「約束したことは守るべき」
「職員同士、協力するのが当然」
「利用者には丁寧に接するべき」
介護・福祉の現場では、こうした考えを大切にしながら仕事をしています。
ところが、自分が当然だと思っていることと、相手の行動が食い違うと、イライラや怒りが生じることがあります。
【この記事を読むと】
- 「べき思考」と怒りの関係が分かります
- 自分のコアビリーフに気づく方法が分かります
- 強い言い方や乱暴な言い方を防ぐ対処法が分かります
- 職員間や利用者対応で使える伝え方が分かります
今回は、アンガーマネジメントの基本となる「べき思考」を、介護・福祉現場の具体例から考えます。
「べき思考」がイライラや怒りにつながる理由
アンガーマネジメントでは、自分が大切にしている考え方や価値観をコアビリーフと呼びます。
その中でも、「こうするべき」「こうしてほしい」という考え方が、怒りに関係することがあります。
例えば、申し送りの時間に同僚が遅れてきた場面です。
「申し送りには時間どおりに来るべきだ」
そう考えている職員は、相手の遅刻に強い不満を感じるかもしれません。
一方、遅れてきた職員には、利用者の急な対応が重なった事情があるかもしれません。
怒りの強さには、出来事そのものに加え、自分がその出来事をどう受け止めたかが関係します。
「べき思考」は誰もが持っているものです。仕事上の責任感や大切にしている価値観にもつながっています。
ただし、自分の考えを相手も当然共有していると思い込むと、期待と異なる行動を見た時に怒りが強まりやすくなります。
介護・福祉現場で見られる3つの「べき思考」
1.職員同士は協力するべき
忙しい勤務中、自分だけが対応に追われていると感じることがあります。
「手が空いているなら手伝うべき」
「言われなくても気づくべき」
その気持ちが強くなると、「どうして手伝ってくれないんですか」と責めるような言い方になりがちです。
しかし、相手も別の業務を抱えている場合があります。
まずは「今、移乗介助が重なっています。こちらをお願いできますか」と、必要な協力を具体的に伝えます。
2.利用者は説明すれば理解してくれるはず
高齢者介護でも障害福祉でも、同じ説明を繰り返す場面があります。
「説明したのだから分かってほしい」
「約束したことは守ってほしい」
この期待が強いと、利用者が応じなかった時に感情の揺らぎが大きくなることがあります。
ただし、理解の仕方や意思の表し方には個人差があります。体調、認知機能、障害特性、不安、その時の環境も関係します。
本人の様子を確認し、伝える言葉、説明の方法、支援する時間帯などを見直します。
利用者の意思や選択を尊重しながら、本人に合った関わり方を考えることが基本です。
3.家族には支援内容を理解してほしい
家族から同じ質問や要望が続くと、
「前にも説明したのだから理解してほしい」
と感じることがあります。
しかし、家族は本人の生活や体調を心配し、繰り返し確認している場合もあります。
「前にもお伝えしましたよね」と返す前に、「どの点が一番気になっていますか」と尋ねます。
相手が何を知りたいのか確認すると、説明すべき内容も明確になります。
「べき思考」に気づいた時のアンガーマネジメント

自分の「べき」を言葉にする
怒りを感じた場面を振り返り、自分が何を期待していたか確かめます。
「時間を守るべき」
「頼まれた仕事は最後まで行うべき」
「報告はすぐにするべき」
自分の中にある「べき」が見つかったら、その考えを相手にも同じように求めていなかったか振り返ります。
相手の事情や状況を確認する
自分と相手では、経験や役割、優先していることが異なる場合があります。
例えば、報告が遅れた職員に対して「すぐ報告するべきなのに」と怒りを感じた時は、まず遅れた経緯を確認します。
そのうえで、緊急時の報告方法や連絡先を職員間で確認します。
安全に関わる報告義務や業務上のルールは守る必要があります。 相手の事情を確認することと、必要な指導を行うことは両立します。
反射的な言動を避ける
自分の「べき」と違う行動を見た時、怒りの勢いで相手に言い返すことがあります。
アンガーマネジメントでは、このような反射的な言動への対処を重視します。
声が大きくなる、語気が強くなる、相手の話を遮りたくなる。こうした変化に気づいたら、一度息を吐き、返答まで少し間を取ります。
そして、相手に何を伝える必要があるか考えます。
「何度言えば分かるんですか」から、
「前回も同じ確認漏れがありました。今回はどの段階で確認できなかったか、一緒に確認しましょう」
という伝え方に変えることもできます。
怒りを感じた時でも、必要な注意や指導は行えます。
「べき思考」と上手に付き合うために
介護・福祉職には、専門職として守るべき倫理や支援上のルールがあります。
利用者の尊厳を守ること、本人の意思を尊重すること、安全確認や報告を適切に行うことなどです。
一方で、「自分ならこうする」「普通はこう考える」という個人の価値観もあります。
怒りを感じた時は、専門職として守るべきことなのか、自分が相手に期待していることなのかを確かめてみましょう。
相手に改善を求める場合も、確認した事実と具体的な行動を伝えることで、強い言い方や乱暴な言い方を避けやすくなります。
まとめ
「こうあるべき」という考え方は、介護・福祉職の責任感や価値観にも関係しています。
ただし、自分の期待と相手の行動が食い違った時には、イライラや怒りが生じることがあります。
そんな時は、自分の「べき思考」に気づき、相手の事情を確認してから、必要な言葉を選びます。
自分の価値観を知り、反射的な言動を防ぎ、相手に求める行動を具体的に伝えること。
日々の利用者対応や職員間のコミュニケーションに生かせるアンガーマネジメントの実践です。
【次回の内容】
次回は、入浴拒否が続く場面を取り上げ、介護・福祉職の「べき思考」と感情への対処を考えます。
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