は対応義務があること
  • 対応方針を法人全体で共有していること

これらが制度化されていることで、職員は「相談しても大丈夫」と感じ、離職を防ぐ一助になります。

4.現場でできる「具体アクション」

制度面だけでなく、日常の運営の中でもカスハラ予防に効果的な対策は多数あります。

① 利用者・家族との初回面談で線引きを

契約時に「できること・できないこと」「職員への配慮もしてほしい旨」をはっきり伝えましょう。その場で早見表やパンフレットを活用すると、トラブル防止に役立ちます。

② 掲示物で職員保護の意思を伝える

施設内・玄関に以下のようなポスターを掲示することも有効です。

「職員に対する過度に威圧する言動や暴力・無理な要求は、ハラスメントに該当します。安心して働ける環境づくりにご協力ください。」というような貼り紙。

視覚的に伝えることで、職員の立場を周知できます。

③ カスハラ発生時の対応フローを共有

誰が、どのように対応するか、事前にフローチャート化して全職員が確認しておきましょう。

【カスハラ発生フロー(例)】

  1. 職員が記録 → 上司に報告
  2. 上司が本人と面談し事実確認
  3. 必要に応じて、利用者・家族に対応(管理者が主導)
  4. 状況に応じて契約解除や関係機関と連携

このフローを職員全員で共有しておくことで、「自分だけが対応する不安」を軽減できます。

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5.「職員を守る職場」こそが人材確保につながる

近年、介護人材の確保は業界共通の課題です。
もし「この職場は守ってくれない」と職員が感じれば、離職は避けられません。

逆に、カスハラから職員を守る姿勢を明示している事業所には、以下のような好循環が生まれます。

  • 求人への応募が増える
  • 定着率が上がる
  • 職員間の信頼関係が深まり、業務の質が向上する

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6.まとめ|「守られている」と実感できる現場へ

カスハラを受けるかどうかは、職員の資質ではなく、「職場の制度と姿勢」で決まります。

  • 利用契約や就業規則に“職員保護”を明記する
  • 現場での線引きと説明を徹底する
  • フロー整備・掲示物で“守る姿勢”を可視化する

これらの取り組みを通じて、職員が安心して働ける環境をつくることが、ひいては利用者へのより良いサービスにもつながるのです。介護人材不足の時代に、職員はこうしている間にも精神を消耗し、退職を考えているかもしれません。早急なカスハラ対策が求められます。

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